飛浩隆著『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』を読んだ。
仮想リゾート数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)。その区界に人間の情報的似姿を送り込み、その情報を脳に読み込み数値海岸での体験を得る…。
『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』は数値海岸の一区画である夏の区界が舞台となる。南欧の港街を模した夏の区界ではゲストである人間が途絶え1000年を迎えていた。AIたちはゲストの来ない日常を生きている。しかし、突如、謎の存在である蜘蛛たちが街を消し始めてしまう。AIたちは人間が途絶えた後に得た、区界に直接作用出来る硝視体(グラス・アイ)を用いて蜘蛛に立ち向かう。
『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』は、数値海岸の開発秘話、区界に人間が途絶えた大途絶(グランド・ダウン)の真相、『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』の蜘蛛の首謀者の過去等全5篇が収録されている。
『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』の夏の雰囲気、硝子体を用いての籠城戦、AIたちの仕組まれた役割=宿命の悲哀、ホテルが混沌に巻き込まれていく姿はグロテスク、夏の夜風の冷たさ、ああ久しぶりに読書らしい読書をしたなという感慨である。
一方、『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』の種明かしとも言える『ラギッド・ガール 廃園の天使Ⅱ』は数値海岸開発の経緯が描かれているのだが、人間の欲望の深さとおぞましさを淡々と感じさせる。直感像的全身感覚(見たもの全てを思い起こし再度体験する事が可能な感覚)を持つ醜い女性とその周辺の技術者の顛末、そしてAIたちを性的に搾取するという問題を扱った1篇も面白く読んだ。最近読んだSFを読む限り、少なくともAIの誕生と性は密接に繋がるだろうという見解をSF作家たちは指摘しており、「虚構内存在」はこういった問題への応答と言える。
『グラン・ヴァカンス 廃園の天使Ⅰ』の解説を著した仲俣暁生によれば「廃園の天使」シリーズは第3巻として「昭和50年台の日本の地方都市」というコンセプトの区界を舞台とした学園ものの長篇『空の園丁*1』が予定されているという。危うさと官能に満ちたこのシリーズの続刊は非常に楽しみである。
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*1:仮題