山口一郎著『実存と現象学の哲学』を読んだ。
本書は放送大学用のテキストとして出版されている。そのためラジオ放送で行われている講義によって補足されるものなのかもしれない。残念ながら講義は聴いていない。私はこの著者の『現象学ことはじめ』を適当に読んで現象学についての知識を得た。今回は適当な現象学の知識を埋め合わせるために手に取った。
著者はまず「出会い」について問う。結局どの「出会い」も私が勝手に持っている相手の感じでしかないのではないか。ブーバーやレヴィナスを引き合いに出し、この問題の方向性を探る。そしてフッサールの現象学について理解を深めながら、養育者と子の関係、脳科学研究を検討していく。
意識の明証性を基盤とした現在、そして現在を成り立たせる過去把持、そして未来予事、受動的綜合*1の理解が重要なものとなる。これは『現象学ことはじめ』でも丹念に説明されている。
養育者と子の関係から発展していく間身体性による共感、自他の区別についての説明から「出会い」の問いに対する答えが導かれる。こうも論理的に説明されれば、私の勝手な相手に対する思い込み、という考えも突破できる、はず。
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しかしここまでロジカルな説明が必要な人というのは、非常に酷な生き方なような気がする。そんな人には本書を差し出すまでもなく、なんとなくでいいんだよ、といってあげたい。もちろんそんな言葉で納得するような人ではないのだろうが。
しかし、こういう人文科学系の本について書くのは、非常に敷居が高い。
*1:カントの超越論的統覚も受動的綜合によって説明できる、らしい。