ロシア映画傑作選

シネマヴェーラ渋谷の特集「ロシア映画傑作選」にて『殺し屋』『エレジー』『ピロスマニのアラベスク』『炎628』を観た。
『殺し屋』『エレジー』『ピロスマニのアラベスク』は短編、『炎628』は長編である。


  • 『殺し屋』

原作はヘミングウェイの同名短編小説。タルコフスキーが学生時代の課題の為に仲間とつくったものとの事で、自身も出演している。
映画祭に赴いた理由はこの映画を観る為であったが、結局お金が惜しくなり、そのまま3作品を観続ける事になった。

街の食堂に殺し屋が二人やってくる。食堂に夕食を取りに来るスェーデン人を殺す為である。客と料理人は捕らえられ、殺し屋の言う通りに尋ねてくる客を追い払う主人。スェーデン人は結局来ず、殺し屋は退散する。解放された客は主人に従い、スェーデン人に殺し屋が訪れた事を知らせる。しかしスェーデン人はどうにもならない事だと無気力に応える。そして客はこの町を去る事にしたという。
スェーデン人の諦念と町を出るという客の過剰さがタルコフスキーらしく面白いと思った。


  • 『エレジー』

観ている時は全く知らなかったが監督はアレクサンドル=ソクーロフ。
ロシアオペラ界の伝説のバス歌手シャリアピン。彼は国外公演を許可され、その後祖国に戻る事は無かった。彼の遺骨がフランスからモスクワに移され、彼の親類縁者の食事を映しながら、シャリアピンの残されたドン・キホーテを演じる姿等が挿入される。
という事も判らずに観たので面白くも何とも無かったのだが、判らなくても祖国に帰らなかった男の悲しみ、ノスタルジアを感じる事が出来るのがこの映画の素晴らしさか。


セルゲイ=パラジャーノフ監督作品。独学の天才画家ニコ=ピロスマニの作品を扱った映画である。
というのも知らず観たのだが、ピロスマニの絵画を映し出す映像にはグロテクスさがある。特に絵画の目、人の目、動物の目は生贄に捧げられた供物かの如くである。
その絵画を彩るかの如く晴天の草原で踊る女性は美しく、しかし、その白い肌と微笑みは、絵画から飛び出したその人、かのようだ。


  • 『炎628』

エレム=クリモフ監督作品。
第二次世界大戦白ロシア(現在のベラルーシ)にてナチスに住民共々燃やされた村の数は628に及ぶという史実を元にした映画。
ある少年は村に埋められた銃を見つけ出しパルチザンに参加する。しかし少年は置いて行かれ少女と共に空爆を逃れながら村へ戻る。しかし村人は皆殺しにされていた。発狂した少年は村を飛び出す。そして少年は生きたまま焼かれた村人から「パルチザンに参加した者がいたから皆殺された」と聞かされショックを隠せない。逃げ延びた人々の食料を探しに男たちと他の村へ向かうもナチスの攻撃に遭う。ある村に逃げるも、やはりナチスが現れ、村人たちは小屋の中に押し込められる。一人小屋から抜けだした少年はナチスが小屋に火を放ち、手榴弾を投げ込み、銃火器を放つ姿を呆然自失で見守る。しかし、そのナチスたちもパルチザンに攻撃され、生き残った兵士たちが詰問されるのだが…。

どうやらこの映画は村人の虐殺シーンが有名なようなのだが、そこも含めて物語の終盤、悪の所在を見つけようと少年がハーケンクロイツからヒトラーその人へ遡るシーンが素晴らしい。そして少年がこらえられずハーケンクロイツに対して銃を打つ姿は空しい。