レスラー

 『レスラー』を観た。
 私はプロレスにはほとんど興味がない。プロレスを楽しめるには、教養だか懐の深さが必要だ、といった意見を聞いたことがある。だとしたら私にはそういったものがないのだろう。子どもの頃、父親は酒を飲みながら、テレビのチャンネルを回し、気が向いた時に地方の放送局でやっていたアメリカのプロレスを観ることがあった*1。Gジャンを着てバンダナをした何とかホーガンという男と、リングサイドの横で派手なレオタードを着た女性が映っていた*2。一応憶えているということは今思えばわりと興味を持っていたのだろうか…。ただし、その試合内容は全く思い出せない。
 『レスラー』は一昔名を馳せたプロレスラーが主人公だ。地方のプロレスに週末登場し、他の日はスーパーマーケットで裏方の仕事をしている。夜、家に帰れば家賃が払えず家に入れないため車の中で一夜を過ごしたりしている。家族関係も自分の不甲斐無さから良くないときている。
 そんな彼はある日、リングから意気揚々と引き上げてくると意識を失ってしまう。そして彼は自分の人生を見つめなおすことになるのだが…。
 最初にいったようにプロレスに全く興味はないので、その裏側が丁寧に描かれていることが興味深かった。リングに上がる前に試合相手と演出について楽しく算段したり、凶器に使えそうな備品を仲間と買い集めたり、筋肉を維持するために高い薬を購入したり…。
 自分の人生を見つめなおす、全くつまらない言葉だが、それはつまり一つの人生の黄昏がやってくるということだ。そして新たな生き方を見つけ出さなければならない。そんなことはなかなか出来るものはでない。反省で人生を変えられるなら、生きるのは容易だ。身に染み入った行動や考えは反省なんて思考を吹っ飛ばしてしまう。「悔い改めよ」全くスバラシイ言葉じゃないか!!
 主人公のプロレスラーは新しい生き方をしようと過去の生き方と格闘する。しかしそこにはプロレスのように脚本も演出もない。その格闘の末、彼がキメる必殺技「ラム・ジャム」はイカしてる。そう思う。そう思うしかないじゃないか、新しい生き方なんて出来ないのだから!!
 
 

*1:今思うと父親の酒の肴としてのテレビ観賞は結構いい趣味だったのかもしれない。大抵銃撃戦しかない映画なんか観て喜んでたが、今となっては私も似たようなものだ。

*2:ハルク=ホーガン:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%AC%E3%83%B3