芝生の上

空をまだら雲が覆っているものの久々の秋晴れだった。芝生の四方に「清掃作業中」の看板を立て、芝生内のゴミや石を拾いながら、ふと公園の隅に寝転がるスーツを着た男がいるのに気がついた。公園を溜まり場にしているホームレスは、清掃作業中の看板を立て始めると芝生から散ってどこかに行ってしまうものだ。公園の勝手を知らないサラリーマンや公園の「新参者」が芝生に取り残されてしまう事はままあった。少し面倒に思いながら、スーツを着た男に近づいて声を掛けた。
「すいません」
「はい?」
スーツを着た男はこちらの声に少し驚いたようで、慌しく上半身を起こして、こちら向いた。
「おくつろぎ中にすいません。実はこれから芝生を刈る事になっていて。申し訳ないですけど少しの間、芝生の外に出てもらってもいいですか」
男は声を聞きながら、少し笑いながら、
「すいません。ボーっとしていてわからなかったもので。そうか、芝刈りか。すぐどきますよ」
と言って男は立ち上がりながらスーツに付いた芝生をはたきながら話を続けた。
「いや、実は今日仕事を辞めたばかりでね。こんな事を人に話してもしょうがないのだけど。近くに公園があったの知っていたものだから、ちょっと寄ってみたんですよ、実際着てみたらホームレスばっかりで、ベンチも占領されてるし、仕方なく芝生に寝転がっていたんですけど」
男は聞いてもいないのに、一人で適当に話しを続けた。20代中盤位なのだろうか、巷で見かけるリクルートスーツを着た大学生に見えなくもない。
「公園の清掃か…、そういう仕事もいいかもしれないな」
スーツを着た男は呟きながら、芝生から去った。芝生には清掃作業員と芝刈り機しか無い。空をまだら雲が覆っているものの久々の秋晴れだった。