『「かっこいい」とは何か?』『サロメ』

平野啓一郎著『「かっこいい」とは何か?』、オスカー=ワイルド著、平野啓一郎訳『サロメ』を読んだ。

『「かっこいい」とは何か?』

著者の『三島由紀夫論』を読むにあたり、まず本書を読んだ。
本書は書名の通り「かっこいい」を論じており、その基準は「しびれる」という体感になるという。しかし、本書の面白さは「かっこいい」を論じるにあたり、著者自身がこれまでの作品やエッセイ、評論等で言及したきた三島由紀夫、マイルス=ディヴィス、ドラクロワ、ワイルド、ジャズ、ロック、モード等の多岐に渡る話題を扱っている点にある。2010年代中盤まで著者の話題をフォローしていたつもりだが、台詞を諳んじることができるほど映画「仁義なき戦い」が好きなことは知らなかった(平野啓一郎の「仁義なき戦い」論を読めるのは本書だけ?)。著者の思想は「分人主義」を論じた『私とは何か「個人」から「分人」へ』(2012年)にまとめられているが、文化論は本書が重要な役割を担っていると思う(「かっこいい」という観点からにはなるものの)。


『サロメ』

『「かっこいい」とは何か?』が面白く、同書でも論じられているオスカー=ワイルドの本書も読んだ。
本書は宮本亜門が舞台演出をするにあたり、格調高い旧訳の扱いが困難と考え、依頼を受けた平野啓一郎が現代語訳を手掛けることになったという。宮本亜門が演出した「サロメ」(2012年)の主演は多部未華子。
本書は聖書マタイ伝の領主ヘロデ王とヘロディアの結婚(近親相姦)を非難した洗礼者ヨハネ(本書ではヘブライ語表記の「ヨカナーン」)の斬首を題材としており、ヘロディアの娘のサロメがヨカナーンに恋するも拒否されたためにヘロデ王の前で踊る代わりにヨカナーンの首を欲して斬首に至るまでが描かれる。
私は国際芸術祭「あいち2022」でオペラのサロメをモチーフにした百瀬文「Jokanaan」を鑑賞して「サロメ」に興味を持った。「Jokanaan」は映像が左右2つある。左の映像ではモーションキャプチャーを付けた男性がオペラに合わせて歌い踊るように振る舞う。そして、右の映像ではCGの女性が男性のモーションキャプチャーのデータを元に歌い踊るように振る舞う。男性とCG女性が呼応しているように見えて呼応していない。高らかにオペラが歌い上げられるなか作品の理解に努めようと試みるものの、生身の男性の振る舞い、滑らかな質感のCGの女性がヨカナーンの首の血に染まる映像が先に展開してしまう。リアルタイムで作品の生成と事後を味わう得難い体験だった。

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