短編ベスト10

スタニスワフ=レム著、沼野充義・関口時正・久山宏一・芝田文乃訳『短編ベスト10』を読んだ。

ポーランドのSF作家スタニスワフ=レムの短篇集。読者投票、編者、レムによって選ばれた短編十五作の内、十篇を邦訳したものとなっている。翻訳者の一人である沼野充義の解説によれば、本国版から除かれた作品は既に邦訳されており、以下がその作品になる。

  • 「サイモン・メリル「性爆発」」(邦訳「完全な真空」所収)
  • 「アリスター・ウェインライト「ビーイング株式会社」」(邦訳「完全な真空」所収)
  • 「泰平ヨンの未来学会議」(邦訳「泰平ヨンの未来学会議」所収)
  • 「アーサー・ドブ「我は僕ならずや」」(邦訳「完全な真空」所収)
  • 「マルセル・コスカ「ロビンソン物語」」(邦訳「完全な真空」所収)

以上の作品は本書同様国書刊行会から出版されている「完全な真空」、映画化により改訳版が再販されたハヤカワ文庫「泰平ヨンの未来学会議」で読める。
本書に収録されたのは以下の作品となる。カッコ内は作品の日本にて呼称されているシリーズ名となる。

  • 「三人の電騎士」(「ロボット物語」より)
  • 「航星日記・第二十一回の旅」(「泰平ヨン」シリーズより)
  • 「洗濯機の悲劇」(「泰平ヨン」シリーズより)
  • 「A・ドンダ教授 泰平ヨンの回想記より」(「泰平ヨン」シリーズより)
  • 「ムルダス王のお伽話」(「ロボット物語」より)
  • 「探検旅行記第一のA (番外編)、あるいはトルルルの電遊詩人」(「宇宙創世記ロボットの旅」より)
  • 「自励也エルグが青瓢箪を打ち破りし事」(「ロボット物語」より)
  • 「航星日記・第十三回の旅」(「泰平ヨン」シリーズより)
  • 「仮面」
  • 「テルミヌス」(「宇宙飛行士ピルクス物語」より)

どの作品も面白いのだが、なかでも印象に残ったのは「仮面」と「テルミヌス」である。
「仮面」は美しい女性の一人称となっており、中世を思わせる宮廷舞踏会の描写から始まる。ある男性との逢瀬が始まろうとするも、自身の中に蠢く感覚が発露すると謀反人を追い詰めるべく用意した殺人機械としての正体を現す。言葉そのまま人肌を脱ぎ、機械バッタが男を追い砂埃を挙げて疾走する。硬質な文体は格調高く難解であるものの、読み応えがある。
「テルミヌス」は宇宙飛行士ピルクスが古びた宇宙船で航宙中、船内で壊れかけたロボットを見つけ宇宙船が過去に遭遇した大事故の顛末を知るという、シリアスな作品となっている。