タクシー運転手の証言

深夜、環状7号線〜NHK〜渋谷駅前スクランブル交差点
「すいません、こんな遅い時間に。渋谷駅まで行って貰っていいですか」
「はい、かしこまりました。渋谷駅というとハチ公前でよろしいですか」
「はい、かまいません」
「それじゃ、ここだと反対方向だから、メーター下げとくんで、良いところに出たらメーター上げますね。無線がきたら申し訳ないけどメーター上げさせて貰いますから」
「わざわざすいません…」
「それじゃ、ここからメーター上げますから。ああ、この時間にお客さんですか。そうですね、最近はあまりお客さんをこの時間に拾う事はありませんね。終電が終わった時刻だから拾う事もあるといえばあるんだけど、昔程じゃありません。特に今はね、飲み屋とかそういうのも、交通費出すの渋るんですよ、だからね、始発が出るまでお店に待機するようにしているみたいでね、私たちとしては商売上がったりですよ。でもまぁこういうご時勢ですから文句もいえませんよね。タクシーの運転手も機械化というか、ナビで走行時間とか管理されていてね、長時間労働も出来ないようになっているですわ、会社によって違うと思うんですけど、タクシーの運転手はタクシーの一部という扱いですね、今お勧め出来る仕事ではありません。そうですね、確かにお金を持っているおじさんとか…実際お金を持っているかわかりませんが、もう酔いがまわっているおじさんが部下っぽい女性を連れているとね、終電が無い時なんかは一万円を握らせている時なんかありますよ、もちろん女性の方もいらないですからとか遠慮はしているですけどね、そんな感じで男性が途中で降りて、女性だけになるとね、「まだ終電があるんで、駅まで行って下さい」とか言われて駅まで送った事がありますよ。その一万円を男性に返していないんじゃないですかね。中にはね、タクシーに数人の女性を乗せて一緒に横浜と所沢と迂回して馬鹿みたいにお金を払う人もいるんですよ、自分だけ途中で降りて、「運ちゃん、任せたよ」とか言っちゃってね、別々に送ればもっと安く済むのに、わざわざ一台のタクシーで回らせるんですよ、すいません、このまま環七を通って行きますか…そうですか、ちょっと曲がって行きますか。
そうですね、私はあまり芸能人の方とか乗せる事はないですね、たまに芸能人の卵の方を乗せる事はありますが、「すいません、お金無くて」と言ったりしてね。ただね、私の先輩なんかだと有名女性アナウンサーの方を乗せた事があるらしく、すごい態度が悪かったりしたらしいです、小さい声で目的地を行って、間違うと怒鳴ったりね、そういう事もあるらしいです。そうですね、タクシーがアナウンサーの出待ちをしているというのは、ないんじゃないかな…確かフジテレビさんとかでは、アナウンサーさんとか送り迎えするタクシーがあるような気がしますね、場所が場所ですからね。お客さん、話は変わるんですけどね、ちょうど今NHKの前を通り過ぎましたけど、NHKのタクシーの出待ちはね、日によってタクシーのナンバー下一桁の番号が決まっているって知ってましたか。そうなんですよ、下一桁のナンバーが1の日とか4の日と決まってて、他のナンバーのタクシーがNHKの敷地に入れないようになっているですよ。先程も見えたと思うんですけど、タクシーが並んでいたでしょ、昔はもっと並んでいてね、NHKの敷地を飛び出して道路に延々とタクシーが並んでいたんです。もちろん、並んだ方が昔は儲かったんですよ、今はさほどですけどね、でね、何で下一桁の番号が決められていたかというと、深夜に某大物先生がね、NHKの前に延々と並んでいるタクシーを見て疑問に思ったんでしょうね、けしからんという事でね、NHKの出待ちタクシーに規制をなさったんですよ、まぁそういうのがあるんです…。そうだな、そういえば中曽根さんを乗せた話がありましたよ、その時は私用だったらしくて奥さんも、ボディガードの方も一緒でしたね、ボディガードの方は助手席に乗ってね、奥さんと中曽根さんは後ろに乗ったんです。自宅まで送ってくださいという事でね、確か目黒辺りにご自宅があったんじゃないですかね。どうやらご友人のパーティーに行っていたみたいですよ、その時は。でね、中曽根さん、もうその時はお歳召していらしゃってタクシーに乗りながらここはどこだという訳ですね、ちょうどその時は駅の辺りでね、奥さんが「これはあなたが民営化なさったJRですよ、自宅の近くの駅ですよ」と答えてらしてね、ね、思わず笑っちゃうでしょ…。
どうしましょう、ここでお降りになりますか、そうですか、お疲れ様でした。レシート御必要ですか、はい、はい、ありがとうございました」