『〈盗作〉の文学史』

栗原裕一郎著『〈盗作〉の文学史』を読んだ。
本書は文芸作品に関する盗作事件を収集、分析、検証したものである。
それでは盗作と何なのか。著者によれば「「盗作」にしろ「剽窃」にしろ、いずれも俗語だから、明確な定義は持っていない。」という*1
もし明白な客観的な基準があるとすれば、著作権侵害が認められた時という事になる。
では、文芸作品における著作権侵害が認められた事があるのか。その答えは「無い」である*2
これは「文章における著作権侵害に対する司法判断は、一般通念をはるかに超えて基準が高い。」為である*3。例えば川端康成「雪国」の冒頭一文には著作権が無い―創作性を欠いている、と司法では判断されるのだ*4
では、文芸作品における盗作、剽窃、無断引用とは何なのか。それは私たちが作者のモラルを問題としているという事になる*5

明治時代の出版事情からなる盗作事件、プロレタリア文学の作家グループの盗作事件、ネットを端に発した盗作事件等、非常に面白くお勧めである。


〈盗作〉の文学史

〈盗作〉の文学史

*1:「盗作の文学史」p13より引用。

*2:本書によれば、文芸作品における著作権侵害判例は、山崎豊子大地の子』裁判と『春の波濤』裁判くらいしかない、らしい。

*3:前掲載p15より引用。

*4:本書では上記、山崎豊子大地の子』裁判と『春の波濤』裁判において著作権侵害について詳述されている。

*5:マスコミが盗作を話題にした時、その基準はマスコミによって設定されている。ネットが盗作を見つけた時、取り上げた者とそれを認めた者での基準が成り立っている。