2020年4月の音楽

Lazar Berman『Liszt:Années de Pèlerinage』

Liszt: Années de pèlerinage

Liszt: Années de pèlerinage

  • ラザール・ベルマン
  • クラシック
  • ¥2241


Yumiko Morioka『Resonance』


Masayasu Tzboguchi with Marty & Masato『 α Station Jazz Week Program』


Masayasu Tzboguchi & Hiroki Chiba『Soundscape of Electronic and Acoustic』

Masayasu Tzboguchi TRIO『Autumn in Tokyo』


Masayasu Tzboguchi & av4ln『Improvisation on December 7, 2019』


Daysuke Takaoka『GYRO』

2020年3月17日/令和2年の水曜日

長野県での仕事を終え、予定通り直帰することにした。帰りに一度行ったジャズ喫茶に寄ることにしたが、最寄駅の路線である西武新宿線が人身事故で停まっていることを知る。
新宿でミッドサマーでも観るべきかと上映時間を確認するとディレクターズカット版まで上映されていた。ディレクターズカット版を観るべきか等と考えていると制服姿の高校生と私服の中学生が電車に乗り込んで来た。イヤフォン越しに会話が聴こえ、ふと、その中の1人と目が合った。何の感慨も無さそうな目にも関わらず、私はそこに憐れみを読み取れそうな気がした。一方で私も若さ故の奢りに苦虫を潰しつつも羨望の眼差しを送っているのではないかと思われた。

中学生の前の座席が空き、互い互いに席を譲り合っている。池袋駅に到着すると空いた座席に中学生たちが座り、目が合った高校生が「座れねえのかよ」とぼやく。スマートフォンの中では半年間鍛え上げられた戦士たちが戦いに明け暮れている。よく見ると私と同じように電車に乗ってゲームを起動させている人がいるらしい。強敵を倒した彼が表彰台に登るのを2回見ることになった。

高田馬場駅を過ぎる。

新宿駅で中央線に乗り換え、中野駅を目指すなか、会社の携帯電話が鳴る。携帯電話を見ると客先からだった。今日何度も電話を掛けているが、担当者と未だに話すことができていない。鳴り続ける携帯電話を片手にうんざりする。中野駅で電車を降り、電話をかけ直したところ、やはりうんざりする内容だった。

溜め息をつきながら喫茶店を目指す。気分を変えようと思う。音楽を聴けば気分が変わる。気分が変わっても明日に待ち受ける現実が変わる訳では無いことは判っている。

2020年3月の音楽

Stefano Battaglia Trio『In The Morning - Music Of Alec Wilder』

In the Morning - Music of Alec Wilder

In the Morning - Music of Alec Wilder

  • Stefano Battaglia Trio
  • ジャズ
  • ¥1630


Oded Tzur『Here Be Dragons』

Here Be Dragons

Here Be Dragons

  • Oded Tzur
  • ジャズ
  • ¥2139


Jeff Parker『Suite for Max Brown』


Javier Areal Velez,Ryoko Ono『NEWDUO series 016』


Shuta Hiraki『Voicing In Oblivion』


Uchihashi Kazuhisa, Ono Ryoko『Loop Heaven』


Charles Rumback『Cadillac Turns』


Akiyama / Field / Vidic『Interpersonal Subjectivities』


rakish『Drifting Sands』


Nine Inch Nails『Ghosts V:Together』


Nine Inch Nails『Ghosts VI:Locusts』


Nik Bärtsch's Ronin『Randori』


Chicago Underground Quartet『Good Days』

2020年2月の音楽

Julian Lage『Love Hurts』

Love Hurts

Love Hurts

  • ジュリアン・レイジ
  • ジャズ
  • ¥1528

Masayuki Takayanagi『Lonely Woman』

ロンリー・ウーマン

ロンリー・ウーマン

猪居亜美『MEDUSA』

MEDUSA

MEDUSA

  • 猪居亜美
  • インストゥルメンタル
  • ¥2241

Avishai Cohen『Into The Silence』

Into the Silence

Into the Silence

  • Avishai Cohen
  • ジャズ
  • ¥1630

2020年1月の音楽

Flying Lotus『Flamagra』

Flamagra

Flamagra

  • フライング・ロータス
  • エレクトロニック
  • ¥1528


Flying Lotus『Until the Quiet Comes』

Until the Quiet Comes (Japanese Edition)

Until the Quiet Comes (Japanese Edition)

  • フライング・ロータス
  • エレクトロニック
  • ¥1528


Plastic Dogs『GROWL』


Антон Пономарёв(sax), Ryoko Ono(sax)『NEWDUO series 015』

2020年1月9日/2019年の出来事

夏の終わりの夕立。アメダスの動きを確認して帰り時間を決める。

台風19号の通過後、減量の為に運動と食事制限を始める。

橋の上で語り合う男女をランニングの往路と復路で見掛ける。この男女にとって秋の夜の橋の上の出来事は長く短い人生にどんな意味を持つことになるのだろうか?

公園の広場で音楽を流しながら飲食を楽しむ女性を見掛ける。女性たちにとって秋の夜の酒盛は長く短い人生において、どんな意味を持つのだろうか?

事務員の女性が退職した。

2週間のランニングと筋トレの後に4日間の休みを取った。右大腿部の内側を痛めた。

細い三日月を目指す東北道の帰り道。佐野インターチェンジで佐野ラーメンを食べる。

言葉にしなければ存在しなかった事と変わりない。ここ2、3ヶ月が失われてしまったに等しい。そこで仕事の予定表からここ数ヶ月を振り返ってみようと思う。結局仕事について語ることになってしまっている。なお、その後に予定表のデータが確認出来なくなるトラブルがあり、ここ2、3ヶ月は仕事も含めて記憶を頼りにするしかない状況となっている。つまり、それは存在しなかった事と変わりない。

6月は以前の職場の先輩と一緒に仕事をすることになった。再会を喜び狭い世界だと苦笑いをした。また、ニュースになっている仕事もしたのだが、この件は話を聞くのに疲労した。加えて、河口湖にも行っている。河口湖は外国人の旅行者が多く、ほとんどの人が高速バスを使用していた。確かにキャリーケースを抱えての旅行はバスの方が利便性が高いだろう。更に温泉街の先の山に向かうため峠越えもしている。

7月は九州に行った。レンタカーの予約が別日に指定されており、空港で冷や汗をかいた。後は関東を電車で移動する単発の仕事を複数件こなしている。

8月はほとんどデスクワークをしており、遠出は避暑地での日帰りの仕事のみである。その割に全く余裕が無かった。

以上の仕事に関して書き綴る内に仕事以外の事も思い出した。

7月は珍しく家族が集まって中華料理店で食事をした。

2019年12月の音楽

12月以降に音源を購入して聴いた。
なお、11月は特に新たな音源の購入等は無い。
ちなみに今年一番聴いたのはColin Vallon TrioのECM3部作だったと思う。一生聴けると思う。

武田理沙『Meteoros』

Meteoros

Meteoros

  • 武田理沙
  • ロック
  • ¥2139
武田理沙のセカンドアルバム。インストゥルメンタルから歌モノになった。そしてより自由になったという印象。


沢村満『夏の波の思い出』

夏の波の思い出

夏の波の思い出

  • 沢村満
  • インストゥルメンタル
  • ¥1681
濱瀬元彦の作品がリリースされているレーベルの音源を試聴。環境音楽とされているがどちらかといえばジャズ寄りか。


越智義朗『Natural Sonic』

Natural Sonic

Natural Sonic

  • 越智義朗
  • インストゥルメンタル
  • ¥1681
同前。どちらかといえば、リズム寄りか。


Nine Inch Nails『Ghosts I-IV』

Ghosts I-IV

Ghosts I-IV

  • ナイン・インチ・ネイルズ
  • オルタナティブ
  • ¥1528
エドワード=スノーデンを扱った作品を読むなか、ローラ=ポイトラス監督のスノーデンの暴露を追ったドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」のエンディングテーマで知る。なお、エンディングテーマで使用されていたのは「20 Ghosts III」となる。


Keith Jarrett『Vienna Concert』

Vienna Concert

Vienna Concert

  • キース・ジャレット
  • ジャズ
  • ¥1630
喫茶店で聴く。店主曰く「丁度よい」音楽とのこと。


Ricardo Villalobos『RE: ECM』

Re: ECM

Re: ECM

  • Ricardo Villalobos & Max Loderbauer
  • ジャズ
  • ¥2241
ドイツミニマルテクノのリカルド=ヴィラロボスがECM作品を素材に再構成したもの。

高い城の男

フィリップ=K=ディック著、浅倉久志訳「高い城の男」を読んだ。

本書は以前から購入していたものの積んドル(Kindleで購入しているが読んでいない状態)だったと記憶している。しかし、ピーター=トライアス著「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」の発売を受け、歴史改変小説ということで「高い城の男」が言及された。その機会にようやく読み始めたという訳である。なお、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」は読んでいない。

枢軸国が第二次世界大戦に勝利し、アメリカ合衆国はドイツと日本の分割統治により3つの国に分断されていた。そしてアメリカ人の間では高い城の男なる人物が創作した連合国が第二次世界大戦に勝利した歴史改変小説「イナゴ身重く横たわる」が流行していた。また、登場人物の一部は物語内で流行している易経を指針に行動している。

本書を読んだものの、夢中になって読むということは無かった。おそらく私の読解力や解釈が凡俗なためなのだろう。

アメリカ人の美術商がアメリカ人が作成した装身具にアメリカ人として自信を見い出すところは興味深かった。やはり敗戦というものは個人のアイデンティティに影響を及ぼすということなのだろう。翻って実際に敗戦国を生きる私に日本人というアイデンティティがあるのかと問われれば当然あると思われるが、そういうものは試されて初めて現出する類のものだとも思う。ここでいう試すとは実際に国外の人と話したり、外国との比較で発生することを指すのだけれども、私生活で国外の人と話すことはまずほとんど無い。仕事ではまれに話すことがあるものの、そこまで込み入った話をするには至らない。例えば日本は素晴らしいよねと言われれば嬉しく思う反面、指摘された以外の点を思い出し、それを敢えて語らない私は苦笑いを浮かべていることだろう。また、日本が好きだという具体的な感想を持っているかと問われればそれも怪しい。ただし、否定されれば苛立つこともあろう。加えて、日本に対する感情と日本政府に対する感情はまた別である。
以上のように結果的に私は自国に対する具体的な感情や思いを考えるということは特にしていない。そういったことが本書に対して凡百な読みしかできなかった要因の一つではないかと思われる。

高い城の男

高い城の男

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下 (ハヤカワ文庫SF)

ジョーカー・ゲーム

柳広司著「ジョーカー・ゲーム」シリーズを読んだ。

Twitterを眺めているとたまたまこんなRTが閲覧することになった。


浅学のため著者を知らなかったものの、「仕事柄、日本の諜報・防諜関連資料に目を通す機会が多い」作家の作品は面白いに決まっていると思い、本シリーズを手に取った。なお、シリーズ最終巻である「ラスト・ワルツ」はKindleに無かったため読んでいない。また、Production I.GによるTVアニメ、TVアニメに準拠したコミカライズも発表されている。

第二次世界大戦前、陸軍の魔王こと結城中佐の発案によりスパイ養成学校であるD機関が設立される。D機関の訓練生たちは互いのことを知らないまま、優秀なスパイとして活躍するというのが本シリーズのあらすじとなる。D機関のモデルは陸軍中野学校とのこと。
D機関の設定や結城中佐の謎、短編の完成度の高さ等、人に勧めたくなる連作短編集である。

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ダブル・ジョーカー ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ダブル・ジョーカー ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

パラダイス・ロスト ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

パラダイス・ロスト ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

ハルモニア

篠田節子著「ハルモニア」を読んだ。

クラシックギター奏者である猪居亜美の「Black Star」を聴いていたところ、日本テレビ系の土曜ドラマとして放送されていた「ハルモニア この愛の涯て」で演奏されていたフレーズを耳にした。テレビドラマではチェロの演奏だったが、印象的なフレーズが耳に残っていた。猪井亜美の演奏の楽曲を確認したところ、ニコロ=パガニーニの「24のカプリース(奇想曲)」とあり、福田進一の編曲によるものだった。

ニコロ=パガニーニはヴァイオリニスト・ヴィオリスト・ギタリスト・作曲家である。「24のカプリース(奇想曲)」はヴァイオリン無伴奏曲であるという。

テレビドラマでは堂本光一と中谷美紀が主人公とヒロインを演じていた。今日たまたまジムのテレビで堂本光一を見掛けたのだが、昔の容姿とほとんど変わりが無いことに驚いた。一方、中谷美紀について調べてみたところ、ヴィオラ奏者と国際結婚をしていた。

「24のカプリース(奇想曲)」を聴き、原作はどのような物語だったのかと本書を手に取った。著者の作品を読むのは初めてのことである。なお、テレビドラマの結末がどのようなものだったかは忘れてしまった。

後天的な脳障害で超感覚的知覚保持者の女性をチェリストの男性が個人教授をすることになる。女性は驚異的な才能を示していく一方、女性の周りで不可解な事象が発生する。作品紹介等を見るとホラー小説と記載されており、女性が音楽の才能と共に超能力を発揮する。しかし、この小説の面白さはそういった状況において、チェリストの男性と女性が「天上の音楽」のために全てを捧げ殉じる姿を描いているところにある。

ハルモニア (文春文庫)

ハルモニア (文春文庫)

Black Star

Black Star

  • 猪居亜美
  • クラシック
  • ¥1833

鈴木三重吉の諸作品を読む

鈴木三重吉の諸作品を読んだ。

鈴木三重吉は小説家・児童文学者となる。東京帝国大学では夏目漱石の講義を受け、夏目漱石の推薦により作品を発表したという。大学卒業後は中学校教諭等を務める傍ら、作品を発表して小説家としての評価を高める一方、娘のために児童文学を読み漁ったことをきっかけに児童文学作品を発表、その後は児童文学に集中し、児童文芸誌「赤い鳥」を創刊する。
芥川龍之介の蜘蛛の糸、新美南吉のごんぎつねは「赤い鳥」が初出となっており、鈴木三重吉は児童文学や教育界に与えた影響は多大との評価が与えられているそうだ。

さて、鈴木三重吉の諸作品を読むに至った理由は「走れメロス」を読んだところ、その末尾に「(古伝説と、シルレルの詩から。)」とあったためである。一体どんな伝説や詩なのかと調べた結果(主にWikipediaである)、ピタゴラス学派の教団員の団結力を示す逸話が「古伝説」であり、シルレルことフリードヒ=フォン=シラーが逸話を下に発表した「人質」という詩が「シルレルの詩」であることが判った。そこでピタゴラス学派の教団員の団結力を示す逸話を鈴木三重吉が「デイモンとピシアス」として発表していることを知ったという訳である。

私が読んだ鈴木三重吉の作品は以下の通りになる。児童文学ということもあり、作品は短時間で読み切ることができる。改めて「デイモンとピシアス」や「ダマスカスの賢者」を読んだが、テンポと小気味の良さ、子どもに媚びない文章が良い。何より物語に初めて触れた喜びを再発見できるような気がする。加えて青空文庫で読めるのが素晴らしい。

デイモンとピシアス

デイモンとピシアス

黄金鳥

黄金鳥

金魚

金魚

パナマ運河を開いた話

パナマ運河を開いた話

『平野啓一郎 タイアップ小説集』

平野啓一郎著「平野啓一郎 タイアップ小説集」を読んだ。

著者のまえがきによれば、本書は2008年から2016年にかけて、主に雑誌の依頼に応じて執筆されたタイアップ小説・エッセイ集となる。本書には月刊誌『FRaU』に連載された「Fashion Series」の作品が主に収録されている。著者はエッセイ等の依頼は受けていたものの、「~のための小説」は書かないと決めていたそうである。しかしながら、2004年頃からモードに関心を持ち、コマーシャルな媒体で与えられたテーマに触発されるがままに良い意味で少し遊んで見るのも良いと考えたとのこと。執筆にはモード写真の表現の影響を受けているという。
以下、目次。

掌編小説

  • そよ風になった少年~CHANEL
  • 光を浴びて~ETRO
  • ポール~HERMES
  • まちあわせ~EMPORIO ARMANI
  • 老人とワイン畑~PRADA
  • 春眠~Louis Vuitton
  • 指輪と蓮の花~DE BEERS
  • エレベーターの前で~BURBERRY PRORSUM
  • 太陽の涙~Cartier
  • 魔術師の瞳~BVLGARI
  • 鍵を開けて、中を見て~TIFFANY&Co.
  • 心のいろ~BOTTEGA VENETA
  • 大理石の上の花瓶と花々~DOLCE&GABBANA
  • 残った花びらは二つ~TOD'S
  • あの花は誰から届けられたの?~Dior
  • 待ち人、来たる~FENDI
  • あの子の正体~LANVIN
  • 記憶カレンダー~BALENCIAGA
  • 時間の透明なマス目~エルメス銀座店
  • マネキンたち~シャネル銀座店
  • 旅のあとさき~GUERLAIN
  • 腕時計のなかった腕~HARRY WINSTON

エッセイ

  • 星空の時間
  • 釣り好きの祖父の酒
  • 猫のように、僕はコーヒーが好きだ
  • 時間の漫ろ歩き
  • 桜の中で、時が重なり合う

タイアップされているブランドを眺めるだけで溜め息が出る。以前から著者がファッション誌に小説を発表していたことは知っていたものの、読む機会が得られなかったため、そのような人に本書は嬉しいものであろう。

平野啓一郎 タイアップ小説集 〔電子版限定〕

平野啓一郎 タイアップ小説集 〔電子版限定〕

走れメロス

太宰治著「走れメロス」を読んだ。

ふと「走れメロス」とはどんな物語だったのかと思い手に取った。「走れメロス」を初めて読んだのは中学生頃だったと思われるがはっきりとしない。改めて読んだ結果、おそらく既に指摘されていることだと思うのだが、色々思うところがあったため、それをここに記しておきたいと思う。

走れメロスとは言えば「メロスは激怒した。」の冒頭が有名である。メロスは政治が判らない村の牧人であるが邪悪に敏感らしい。16歳になる婚姻を控えた妹の結婚式の準備のため、村からシラクスの市へ2年振りにやって来た。結婚式の品々を買い終えた後、市内に住む友人のセリヌンティウスの下を久しぶりに訪ねようとすると、市内の異変に気が付く。メロスは通りすがりの老爺から国王ディオニスが人を信じることができないために世継を含む近親者や賢臣、派手な暮らしをしている市民を次々と殺していることを知る。そして「呆れた王だ。生かしておけぬ。」と冒頭の通り、激怒するのである。激怒したメロスの行動は早い。買い物を背負ったまま王城に入りたちまち捕縛され懐から短剣が出てきて大騒ぎになる。その後、メロスを国王の下に引き出され、問答が始まる。メロスは短剣で国王を殺害するつもりだったことを認め、国王が人の心を疑うことは悪徳だと語る。一方、国王は人は私欲の塊で信じるには足らないのだと語る。そしてメロスを磔に処せれば泣いて詫びる口だけの男だと断じる。メロスは国王に対して、ここで死ぬ覚悟があり、命乞いはしないと言いつつも、丁寧語で妹の結婚式を挙げるための三日間を要求する。国王は一度逃せば戻ってくることは無いとメロスの言葉を信じない。そのためにメロスは自らの身代わりとして友人のセリヌンティウスを差し出すのである。

メロスは政治が判らないものの、司法取引は行うのである。また、老爺に対して国王の行動が乱心に基づくかの確認もしている。加えて、最終的に友人を身代わりとして差し出すという行動も取っている。これらは、どうにも老爺の言葉を一切に確かめることもせずに信じたり、国王の殺害を決定したりする行動とは相容れないようにも思われる。メロスが単純素朴であるならば、その場で磔にされて死を受け入れれば良いし、友人を差し出す提案をするのではあれば、村に戻って妹の結婚式を挙げた後、国王を殺害するためにシラクスの市へ戻れば良いし、市へ戻る刻限を三日間と言わず五日間にすれば良いのである。しかしメロスは自らが走るためかのように物語の舞台を整えるのである。

走れメロス

走れメロス

『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』

小川一水著『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』を読んだ。

既に本シリーズは本書の続刊である「天冥の標Ⅹ PART1~3」を以て結末を迎えている。おそらくこの記事を見ることになった人は天冥の標に少しでも興味を持っている人であろうから、もし読んでいないのではあれば、さっさと本書を全てを買い揃えて読み始めるべきであると思われる。そうすれば、おそらく最高の年末を迎えることが約束できる。

天冥の標IX PART2 ヒトであるヒトとないヒトと(ハヤカワ文庫JA)

天冥の標IX PART2 ヒトであるヒトとないヒトと(ハヤカワ文庫JA)

天冥の標? ヒトであるヒトとないヒトと PART2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標? ヒトであるヒトとないヒトと PART2 (ハヤカワ文庫JA)

永い言い訳

西川美和監督作品『永い言い訳』を観た。

小説家が編集者と不倫中、妻が乗車しているバスの事故に遭い亡くなったことを知る。小説家は妻が亡くなったことに全く感情が湧いてこない。そんななか妻と共に亡くなった妻の友人の夫と知り合い、その子どもたちの面倒を観ることにやりがいを見出していくのだが………

本作は友人から勧められて観たものだ。友人は自らを小説家と重ね合わせ、家族が亡くなった時に涙が出なかったことを思い出したという。

私は本作を観ながら少々まとまりに欠けるのではないかと思ったのだが、日常こそまとまりに欠けており、直接的な答えを示唆してくれるものでは無いと思い至った。それでも、人は日々の生活をこなしながら、ふとしたことで物事が収まるところに収まったり、理解できてしまったりするものである。また、知らぬ間に忘れてしまうこともあるだろう。小説家がどのように妻の死を受け入れたかは判らなかったものの、小説家は妻の死の体験をノンフィクションの物語として発表して本作は終わりを迎える。

死は直截に受け入れることができず、本能的に避けてしまうものでは無いだろうか。しかし、人は死を避ける手立てが無い。だからこそ人は死をフィクションという形で触れようとする。おそらく、ここで言うフィクションにはニュース等で触れる人の生き死にも含まれるのだろう。「気の毒にね」「かわいそうにね」という言葉が心をよぎった時、次は何かしら自分の番ではないかと思う一方で、自分には関係の無いことだと安堵を覚えている。そんなことだから、死は概して唐突なものになる。そして唐突なできごとに人は概して対応できない。小さな子どもは転んだ後、数秒は平気な顔をしているが、傍に駆け付けた親の「大丈夫?」という声掛けに自らが泣いても良いということを知り泣き声を上げる。小さな子どもでさえ泣く理由が必要なのだから、大人が親しい人の「唐突な死の知らせ」に泣くことができずいるということはありそうなことである。しかも、大人には傍に駆け付けて「大丈夫?」等と声掛けをしてくれる人はそうはいないだろうと思われる(なかなか結構な関係性が無ければ言えそうも無い気がする)。そして気が付いた時には泣くべきタイミングを逸しているということもあるのでは無いだろうか。だから、おそらく、私にできることは(なかなか結構な関係性が無ければ言えそうも無いのだが)単純に「大丈夫?」と声を掛けることなのだろうと思う。そして「大丈夫じゃないよ!!」と声を荒げて言われることではないかと思う。

永い言い訳 [Blu-ray]

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