2014年4月22日

霊能力を持った「ところてん」という女性にぞっこんの青年の話。彼は飽きる事無く彼女にアプローチする。それを嬉しくも煩わしく思った彼女は、恋が解ける魔法を青年に掛ける。しかし魔法を掛けてもたちまち目の前にいる彼女に恋に落ちてしまう。関﨑俊三「恋愛階段サヨコさん」のモンタージュ。夢が表象された素材の反復なら、世界のもう一つの可能性だ。夢の中での永劫回帰の実践。

満員電車で触れる人々の熱。彼らがベッドの上でその熱を絡ませ交換し合い、サーモグラフィー越しに射殺される。脂肪に取り囲まれた熱の芯が砕けていく。暗闇は朝日にその内幕を晒すのを待っている。

駅構内に立つ警官。腰にチラつく警棒、そして拳銃。菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール「戦前と戦後」、俺の祖父と祖母が銀座を出歩いた事があるだろうか?そもそも東京に出向いた事は?一つの場所に留まり終わる人生もある。父方の祖父母を見た記憶は無い。彼らは満州に居たことがあるという。満州では憲兵として働きそれなりに裕福な生活をしていたが、日本に戻ったという話だ。シベリア抑留満州引き揚げ。経験は無い。語りだけが微かに残されている。忘れるには十分な頃合だ。

ミシェル=レリス「幻のアフリカ」、割礼を行った少年たちのペニスに群がる蝿、レリスの夢、部品足らずで走る車、出版を想定した複数の序文、ダカールジブチ横断調査はその行程の半分を終えようとしている。類家心平 4 Piece Band「Sector b」、並行する旋律が迸っていく。

客先で書類を預かり事務所に向かう。陽光に照らされた新緑が眩しい。スケートボードアスファルトを駆ける男性。手を繋ぎ並ぶ母と娘と息子たち。季節は夏に向かう。

クライアント先の顧客から南国土産のチョコレート。頬張りながら、結局この歳まで外国に出向く事は無かったなと想う。沢木耕太郎深夜特急を初めて読んでから何年経っただろう?義務教育が終わればすぐにでもと考えていたが、今となってはこの有様、外国にひょいと出掛ける用意を失っている。その代わりとしてフランス人のアフリカ横断記を読むのだろうか?

金、金、金、念じても呟いても無駄、無駄、無駄。一億五千万円、宝クジの吊革広告。トイレで鏡に前髪の白髪を見つける。総白髪になるまでそう遅くないだろう。俯いて寝る女性たちに挟まれながら文字を打ち込む。

「そもそも、誰でもいいが―作家であろうとなかろうと―自分の内面を真摯に見つめながら、しかもたちまち途方もないニヒリズムにのめりこまずにいられる人がいたらお目にかかりたいものだ。」、ミシェル=レリスが「幻のアフリカ」に書き記している。