泰平ヨンの未来学会議

スタニスワフ=レム著、深見弾・大野典宏訳『泰平ヨンの未来学会議』を読んだ。

アリ=フォルマン監督が本作を原作に「コングレス未来学会議」として映画化している。映画を観たのだが、メタ的な視点やドラッグがもたらす幻覚をアニメーションで描く等面白い演出が為されているものの、結末等を鑑みると原作とは趣が異なった作品になっていると思う。タルコフスキーが「ソラリス」を原作の未知との接触というテーマを心理的な問題に引き付けた事態が、本作にも起きているからだ。

本作は題名の通り、泰平ヨンが登場するシリーズものの中編である。このシリーズは孤独な宇宙航海士泰平ヨンが遭遇したあらゆる出来事を描いたものとなっている。

破滅的に増大する地球の人口と食料危機等の問題を討議する為コスタリカで催された国際未来学会議。しかし会議の最中にテロ事件が勃発、軍が投下した覚醒剤爆弾の薬物によってヨンは西暦二千三十九年にコールドスリープから目覚める。目覚めた社会は、幻覚剤を服用する事であらゆる体験や知識を得る等、全ての欲望が満たす事が出来た。ヨンは軍が投下した覚醒剤爆弾の影響下にある幻覚だと思いつつ、この社会が現実なのだと認めるようになる。しかし薬物社会に嫌悪感を抱き、幻覚剤の服用を断つ。そして偶然再会を果たした教授から空気中に散布された薬物によって常に幻覚を観ている事を知らされる。教授から渡された覚醒剤を嗅ぎ周囲を見渡すと装飾が剥げ落ちた世界が姿を現すのだった。