2015年3月7日

コタツで寝ていた。外から雨音が聞こえる。気がつけば早朝だった為、仕方無くシャワーを浴び、昨日の穢れを落とす。

何故か、生徒たちなのか、直立した丸太に腰かけ背筋を伸ばしポージングを決めている。その後ろに並んでいると複数の女性たちが集まって来る。どうにも馴れ馴れしいが、旧知の仲らしい。その女性の一人は大学の同期の女性に似ているものの、違う顔をしている。そして何故か彼女は「セクシー」を名乗った。更に幾つかの夢が瞬いたような気がする。

結局のところ丸太は性器であり、それにエクスタシーを覚える女性の暗喩は、暗喩にさえなれず、セクシーという具体的なものになって現れたといったところだろうか。

コンビニで煙草と朝食を買う。二つのコンビニで働いているであろう、よく見掛ける女性に「どうぞ」と声を掛けられ、煙草の銘柄を告げる。番号は商品に隠れて見えず、覚えてもいない。すると女性は煙草の棚を振り返り視線を彷徨わせる。俺は視線を煙草の方にやり青いパッケージですと告げると、女性は視線の先を追い煙草を取り出す。「あまり求められないものなので」と彼女がさして気にしていない顔で言い訳したので「いいえ」と応える。

食事後、横になると知らぬ間に眠ってしまう。

扉を叩く音がする。ガス会社だと告げたのを聞いて、以前、何度かの訪問と、都合の良い日に連絡するよう促した紙がポストの中に放り込まれていた事を思い出した。声のよく通る青年は名刺を渡し機器の点検を始めた。俺は仕方無く目覚めの煙草を吸ってそれを眺めた。そもそもガス機器に不調があったなら煙草の火種が俺を包むだろう。青年はマニュアル通り、仕事をしているのが明らかになるように、点検してくれた。わざわざコンロを少し動かして懐中電灯を使うのは少し滑稽でもあった。そして風呂場の給湯器を点検する際に靴下が濡れるのは気の毒だと思った。腰に下げた検知器はガス漏れが無い事を知らせたらしい。タブレットに慣れないサインをすると彼は冊子を渡し幾つかの質問をした。俺は適当に答えていたが「押入れなどに閉まっているガスを利用する機器はあるか?」という質問の意図はよく判らなかった。あったとしてそれが何を意味するのだろうか?

PCで電子書籍が読めるようになったので最近気になっていた二葉亭四迷浮雲をダウンロードして、スマートフォンのアプリと同期させる。言文一致体で初めて書かれたというこの小説は、夏目漱石から村上春樹ノルウェイの森まで連綿と続く、三角関係の物語だと加藤典洋は言うのである。初めの何行かを読み進めたが堅苦しくなかなか骨を折りそうだと思った。

ジムに出向く。男がひたすらシャドーボクシングに励むのを眺めながら、ゆっくりと身体の筋を伸ばしていく。身体中に痛みを感じながら、しかし更に痛みを引き延ばし、痛みを維持する。モニターでは開幕したJリーグと競馬を交互に眺める。その後、戦力外通告された野球選手を特集した番組を眺める。ドキュメントと言うには、余りに絵になり過ぎたアングルからの撮影があり、そんな撮影に協力する彼のプロ意識とかプライドは所詮その程度で、唯のお金欲しさでは無いか。そんな穿った考えが頭をよぎるものの、これも含めて、人生はそう上手くいかないという教訓になる話だった。

扉を叩く音が聞こえる。いつもなら無視するところだが、朝の事もあり応答してしまう。新聞屋ですと中年の男の声が聞こえる。扉を開ける事無く、必要ありませんと応える。

平野啓一郎の透明な迷宮の再読を進める。