2015年3月12日~2015年3月22日

2015年3月12日
喫茶店に入る。目つきの鋭い不機嫌そうな金髪の男が座っており、その後ろでスーツ姿の男女が笑っている。トイレから出て来ると男はおらず吸い殻が二本程入った灰皿が置かれている。男はレジの前でコーヒーを頼み、財布から小銭を落としていた。席に着き、朝、電車の中で読み進めていた二葉亭四迷浮雲の続きに取り掛かる。

2015年3月13日
玄関を出て木々の下に積もった落ち葉に目を移す。ここに向かいの家の飼い猫が連日細い目で埋まっていたのだが、今日は居ない。

昨夜ふとフジファブリックのパッション・フルーツを口ずさんでいた。「夢の中であやかしパッション 君はまるでヴァンパイア」

John Lewis のピアノがやっと聴けるようになった。やはり何度も聴く事によってしか良さは判らないのだと思う。

故人の作家で打海文三がいるが、このペンネームは浮雲の主人公が由来だと判る。当の浮雲だが滅法面白く順調に読み進めている。

2015年3月14日
部屋の掃除をした後、二葉亭四迷浮雲を読み終える。未完とあって尻切れとんぼで、スワイプした先に読むべきものが無かったから思わず「あっ!」と声をあげてしまった。

ジムの帰りにラーメン屋に寄る。味噌ラーメンがうまいと既にネットでリサーチ済み。しかし営業時間に都合が合わず今まで来る事が叶わなかった。出されたラーメンは半熟卵が付いて見た目も良い。一口目のスープが繊細だなぁと感じたが、朝からまともなものも食べていないので、空腹のせいだったかもしれない。とはいえ一度ではもったいない店だとも思った。

ネットで見掛けたポテトサラダのレシピをなぞって夕飯を作る。味付けは醤油とマヨネーズが一対二、仕上げに胡椒といきたいところだが切らしていたので山椒を振る。温まったポテトサラダは口当たりが良く美味い。しかしポテトサラダはポテトサラダで、惣菜より美味である事以上の感慨は持ちようが無い。

横になって手を伸ばすと冷たくなったスマートフォンに手が触れる。スマートフォンを手繰り寄せ額の上に載せると、顔の火照りを金属が吸い尽くしていくのが判る。

2015年3月15日
午前中は眠ってしまい、午後から夕飯を食材を買いに出掛ける。Radiohead の Kid A を聴く。名盤だ。

コンビニで切れた煙草を買い吸っていると老人が使うキャリーカーの上にプードルが座っている。プードルはこちらを見ようともしないが、老婆が現れるとその顔を下から覗き込むようにしている。キャリーカーから降りるのか思いきや運ばれるのを待っているらしい。どこのお大尽だ、お前は。煙草の先まで吸おうとしていると背後から犬の鳴き声。大きめの柴犬にお大尽がちょっかいを出している。老婆はリードを握っていなかったから、キャリーカーから飛びついたと言う事だろう。老婆は力無くリードを引いて柴犬からお大尽を引き離そうとしている。

駅前でマンション販売のプラカードを持った男が立っている。昨日も立っていた。駅構内から出るとその男の前で三十を過ぎた女性が嬌声を挙げており、男はそれを見るともなし、プラカードを持ち続けた。

エスカレーターに乗っていると若い男女が、段差を利用してお互いの顔を向かい合わせて見つめ合っている。

姉の結婚式に向けて御祝義袋と筆ペンを買い求める。

酒屋から出て信号を待っていると向かいの通りを男女が歩いている。女は何か面白く無い事があったのか、男性の手を振り解いてしまう。男性が何か言い手を繋ごうとするが、すぐに振り解いてしまう。そのまま散歩がてら公園に寄ると若い男女が満面の笑みを浮かべて公園に入ってくる。片やスーパーの袋に夕飯の食材とウイスキーを入れた俺。仕方無く世界中で男女が幸せになるよう祈るしか無かった。公園のトラックでは青年たちが砂埃のなかサッカーの試合をしている。

神社の前を通り掛かると父とその娘が参拝している。賽銭を投げ娘が鈴を鳴らし手を叩く。乾いた音が境内に響く。

デュワーズのホワイトラベルの水割りを飲みハンバーグを作る。ウィスキーは全く飲み慣れていないが、酔いが好い加減にまわる。考えているのは平成ガメラシリーズの事。少しハンバーグに焦げ目を入れ過ぎたものの食べる分には全く問題無い。

気持ち良くなって眠る。そして夢を見る。HUNTER×HUNTERの世界らしい、ハンター試験をゴンが受けている。試験の内容はかくれんぼ。ゴンは小学校の茂みに隠れるものの、首の後ろにあるほくろで見つかってしまう。ゴンは完全な絶ではあからさま過ぎるのだとオーラの量を調節する必要性を痛感する。どうやらハンター試験は受けているけどもオーラの修行を既に行っているらしい。このかくれんぼのルールでは一度捕まっても仲間が助けに来た場合、もう一度挑戦する事が出来る。捕まったゴンは試験者から着替えの時間を与えられ草むらに移動すると、キルアが現れ「まだ期待しているからな」と語る。
校舎の中では別の試験が行われている。どうやらフラッシュ神経衰弱ともいうべきカードゲームらしく、冊子状になったトランプを一度一気にパラパラと捲って記憶し、実際に伏されたカードを捲り、冊子の頁と符合させるのがルールのようだ。神童らしい少年は間違える事なく完答するも試験に落ち、それなりに正解した中年の女性が試験に受かる。少年は何故だと疑問に思い、試験者は少年の父親の写真を取り出して私に見せる。「彼の父親の左目に違和感を憶えませんか?」よく見ると若干左目が小さいような気がする。トム=ヨークのように生まれつき瞼に障害を持っていると言いたいのだろうか?「違います。彼の父親の左目には緑色のコンタクトが嵌められているのです。」確かに解像度を挙げると薄らと緑色の反射が伺える。「彼の父親は緑色のコンタクトしている。唯正解すれば良いと言う訳では無いのです。」全く理屈になっていないにも関わらず、夢ゆえにそれは少年と俺を納得させる。

ウイスキーで頭痛がする。

2015年3月16日
目の前で天然自然の色黒の男女が戯れ始めた。仕方無く視線をモニターに移す。旅行会社がフランス旅行を勧めている。吊革広告もフランス、仏蘭西、France…どうやら車両が旅行会社のプロモーション用らしい。

Robert Wyatt の Different Every Time が沁みる。

Kindle堀辰雄風立ちぬを読み始める。どうやら俺はスマートフォンで小説を読む事に不快感は無いらしい。

2015年3月17日
事務所のビルのオーナーとエレベーターで一緒になる。「良い天気ですね。」「そうですね。花粉症とかは大丈夫ですか?」「私はアレルギーはあるけど花粉症は大丈夫なんです。」「そうですか。それは良かったですね。僕は今のところひどくなってはいません。」「お大事に。」「ありがとうございます。」

トラックの運転手がバナナを運転席で食べようとしている。皮を剥いたバナナをためつすがめつなかなか口に運ぼうとしない。

2015年3月18日
壽は「ことぶき」と入力して出力される。

喫茶店の窓の前で観光バスが止まり、小さなマイクを持った女性がジェスチャーをしながら言葉を継ぐ。それを聞いているのいないのか、座席の人々は窓からこちらを眺めている。檻の中にいる動物にでもなったような気分になる。

2015年3月19日
ジョジョリオンの新刊を読んだ。話には聞いていたが、クワガタ同士の戦いとスタンドによる心理戦しか描いていないにの、ジョジョの奇妙な冒険の真骨頂ともいえる面白さである。

堀辰雄風立ちぬを読み終えた。静かな話だった。

2015年3月20日
明日の従姉の結婚式にかこつけて休暇を取ったのだが、こたつで寝過ごし、その疲れの為に更に眠り、午前中を棒に振った。二階からステレオの低音が響いて来る。

外出すると制服姿の学生を多く見掛ける。年度末なのだから授業が朝から夕方までという訳では無いらしい。

ジムのモニターでテレビドラマのダイジェストを観た後、参議院予算委員会を眺める。おそらく長期政権を維持するであろう安倍政権共産党議員がオスプレイについて延々と質問している。次の議員が質問をしているところで、速報が入る。名古屋高裁が一票の格差について違憲判決を下したという。では、目の前で繰り広げられている出来事は何なのだろうか?そもそも昨日東京高裁は合憲と判決を下したのばかりなのだ。

御祝義の準備。筆ペンなんて握ったのは何年振りだろう。

母に連絡し御祝義の値段を打ち合わせる。しかし母は明日着物を羽織る為に既に従姉の母-母の妹にあたる訳だが-の自宅に居るのだという。そうとは知らず電話して御祝義の話までして申し訳無いと謝ると「別に問題無い。だって妹だもん。」と言う。

2015年3月21日
部屋の掃除の後、着替えて背広を羽織り外出する。

満員電車に揺られている。最近大手保険会社が「保険は冒険から生まれた。」という、挑戦を応援するという広告を打ち出している。なるほど、面白い広告だなと思うものの、保険の起源であるとされる紀元前ギリシャで起こった海上賃借が冒険と言えるものなのか、どうやらこの会社は冒険賃借が始まった十一世紀を想定しているらしい。またモラルリスクに対して徹底的に調査を行えるのかと考えれば…もちろん企業のリスクマネジメントは当然の事で、こう言えば道理に会っているだろう、挑戦する事とリスクマネジメントは両立するのだ、正にそれが「保険」だと。

姉の結婚式で家族が初めて揃う。おそらく十年以上振りに会う従兄は誰だかさっぱり判らなかった。四年振りに会った甥はとにかくよく喋り、面白いよと声を掛ければ延々と韻を踏んだ言葉を掛けられ笑うしかない。早熟なので今後苦労するだろうと姉が母親らしい心配をしている。もう一人の姉の夫婦はひっそりとやっていたが、披露宴で飲めない酒をちゃんぽんして悪酔いした夫が微睡んでいる。父親と従兄は披露宴で飲んだ挙句調子が上がり見ていて辟易する。肝心の従姉は久しぶりに会ったので正直誰だか判らない。しかし肝が据わっているようで衣装と相まって威風堂々。約六年の付き合いの末に結婚らしい。新郎新婦が時折微笑み視線を交わす。その仕種に二人が培って来た幸せの内実が溢れていると思う。

2015年3月22日
昨夜の飲酒による頭痛の余波か、早朝に起きる。仕方無くご飯を炊く。朝焼けと共にレトルトカレーとサラダを食べる。本を一章読み終え眠る。

晴れている。出掛ける気にもなれず日中去年のアメリカ版ゴジラについて考える。

昨日姉からは言葉遣いを、母からテーブルマナーを、従兄からは物事に対する態度を、写真撮影ではスーツの前ボタンを締めるよう、指摘された。最後のは蛇足だが、なかなか親戚というのは遠慮無く指摘してくれるので助かるものである。毎日ならウンザリするが。

神前式の前に待機時間があり境内内の建物の寄贈本を義兄と物色したところ、保守系政治家の自費出版本、保守系論客の著作等が多く見つかった。こりゃ駄目だと出版物に詳しい義兄が言う。そういう義兄と姉は、おそらく姉の意向だろうが、神前式を行っている。教会では無く厳かに神前式を行いたい、そう思う人は少なくないようだ。しかしこういった場所を懇意に支援するのは保守系政治家なのだろうとも思う。