『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』

奈倉有里著『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』を読んだ。

本書は著者のロシア留学を綴った自伝的なエッセイ集となる。久々に読書の喜びを感じたお勧めの一冊だ。ロシアと文学の世界がまばゆく、時に薄暗く活写される。著者の文学に対する意欲的な姿を通じて、気が付くと読書や大学の講義に取り組んでいた若い頃のことを思い出した。本書に感化された捏造の記憶かもしれないが…

著者は高校時代からロシア語を自主的に学び、高校卒業後にロシアのペテルブルグに渡ったという。本書は著者がロシアに渡り、ロシア国立ゴーリキー大学を卒業するまでが、ロシアの詩、小説、歌謡曲等の紹介と共に描かれる。また、チェチェン紛争、ウクライナ情勢等、過去から現在のロシアの世情も描かれている。なお、著者は大学卒業後、東京大学大学院に進学しており、進学後は沼野充義を師事していたようである。

本書や「プーチンのユートピア」を読んでいるとロシアに関して語ることが恐れ多いと恐縮する。他方、文学や映画等を通じて一端に触れることならできるかもしれない。

アルカジー兄弟の作品を読んできたため、著者がボリス=ストルガツキー翻訳の芥川龍之介の「芋粥」を大学教授に紹介するところでニンマリした。