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うしろめたくない過ごし方

メモ

ライターの雨宮まみが亡くなったという。
通勤途中にアカウントも持っていない他人のtwitterをスマートフォンで巡回していると不意に訃報を知ることになった。
私は雨宮まみの知り合いでは無く単なる一読者に過ぎない。しかもネット上の連載しか読んでいない、余りよろしくない読者だろう。
それにも関わらず、スマートフォンの液晶から発せられた情報は私はひどく動揺させた。
そもそも、雨宮まみをどのように知ったのだろう。今でこそ聴かなくなってしまったラジオ番組を介してだろうか?その後はtwitterでフォローしながら彼女のコラムを読んでいたのだろう。
彼女の文章は自らの考えを赤裸々にした上で話が組み立てられていた。その律儀さと真面目さに頭が下がる思いがしたと同時に、言葉にすることによって彼女自身深く傷ついたのでは無いだろうかと思う事もあった。しかし、それは物事を表現する際に避けて通れない性質であって勝手な同情というものなのだろう。
彼女の訃報を知った際、直ぐ様思い出したのは、つまり私に雨宮まみという存在を印象付けた、人生相談への回答だった。
彼女はここで相談者に対して、大きな変化を起こすのでは無く、自ら地味なつまらない方法と語りながら、今出来る少しの調整により罪悪感や不安を減らしていく事を勧める。
私の回答を読んだ時、「ああっ」と思わず心の中で呻き膝を叩いた。罪悪感や不安を減らし、余裕を持てるようになるのが「自由」だったのだ。
そう、意外にも日常には小さな罪悪感や不安がひしめいている。シャワーを浴びず歯磨きもしないで寝てしまう、部屋を片付けない、洗濯物を溜めてしまう、約束の時間を守れない、伝えたいことが伝えられない…そういった罪悪感の数々が劣等感を生み、人を脆く倦ませるのでは無いだろうか。
罪悪感を減らす。それはつまりうしろめたい思いをしない事だ。意外にもこれは難しい。正しさを求められている訳でもない。何かを禁止する訳でも無い。どちらかと言えば、事前の準備や具体性が求められる性質である。正直少し面倒な事だが、少しこれを意識する事で、かなり楽に日常を過ごせるようになった気がする。それを教えてくれたのが、他ならぬ雨宮まみだった。それ故に私は動揺してしまったのだ。

cocoloni.jp

上記のような文章も好きだったが「運命のもの、どこで買えますか?」といった連載が面白かった。特にスニーカーを購入する回は、おそるおそる好奇心を持ってスニーカーを試し履きしていく様子がとてもキュートで、照れ笑いをしているようにも見える、スニーカーを履いてポーズを決める雨宮まみの写真がとても素敵だ。

srdk.rakuten.jp

雨宮まみさんのご冥福を心からお祈り申し上げます。

mamiamamiya.hatenablog.com

幽霊殺人

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『幽霊殺人』を読んだ。

雪山の山荘を訪れた警察官が事件に巻き込まれ、その真相を突き止めるという内容である。
つまりミステリーであるが、そこはストルガツキー兄弟の作品であり、真相に関わる部分はSFの設定である。
しかし真相がSFであるだけに、主人公の警察官は受け入れる事が出来ない。事件は宇宙人の仕業だと警察官は信じる訳にいかない。しかし実際のところ、警察官は主観的には理解しているのだ。しかし客観的に認める訳にいかない。その立場の苦しさが非常に伝わってくる。それ故、警察官の頑迷さに付き合わされる事になる。この葛藤が本書の面白さである。一方、本書に登場するSF設定に物分かりの良い物理学者は世に理解される事は無かった。警察官の頑迷さを物理学者は許さず、これを悔やみ続けている主人公の在り方に、ストルガツキー兄弟の現実的な繊細さを感じる。

本書を以てストルガツキー兄弟のラドガ壊滅やらアンソロジーに収められた作品を除けば大体邦訳をされたものは読み終えた形になる。ストルガツキー兄弟の作品を読もうとした場合、古本屋や図書館を利用して読む形になるだろう。とりあえず図書館を利用し、更に興味を持ったら古本屋で購入すれば良いと思う。私自身は図書館を利用したのは本書と「滅びの都」のみであり、その理由は貸出期間によって読む時間を区切られる事を嫌った為である。古本屋を利用しているうちに収集欲が掻き立てられたという事もあったのだが…。

滅びの都

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、佐藤祥子訳『滅びの都』を読んだ。

「都市」がある。この「都市」は「実験」を目的としている。「「実験」のための「実験」」だと本書では語られる。都市にはロシア人・ドイツ人・ユダヤ人・中国人・日本人と人種や国籍は関係無く人々が集められている。また彼らは第二次世界大戦直後の時代を生きた人々らしい。彼らが折り入って語るのは戦争の記憶である。仕事は一定期間勤めると、機械によって定められた新たな仕事を勤める決まりになっている。主人公のロシア人は、ごみ収集員、捜査官、編集者、クーデターを経てドイツ人の元ナチス党員が統治する権力機構の補佐官となり、その後はアンチ都市を調べる為、世界の果てへ調査隊を伴って向かう。本書はロシア人の仕事毎に章立てされ、物語が進んでいく。 

「都市」の人々はどのように集められたのかはっきりとは判らない。主人公は自分にしか見えない教導師なる人物によって都市にやって来たらしい。

印象に残るのは「都市」の日本人が悲哀を以て語リ出す「沖縄で日本兵が少女を強姦している事が告発されると、少女とその母親は次の日には姿を消してしまったのだ…」というエピソードである。著者のアルカジーは日本語に精通した日本文学研究者であり、軍に所属していた際は極東軍事裁判に関わったという経歴を持つ。そういった背景を鑑みた時、フィクションでありながら、戦争という状況に於いて類似するような出来事は想像に難くなく、また日本人であるが故に生々しい印象を抱く。

クーデターを経て補佐官となった主人公は博識で変人のユダヤ人を連れて世界の果てへ向かうが、調査隊は過酷な環境に仲間割れを起こし離散してしまう。主人公はユダヤ人と共に巨大な足が闊歩する廃墟や遺跡を越え、世界の果てらしきものに辿り着く。ここで描写される世界の果てはアレクサンドル=ソクーロフが「ファウスト」で描いた真理の場所そのもののように読み取れる。しかし著者はどうやら世界の果てに辿り着いたとしても終わりの場所では無い事を示唆しているらしい。

本書はストルガツキー兄弟の「モスクワ妄想倶楽部」で青ファイルと呼ばれた原稿である。「モスクワ妄想倶楽部」の翻訳者である中沢敦夫によれば、本書は1970年代に執筆され完成していたという。捜査官となった主人公が赤い館でソ連指導者とチェスを指すというあからさまな描写や*1、ソ連という体制を、そしてそれに似通ってしまう体制そのものを、「都市」になぞらえシニカルに描いているのは明らかで、発表を躊躇するのは理解出来る。

翻訳者の佐藤祥子による本書の解説は非常に丁寧で理解が捗ると思う。古本を手に入れるか迷った末、図書館を利用して読む事になり、現状内容の多くを忘れてしまっているものの、ストルガツキー作品の中では託されたイメージが多い為に強い印象を残している。 

滅びの都 (群像社ライブラリー)

滅びの都 (群像社ライブラリー)

 

 

*1:脚注をよまなければ判らない程度に浅学ではある。尚、脚注には人名も書いてありスターリンだったと思うのだが、はっきり憶えていない。

『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART1』

読書

小川一水著『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART1』を読んだ。

『天冥の標Ⅷ ジャイアント・アーク PART2』の続刊。遂にⅨ巻まで来た。
既に本書の続刊である『天冥の標Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと PART2』が刊行されているが、以下から本書の内容に触れる事を予めお伝えさせて頂く。

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巨匠とマルガリータ

読書

ミハイル=A=ブルガーコフ著、水野忠夫訳『巨匠とマルガリータ』を読んだ。

ある春のとても暑い日、モスクワの公園で作家兼文芸雑誌の編集長と詩人がキリストの実在性について語っている。詩人は編集長に依頼されたキリストの存在を否定した詩を完成させたものの、編集長はお気に召さなかったらしい。編集長は売店で買ったソーダを飲み、日射病まがいの幻影にさらされながら、博覧強記で以てキリストの存在を否定し、詩人はこれに頷くばかりである。そこに怪しげな外国人が現れる。外国人は二人の話に割り込み、神を信じずまた実在性を否定する二人に問い掛ける。「神が存在しないとすれば、世の中の秩序は誰が支配するのか。」詩人はこれに対し「人間が自ら支配する。」と応える。しかし外国人は更に続ける。「千年先の事や、今日夜起こる事さえ判らない人間に何が判るのか。」カントと共に朝食を取った事もあるという外国人は、二人の今後をあっさり予言してみせる。編集長は路面電車に轢かれ、詩人は精神分裂症になるのだという。そして男はキリストが存在していたとして、ポンティウス=ピラトゥスを主人公としたナザレの人ヨシュアことキリストの物語を語り始める。
外国人が語り終えると編集長は「その物語はキリストがいた事を証明していない。」と反駁する。しかし外国人は「私はその場に居たので証明する必要は無いのです。」と語る。編集長は外国人を狂人と判断し、公衆電話で外国人観光局に連絡しようとその場を離れる。しかし編集長は外国人の予言通り路面電車に轢かれ首をはねられてしまう。詩人は外国人を追い掛けるうちに往来で下着姿になり精神病院に運ばれてしまう。

本書では、外国人が語ったピラトゥスを主人公とした物語と、外国人の格好をした悪魔たちがモスクワで引き起こす騒動が交互に語られる。そして詩人が精神病院で出会った巨匠を名乗る作家こそピラトゥスを主人公とした物語の創作者であった事が判る。悪魔たちは巨匠の身を案じる愛人マルガリータと接触し巨匠を救い、二人は悪魔に導かれ天上に昇る。

悪魔が起こすバカ騒ぎに笑い、福音の章と呼ばれるポンティウス=ピラトゥスを主人公とした格調高い物語に引き込まれる。著者であるブルガーコフはソ連に於いて戯曲や小説を発表する機会を得られなかったという。ピラトゥスを主人公とした物語を描き、文壇から排斥された巨匠とブルガーコフが重なり合い、その恨みとでも言うべきものが池澤夏樹が解説にて「ファンタスティック」と表する悪魔が起こす騒動で発散されているようにも思える。
本書を手に取ったのは、ストルガツキー兄弟の「モスクワ妄想倶楽部」を読んだ為だが、更に遡れば通勤途中、電車の中で黒衣の美しい女性が群像社版の本書を読んでいるのを見掛けた事がきっかけだった。私は池澤夏樹個人編集の世界文学全集のハードカバーで読んだが、現在は同内容の翻訳を岩波文庫で読むことが出来るようだ。
世界文学などと言うと敷居が高いように思われるが、これを読まないのは余りに勿体無いと思う。

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ(上) (岩波文庫)

巨匠とマルガリータ(上) (岩波文庫)

巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)

巨匠とマルガリータ(下) (岩波文庫)

巨匠とマルガリータ (上) (群像社ライブラリー (8))

巨匠とマルガリータ (上) (群像社ライブラリー (8))

巨匠とマルガリータ〈下〉第2の書 (群像社ライブラリー)

巨匠とマルガリータ〈下〉第2の書 (群像社ライブラリー)

ちょっと今から仕事やめてくる

読書

北川恵海著『ちょっと今から仕事やめてくる』を読んだ。

たまたま先輩の社員から「読んでみる?」と渡されて読む機会を得た。常日頃仕事を辞めたいと思っていたからちょっと興味が惹かれる題名ではある。内容はタイトルの通りいわゆるブラック企業に勤める主人公が会社を辞める話だが、主人公の自殺を偶然止める事になった古い友人の正体を探る謎解きもあり、飽きずに読み進められた。
本書を読みながら、仕事に対する価値観やら生き方を他人に披瀝したり押し付けたりするつもりは自分には無いのだと実感した。

ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)

ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)

ちょっと今から仕事やめてくる<ちょっと今から仕事やめてくる> (メディアワークス文庫)

ちょっと今から仕事やめてくる<ちょっと今から仕事やめてくる> (メディアワークス文庫)

民主主義

読書

文部省編『民主主義』を読んだ。
一年程前、社会学者である西田亮介の「社会に政治を理解し、判断するための総合的な「道具立て」を提供せよ―文部省『民主主義』を読んで」という記事にて本書を知った。上記の記事や下記にリンクした記事から18歳以上に選挙権年齢を引き下げる公職選挙法改正や憲法改正を視野に入れた用意として本書を紹介している事が判る。

GHQ(連合国軍総司令部)とこれを補佐する部局CIE(民間情報教育局)が作成を指示、法哲学者尾高朝雄が編纂・執筆、経済学者大河内一男など一流の執筆者が揃えられたという。

教科書という形態に対して読むか迷った末、電子書籍を購入しスマートフォンで通勤等の空き時間を使って半年程で読み終えた。おそらく書籍として購入していれば本書を読み終える事は出来なかっただろう。電子書籍というフォーマットの有り難さを感じた。
他方、スマートフォン片手に休日の行楽に向かう人々を視界の端に本書を読み進めていると、何か自分が滑稽に思えて来る。眼前に紡がれるのは民主主義を実現する為の不断の努力を求める情熱的な筆致だ。本書が求める有権者の在り方は、敗戦70年を経て民主主義を当然の事として享受している私にさえ普遍性を持って迫ってくる。そして本書が求める多くが欠けている事に気が付かされる。

本書を読んでいた頃、集団的自衛権の容認を含めた安保法案を巡り民主主義の危機だという言説を多く見掛けた。民主主義の危機を回避する為に歴史を学んでいたのでは無かったか、そもそも集団的自衛権を解釈の領域に於いて甘んじていたのが誤りだったのでは無いだろうか、そんな事を考え複雑な気分になった。

西田亮介は批評誌『ゲンロン』にて「日常の政治と非日常の政治」と題してコラムを連載している。おそらくこれも本書同様道具立ての一つなのだろう。「ゲンロン2」では2016年7月10日に控えた参議院選挙と憲法改正に関する「事実」を確認しており、改選121議席のうち改憲派が77議席当選した場合、非改選議席の改憲派と併せて参議院の三分の二を達成するという。参議院の議席三分の二の達成は、憲法改正の発議を可能にする。

今回の記事を作成するにあたって、西田亮介が本書に解説を加えて編集した抄録版が刊行されている事を知った。本書のエッセンスを知りたければ新書を手に取るのも良いかもしれない。また新書発売にあたりネット上にて本書の一部が読めるようになっていた為、西田亮介の本書復刊の意図を説明した記事と併せて以下にリンクを貼る。

新書版の出版社幻冬舎ウェブサイトにて読める本書の一部

新書版を編集した西田亮介による解説

民主主義

民主主義

民主主義──文部省著作教科書

民主主義──文部省著作教科書

民主主義 〈一九四八‐五三〉中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版 (幻冬舎新書)

民主主義 〈一九四八‐五三〉中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版 (幻冬舎新書)

波が風を消す

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『波が風を消す』を読んだ。

マクシム=カンメラーが活躍する三部作の第三作目であり、異文明接触委員会が登場するNoon Universe〈未来年代記〉シリーズの一つでもある。『世界終末十億年前』に訳者による長中編の作品リストによれば、Noon Universe〈未来年代記〉シリーズは本書が最終巻となる。しかしストルガツキー兄弟は発表した作品を再構成する作家であり、短編が含まれていない事や、執筆順であるかどうかは判らない事から、はっきりとした事は言えない。
さて本書は三部作の主人公であるマクシムの回想録という体裁を取っており、その為だったのだろうか、一読した際に作品全体を把握出来ず、逐次再読を要しまとめるのに手間が掛かってしまった。

  • 八十九歳になったマクシム=カンメラーはマイヤ=グルーモワから「世紀の人物伝、五人の生涯」の執筆者が誰なのか突き止めて欲しいと依頼を受ける。この本にはマイヤ=グルーモワの息子であり、マクシムが監視委員会異常事件部部長だった時代の部下であるトイヴォ=グルーモフに関して書かれているのだ。マクシムは執筆者が宙史研こと宇宙史研究所の〈類人類〉班に所属する職員である事を突き止めたものの、執筆者まで名前が判らなかったという。そしてこの本を読んだマクシムはトイヴォに関する誤解を解くべく回想録を発表するに至る。
  • マイヤ=グルーモワは前作「蟻塚の中のかぶと虫」で失踪した進歩官〈プログレッサー〉レフ=アバルキンの元恋人である。トイヴォとレフ=アバルキンには血縁関係は無いようで、本作でトイヴォは「父とはほとんど会っていません。」「たぶんいまは異種交配の仕事をしていると思います。ヤイールで」と答えている。更に前作の結末でルドルフ=シコルスキーがレフ=アバルキンを殺害した悲劇は「非難がましいニュアンスのこもった」〈シコルスキー・シンドローム〉なる専門用語を生んだ。これは〈遍歴者〉が地球に干渉している可能性を気にする〈遍歴者〉コンプレックスとは真逆に、〈遍歴者〉の介入を無視する態度を指すらしい。
  • 本書によれば人類が〈遍歴者〉を認識したのは、二世紀前に火星で見捨てられた地底の琥珀都市を発見してからだという。また前作との繋がりで言えば、ビッグ・ヘッド人は地球での駐留を止めて出て行ってしまった。そして石棺で見つかった十三個の受精卵の最後の一人は自己破壊に等しい自殺に至った。
  • 自由調査団が発見したEH63061系にある惑星チッサ。この惑星を訪れた学術調査隊員三名は原因不明の精神錯乱に陥ってしまう。三人は、中央基地との連絡が途絶え、軌道を飛ぶ母船としか交信出来なくなったと感じてしまう。更に母船にいるロボットは、宇宙規模の破局が起こって地球が滅亡し、地球周辺星域の全住民も原因不明の伝染病に罹り死に絶えたと繰り返し伝えたのだった。隊員のうちの二人は自殺を試みる為に荒野に向かった。しかし隊長はただ生き抜こうとした。そして精神錯乱状態に陥って十四日目、隊長の前に白い衣装をまとった男が現れ、実験の第一段階をパスし〈遍歴者〉の仲間入りができる候補者になったと告げる。十五日目に母船の救命ボートに救出された三人は正常な精神状態に戻り、後遺症は残らなかった。彼らの証言は細部に至るまで完全に一致していたが、深層心理分析の結果、それは彼らの主観的な感覚である事が突き止められ、潜在意識の最深部では全てが単なる演技に過ぎないと思っていたのだった。
  • 同僚たちがこの事件を平凡な異常として扱うなか、マクシムは調査に乗り出した。まず地球人類の中で進歩官〈プログレッサー〉として活動している〈遍歴者〉のモデルを作ろうとした。専門家たちの大半は〈シコルスキー・シンドローム〉の為に断ったが、前作でシコルスキーと舌戦ないし唯の口喧嘩をしていた自由主義者最左翼アイザック=ブロンベルグは後に「ブロンベルグのメモランダム」と呼ばれる回答をマクシムに送ってよこした。
  • ブロンベルグは〈遍歴者〉の性質と地球文明との必然的な遭遇に関する研究を続けており「モノコスモス」なる概念を提示する。どんな知性も個体を維持するのに可能な限界ぎりぎりまで、友誼・相互関係を保つ高度な文化・利他思想・到達しうるものに対する軽視、という連合状態に至る。これは生物学的・社会的な法則の為である。その後の知性の可能性は二つに分けられる。一つは停滞・自己満足・自閉・外界に対する興味の喪失。もう一つは進歩の第二段階として計画してコントロールされた「モノコスモス」への進化である。「モノコスモス」は無数の新たな知覚を手に入れ宇宙を認識し自らが〈遍歴者〉と同じように創造者となる道である。人類が〈遍歴者〉の干渉を受けるのは、他の文明と違い行動し発展の方向を選択し誤る可能性を持っているからであり、新たな社会構造を準備させる事によってグローバルな知性体への発達を促し、最終的に充分に成熟した個体をモノコスモスに統合させるべく選別を行うのだという。つまり「モノコスモス」になる事は人類が〈遍歴者〉になる事だが、全ての人類がその変化に適しているとは限らず、人類は人類が知らないパラメータに従い超文明によって二つに分離し、一方の少数部分が多数を凌駕する人類とは別のもの―〈遍歴者〉=「モノコスモス」になるのだという。
  • ブロンベルグはこの回答をマクシムに送った後、急死してしまう。「モノコスモス」の研究資料はもちろんのこと〈遍歴者〉に関する資料も残されていなかった。
  • ブロンベルグの回答と急死を知ったトイヴォ=グルーモフはその死に疑念を持ちながらも彼のアイディアを検討する気が無いのかマクシムに問いただす。マクシムはトイヴォに調査を命じる。
  • トイヴォ=グルーモフは進歩官〈プログレッサー〉として三年程働いた後、その職を投げ出してコムコン-2へやってきた。トイヴォはプログレッサーの使命という考えに敵意を感じており、彼を不安にしているのは、「どんな神であろうと、われわれの仕事に干渉することは許されないし、神が地球でできることはなにもない、なぜなら“神の恩恵とは、つまり風のようなものだ。風を帆をはらませもするが、嵐も起こせるからだ”という事だった。」尚、トイヴォが進歩官〈プログレッサー〉として働いた場所は惑星ギガンダ、また「ぼくが剣を振りまわして、アルカナール広場の舗石の上で足踏みしているあいだに~」という発言から「神さまはつらい」の舞台であるアルカナール王国だったようだ。
  • トイヴォはブロンベルグのアイディアを元に集団恐怖症に関する調査を始める。
  • 〈ペンギン・シンドローム〉は宇宙恐怖症の一つであり危険な精神病では無い。患者はまどろみ始めると、たった一人無力な状態で全ての事を忘れ冷酷な克復し難い力に支配され空気の無い空間に浮かんでいる自分を発見し、呼吸困難、破壊光線に体を貫かれる、骨が溶ける、脳が沸騰して蒸発する等の前代未聞の強烈な絶望感に襲われ、目を覚ます。これは外来の治療で治す事が出来るため危険は無かったが、性別・年齢・職業・遺伝子に関係無く発症する新しい現象だった。メビウス博士は〈ファントム-17-ペンギン〉タイプの宇宙船で遠距離宇宙旅行した者が発症している事を突き止める。しかし宇宙船に設計上のミスは無く、次善の策として危険を避けるべくオートパイロット用の宇宙船に改造されてしまった。トイヴォは調査の結果、宇宙船には問題無く、侵入座標41/02の亜空間を路線としており、パイロットたちの記録から、ペンギン・シンドロームに対して三分の二の者は免疫力を持ち、免疫力の無い者が同航路で発症していた事を突き止める。また〈ペンギン・シンドローム〉の倒錯現象-肯定的な夢を見る者もいるという。
  • マクシムがトイヴォの〈ペンギン・シンドローム〉に関する報告書を読み終えた頃、惑星サラクシのミュータントであるシャーマンが地球の超能力研究所を訪れる。シャーマンは他人の精神を支配出来る能力を持つサイコクラートだった。しかし滞在期間四日の予定していたにも関わらず一時間で地球から引き上げてしまう。
  • サイコクラートについて補足しておくと本シリーズで登場したビッグ・ヘッド人もミュータントであり他人の精神を支配出来る能力を持っている。
  • バイオブロックは東京方式の処置方法であり地球及び周辺星域で組織的に採用されている。バイオブロックはジャーナリズムで用いられる用語であり、医者たちはこの処置法に最初に理論的根拠を与え、実地に応用した深見ナターリヤと深見星子姉妹にちなんでフカミゼーション(深見式処置法)と読んでいる。フカミゼーションの目的は、人体が外界の諸条件に適応する自然の水準を高める事にある。古典的な処置方式では、母親の胎内で成長する最終段階で胎児にフカミゼーションが施される。血清をいくつかの手順をへて投与すると伝染病や毒物に対する抵抗力を増やし、マイクロウエーブを照射して視床下部の抑制を解除してやり、放射能・有害ガス・高温といった外部環境の物理的要因に順応する能力が高め、損傷した内部臓器を再生させ、知覚出来る網膜のスペクトル幅を広げ、精神療法の能力を高める事が出来た。フカミゼーションは強制バイオブロック法に従い強制的に行われていた。しかしある時期を境にフカミゼーションの拒否が流行し、強制的バイオブロックの修正案が可決される。しかしフカミゼーションで被害を受けた事例はほとんど無く、また母親が拒否する事もきわめてまれなケースだった。フカミフォビア(フカミ恐怖症)の原因は未だ解明しておらず、拒否が流行し修正案が可決された後、フカミゼーション拒否の流行は終結し拒否する者はほとんどいなくなった。
  • フカミゼーションは明らかに訳者である深見弾を意識した命名だろう。日本人の読者だけが楽しめる小細工である。
  • マーラヤ・ペシャの別荘地で謎の怪物が現れ住人がパニックに陥るという事件が起きる。マクシムは調査にトイヴォを派遣する。本書はマクシムの回想記であり、報告書等を元に編成されているが、この調査とトイヴォとその妻のやり取りはマクシムが再構成し描いているという設定になっている。
  • マーラヤ・ペシャで複数の擬似生物が現れ住人をパニックに陥れた。擬似生物の痕跡は至るところに見つかったものの、これを発生させる人工胎生装置は見つからなかった。トイヴォは調査のなか、この擬似生物に対する住人の反応に着目する。住人の反応は三つに分けられた。一つめのグループは自制心を失い逃げ出した者たち、二つめのグループは後から戻ってくる勇気のある者たち、三つめのグループは擬似生物に恐怖を感じず、むしろ興味や同情する者たちだ。更に住人たちの証言と現場の痕跡から、擬似生物の再現可能性を専門機関に照会すると、そのような人工生物を再現する場合、莫大なエネルギーと解放を要し、現状の科学技術では空想の領域を出ないという結果が報告される。
  • トイヴォはマーラヤ・ペシャの調査の内容と、これまでの集団恐怖症の内容と併せて〈遍歴者〉の関与をマクシムに示唆する。宇宙恐怖症〈ペンギン・シンドローム〉とマーラヤ・ペシャの事件は人類を選別する実験であり、フカミフォビア(フカミ恐怖症)はフカミゼーションが何らかの形で人類の進化を妨げる為に人工的に発生したものである。しかしこの内容を報告されたマクシムはトイヴォに惑星サラクシのシャーマンが地球の滞在を一時間で切り上げた事件を調査すべく超能力研究所へ向かうように命じる。マクシムは他の職員にも超能力研究所への調査を命じており、超能力研究所について何かを掴んでいるらしかった。
  • トイヴォは超能力研究所へ赴く。誰もが義務付けられているという別称〈スーパーマン狩り〉と呼ばれるスキャンで検査された後、古くからマクシムの友人だというロゴヴェンコをはじめ、シャーマンと接触した複数の人々と面談するも何も手掛かりが得られない。シャーマンに付き添った職員によれば別れを告げる際、「山や森、雲は空は見えるというのに、目と鼻の先にあるものがなにも目にはいっていない」という童歌を口にし、絶対にありえない事を意味するサラクシの慣用句「盲に目明きが見られるようになるまで待とう」という言葉を残したと言う。
  • 引き続き調査を進めるなか、超能力研究所のディスプレイに、マーラヤ・ペシャで起きた事件で擬似生物に興味や同情を感じた人々の名前を発見する。これに驚いたトイヴォは超能力研究所に三つめのグループを報告した者を調査をしたところ、後から戻ってくる勇気の持った二つめのグループが超能力研究所の常任活動家を務めていた事を知る。
  • 超能力研究所は〈遍歴者〉が関与していると確信するトイヴォに対し、マクシムは〈ペンギン・シンドローム〉倒錯者とフカミゼーション拒否者のリスト、更に同僚サンドロ=ムトベヴァリが調査している失踪後に天才となって人々が現れる〈リップ・ヴァン・ウィンクル*1〉リストの重複者リストを作成するよう命じる。
  • 同僚サンドロ=ムトベヴァリはトイヴォに調査中に起きた不可思議な出来事を話す。調査対象者と面談を試みようとすると「まったくまずいときに来たもんだ」と言われた後、めまいに襲われもと来た道で目を覚まし、それを何度も繰り返したのだという。更に彼の報告書には、面談中に姿を消した者さえ居た。
  • トイヴォが作成したリストは驚くべき重複率を見せる。マクシムとトイヴォは世界評議会議員であり局長代理のコモフと同じく世界評議会議員でコムコン創設者であるゴルボフスキーと会談する。〈ペンギン・シンドローム〉により宇宙適応者が抽出され、マーラヤ・ペシャでは地球外のバイオテクノロジーを使って異生物に好感を持つ者を抽出する実験を行い、フカミフォビア(フカミ恐怖症)は何らかの理由で〈遍歴者〉の性質を人類の次の世代から奪う恐れがあった為に行われたキャンペーンである。そしてこれらを行った被選別者は数を増やしそれを隠す必要も無くなった。平凡な人間が失踪後に天才となる〈リップ・ヴァン・ウィンクル〉はその現れであり、超能力研究所は候補者の中から被選別者を突き止める〈遍歴者〉の活動の場である。トイヴォは以上の調査結果を報告する。しかし死を前にしたゴルボフスキーは、人類による他の惑星での進歩官〈プログレッサー〉としての活動は、過去を変えられない人類が過去のツケを払うべく他の人々を助けるしか無い為であり、この〈進化のバックアップ〉とも言える行為は〈遍歴者〉には必要無く、また超文明が人類に手掛かりを残すはずが無いと反論する。
  • ここで登場するコモフはトイヴォの母であるマイヤ=グルーモワと旧知の仲らしい。調べてみると邦訳されていないNoon Universe〈未来年代記〉の連作集で語られているという。尚、ここでは触れていないが、被選別者が関与した事件には鯨の集団自殺というものがあるらしく、トイヴォはこれも調査していたが、本書では時折語られる程度のため割愛した。
  • トイヴォは報告を終えるとマクシムと共に別室で待たされる。報告は失敗に終わったと思われたが、そこにゴルボフスキーが表れトイヴォを認める態度を示す。マクシムとトイヴォがゴルボフスキーの家を後にする途中、超能力研究所のロゴヴェンコとすれ違う。
  • 続けて行われた超能力研究所のロゴヴェンコとコモフとゴルボフスキーの会談は一部データが消失したテープから再現される。ロゴヴェンコは自身が既に人類では無く、〈類人類〉もしくは〈超人類〉であると語る。宇宙恐怖症や異生物恐怖症は人体に第三パルス系を発揮させる為の手段であり、フカミフォビア(フカミ恐怖症)は視床下部の抑制を解除すると第三パルス系を崩壊させてしまう為に行われたキャンペーンだったという。この進化は、ソーシャルテクノロジカル・オーガナイゼーション(社会工学的な組織)が一定の段階に到達した為に発生したものであり、十万人に一人の確率で第三パルス系が見つかり、第三パルス系のイニシアチブを取り〈類人類〉を育成する事は最近になって出来るようになったという。更に人類には第四低周波系、第五…と新たなシステムが発見されているとも語り、ロゴヴェンコはその証拠として何らかの変化をコモフとゴルボフスキーの前で見せる。人類との共生が出来ないのかという問いに〈類人類〉は人類や地球に興味は無く、地球に留まっているのは、家族や愛する者から離れられない不幸な連中と人類との関係を危惧する一部の者だけだという。
  • トイヴォはロゴヴェンコと世界評議会議員の会談の記録を読み〈遍歴者〉が関わっていない事に衝撃を受ける。そして人類は〈類人類〉の孵化器になるべきでは無く、強硬手段に出るべきだと語る。これに対してマクシムは〈類人類〉と共生するか共生しないかを選ぶしか無く、状況をコントロールしているのは〈類人類〉だと語る。更にマクシムは、超能力研究所が選別を行っていると気づいた時点で、部下全員を超能力研究所に派遣し人間である事を確かめさせたという。その結果、トイヴォには第三パルス系が見つかったという。あなたは騙されていると吠えるトイヴォ。マクシムは超能力研究所内部に調査員を送り込む事は出来ずその周辺にしか配置出来なかったと語る。トイヴォはその発言に自らが〈類人類〉となって内部を調査をする事は出来ないと語り、職を辞する。
  • マクシムがトイヴォの顔を見たのは上記が最後となる。ロゴヴェンコに説得されるもトイヴォはこれを断り、妻がいる惑星パンドラに向かう。その後も何度かトイヴォから連絡があったがマクシムは会う事は出来なかった。どうやらトイヴォは〈類人類〉となり、時折妻に会いにやってくるものの、徐々に不在の期間を長くしているという。
  • コモフのレポートによれば、その後〈類人類〉は地球から全て去ってしまったという。ゴルボフスキーは「波が風を消す」と狡猾に笑ったが誰もその意味を判っていなかった。
  • 前述した「世紀の人物伝、五人の生涯」ではトイヴォは進歩官〈プログレッサー〉として惑星ギガンダで働く時分に〈類人類〉と接触しており、その後全ての汚名を〈遍歴者〉に着せるべく暗躍していると語られているらしい。マクシムは「世紀の人物伝、五人の生涯」は思慮の浅いたわごとでしか無く、なぜ事実を語らず沈黙を通すのかというマイヤ=グルーモワの手紙に「わたしは語った、できうるかぎりすべてを。話せることはすっかり語りつくした。」と回想録を終える。

『波が風を消す』、この題名は一体何を意味するのだろうか。風が〈遍歴者〉であるならば波は人類であるから、人類から〈遍歴者〉の影響が消えるという事だろうか。それとも人類から進化した〈類人類〉が〈遍歴者〉を消すという事だろうか。それとも人類が〈遍歴者〉も〈類人類〉も消すという事だろうか。正直はっきりとしない。更に言えば、本書は本シリーズの〈遍歴者〉の究明を意図していたのにも関わらず、結果として〈遍歴者〉の存在が明かされない。おそらく〈類人類〉は〈遍歴者〉と同類もしくは〈遍歴者〉までの進化の過程と言えるのだろうが、『ストーカー』のゾーンと同じように物語の核でありながら正体を明かされない仕掛けという位置付けなのだろう。
本書を読み、その内容から連想したのはアーサー=C=クラークの『幼年期の終わり』だが、新たな進化を前にして様々な態度を取る人々を、より生々しく弱々しく滑稽に描写して見せるのはストルガツキーならではと思う。

波が風を消す (ハヤカワ文庫SF)

波が風を消す (ハヤカワ文庫SF)

*1:アメリカの小説家ワシントン=アーヴィングの短編名。アメリカ版浦島太郎として知られており、森鴎外が邦訳している。恥ずかしながら全く知らなかった作品である。

蟻塚の中のかぶと虫

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『蟻塚の中のかぶと虫』を読んだ。

マクシム=カンメラーが活躍する三部作の第二作目であり、異文明接触委員会が登場するNoon Universe〈未来年代記〉シリーズの一つでもある事は『収容所惑星』でも触れた通りである。本書では『地獄から来た青年』で登場した惑星ギガンダとその進歩官〈プログレッサー〉コルネイが重要な脇役として登場する。

  • コムコン-2異常事件部に所属するマクシム=カンメラーは上司である閣下ことルドルフ=シコルスキーから極秘裡に人捜しをするよう指示される。対象は惑星サラクシから地球に転属途中に姿を消した進歩官〈プログレッサー〉レフ=アバルキンだった。しかし渡された古臭い書類綴りには、失踪する理由も、そもそも手掛かりがあるようにも思われなかった。
  • コムコンとは異文明接触委員会ないし監視委員会を指し、コムコン-1には進歩官〈プログレッサー〉が所属する部署があり、コムコン-2には異常事件部こと通称異事部等の部署がある模様。マクシム=カンメラーは前巻『収容所惑星』の後、惑星サラクシで進歩官〈プログレッサー〉もどきとして働き、本書では異常事件部に所属している。続刊『波が風を消す』では異常事件部で働いた後、余生を送ったようである。尚、進歩官〈プログレッサー〉について、発展途上の惑星での情報収集等をしていると触れてきたが、本シリーズには「実験歴史学」なる学問分野があり、高度な理論を基に異文明に干渉しているようだ。特にそういった説明があるのが「神さまはつらい」である。
  • 物語はマクシムの関係者への調査と書類綴に収められた報告書―レフ=アバルキンが惑星〈希望〉でビッグ・ヘッド人であるシチュクンと共同で参加した〈死せる世界〉作戦が交互に語られる。
  • レフ=アバルキンがビッグ・ヘッド人シチュクンと共同で参加した惑星〈希望〉は地球文明より高度な文明を持つ通称〈遍歴者〉が関与した星と知られている。テクノロジーのコントロールが出来ず破滅を辿ろうとする星に〈遍歴者〉が積極的に関わり原住民を宇宙空間トンネルを使い救い出した痕跡があった。しかし原住民の行方は知られず、あくまで〈遍歴者〉は惑星の生態系を守る為に原住民は排除しただけだと考える者もいた。レフ=アバルキンは当時非ヒューマノイドのビッグ・ヘッド人と共同で作戦に従事した唯一人の進歩官〈プログレッサー〉だった。本書は基本的にミステリーだが、レフ=アバルキンとビッグ・ヘッド人シチュクンの惑星〈希望〉の探索が冒険譚となっており、二人の奇妙な掛け合いが面白い。
  • 〈遍歴者〉に対し地球文明は調査をしているものの、非ヒューマノイドらしい事や名前の由来となる一つの場所に留まらない性質を持つ事しか判っていない。地球文明は、自らが発展途上の惑星に進歩官〈プログレッサー〉を送り密かに関与しているように、地球文明もまた〈遍歴者〉の進歩官〈プログレッサー〉によって影響を受けているのだと考えており、本書及び続刊のテーマとなっている。
  • マクシムはレフ=アバルキンに関わりを持った教師、主治医、元恋人、ビッグ・ヘッド人に調査を進める。動物心理学者として才覚がありながら、何故か進歩官〈プログレッサー〉として職業が方向付けられ、また進歩官〈プログレッサー〉としてビッグ・ヘッド人との協同を多く提案し認められるものの、何故かその任務からは外されていた。
  • レフ=アバルキンの元恋人であるマイヤ=グルーモワはマクシムとの面談に激しく取り乱してしまう。どうやらレフ=アバルキンは彼女の許を訪れたらしい。しかしシコルスキーは彼女が地球外博物館に勤めている事に注視する。
  • レフ=アバルキンの元恋人であるマイヤ=グルーモワは次巻『波が風を消す』準主人公ともいえるトイヴォ=グルーモワの母親であり、トイヴォも幼い息子として登場する。
  • マクシム、シコルスキーはレフ=アバルキンから連絡が入る一方、マクシムもまたレフ=アバルキンの足跡を辿る事に成功していた。レフ=アバルキンが何を目的に行動しているのか判らなかったものの、元恋人とは過去について語り合い、元同僚のビッグ・ヘッド人には他の地球人と自分に違いがあるのか尋ねていた。
  • シコルスキーと共に地球外博物館に侵入するマクシム。シコルスキーはレフ=アバルキンが現れるのだと確信していたが、マクシムにはその理由が判らなかった。レフ=アバルキンとマイヤ=グルーモワの間で博物館は話題にさえなっていないからだった。
  • 二人の前に姿を表したのは、科学者であり科学に無限の発展を認める自由主義者のアイザック=ブロンベルグだった。シコルスキーとアイザックは過去の因縁をぶつけ合い始める。コムコンこと異文明接触委員会にとって自由主義者である科学者は有用な顧客だったが、秘密主義でもある異文明接触委員会は自由主義者最左翼のブロンベルグと仲違いしていたのだ。
  • ブロンベルグの元にある若い男が尋ねて来た。男は両親の失踪と自身の出生について調べていた。男の出生時に発生した科学史上の事故を調べていると石棺に関する話題が含まれており、男の右肘に見覚えのある変わった痣がある事を発見したのだ。
  • ある惑星で〈遍歴者〉が残した建築物が発見される。その建築物は現在も稼働中だった。その地下には石棺と呼ばれる装置があった。石棺は四万年以上前につくられたものだったが、その中には十三個のホモ・サピエンスの受精卵が保管されていた。世界評議会がこの発見の在り方を検討しようするなか、受精卵は活動を開始してしまう。破壊するのか、人類として受け入れるのか、〈遍歴者〉の意図に乗るのか、議論が繰り返された。最終的に十三個の受精卵は成長を見守られる事となる。コムコンの責任者であったシコルスキーは十三個の受精卵について、発見そのものを封印し、彼らをバラバラに育て、出生を秘密にし、地球への影響を避けるため成長後は地球外の任務を与える事を決めた。
  • レフ=アバルキンの肘に痣がある事が主治医から報告される一方、地球外博物館に収められ、法律上移動させる事が不可能になった石棺=培養器・孵化器を調査の為に分解したところ、ケースがありその中には印が付いた金属板が収められていた。印はレフ=アバルキンの痣と一致しており、十三人の子どもたちそれぞれに発現した痣と一致していた。金属板の一つを分解し再生を試みたところ、遍歴者の物質である為に叶わず、同時刻にその金属板の印を持つ人物が雪崩で死に、周りの人々も怪我を負う事になった。実験と事故に関連性があるか判らなかったものの、実験は中止され、金属板は痣を持つ者にとって雷管=起爆装置と信じられるようになる。
  • 現在、惑星ギガンダの進歩官〈プログレッサー〉であるコルネイ=ヤシマアは十三個の受精卵が成長した者の一人だった。ある心理学者グループは世界評議会から許可を取り付け、シコルスキーが設けた決まりを破り、彼に出生の秘密を明かしている。非凡な精神力を持ったコルネイはこれに動じる事無く、自らに潜在的危険がある事を認め、あらゆる事に協力する事を請け合う。更にコルネイは進歩官〈プログレッサー〉として惑星ギガンダに配属される際、既に公爵の主猟官として侵入していたレフ=アバルキンと接触しているものの、何も起きていない。
  • 更に心理学者グループがもう一人に出生の秘密を明かすものの、その後自殺の可能性も排除出来ない死に方をしてしまう。その死後、金属板から印は消える事象が確認される。金属板の印と痣を持つ人物には関連性が認められる事は誰も疑わなかった。
  • シコルスキーはレフ=アバルキンに〈遍歴者〉のプログラムが発動し、元恋人が勤める地球外博物館に収められた雷管=起爆装置に引き寄せられているのだと考えを示す。
  • シコルスキーとマクシムの前にレフ=アバルキンが現れる。既にブロンベルグから出生の秘密を知ったレフ=アバルキンはこれからは自分の好きなように生きると話すのだった。
  • マクシムはシコルスキーの考えに疑問を呈し、地球外博物館を訪れたレフ=アバルキンに逃げるよう説得するものの、レフ=アバルキンはシコルスキーが待ち受ける雷管の元へ向かう。
  • 銃声が聞こえマクシムが駆けつけるとシコルスキーによって撃たれたレフ=アバルキンが倒れていた。彼は手の先にある金属板に手を伸ばそうとしていた。元恋人から知った童歌を口から漏らしながら………。

ここまで読んで高度な文明が発展途上の文明にちょっかいを出す気持ち悪さ、しかも御大層に「実験歴史学」なるものまで用意している醜悪さが理解出来てきた。実験する為に歴史に関わってほしくない。本書の題名は、かぶと虫が蟻塚に侵入し慌てる蟻を眺めている様を〈遍歴者〉と人類にあてがった比喩である。マクシム=カンメラー三部作の中ではこの作品が一番好みだった。

蟻塚の中のかぶと虫 (ハヤカワ文庫SF)

蟻塚の中のかぶと虫 (ハヤカワ文庫SF)

蟻塚の中のかぶと虫 (1982年) (海外SFノヴェルズ)

蟻塚の中のかぶと虫 (1982年) (海外SFノヴェルズ)

私は古本屋で『収容所惑星』、『蟻塚の中のかぶと虫』、『波は風を消す』の文庫版セットを購入して読んだ。

収容所惑星

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『収容所惑星』を読んだ。

マクシム=カンメラーが活躍する三部作の第一作目であり、異文明接触委員会が登場するNoon Universe〈未来年代記〉シリーズの一つでもある。この未来年代記にあたる他の作品に「神様はつらい」「地獄から来た青年」がある。尚、本書は物語を覆す結末が用意されている作品であり、下記でこれについて触れている事を留意されたい。

  • 惑星を調査する自由調査団はまともな人間がやらない仕事らしい。この仕事に取り組むマクシム=カンメラーは宇宙船が成層圏で隕石と衝突する事故に遭い、放射能に汚染された惑星サラクシに降り立つ。宇宙船を何者かに爆破されたマクシムは惑星の調査に乗り出す。
  • 原住民に捕まったマクシムは憲兵隊に引き渡される。交渉を試みようとするも突如躁状態に陥った憲兵隊たちが特攻隊の歌をがなり暴力を働くのだった。結局病院に収容されるマクシム。権力者である〈遍歴者〉が彼に目を付け監督下に置こうと連行するものの、またも謎の躁状態に陥った原住民たちに巻き込まれ逃げ出す事になる。
  • 最初に知り合った憲兵隊員ガイの元に身を寄せたマクシムは憲兵隊候補生として働くようになる。憲兵隊の仕事は国家転覆を図る奇形人を取り締まる事だった。国は紅蓮創造者なる一部の集団によって支配されミサイル迎撃システムによって守られているのだという。しかし仕事に疑問を持ったマクシムは上官の奇形人殺害命令を拒否し銃弾を浴びるのだった。
  • 原住民とは比較にならない体力と治癒力を持つマクシムは死んでおらず奇形人の元に身を寄せる。ミサイル迎撃システムは国民をコントロールする放射線放出設備であり、奇形人はこれに対応出来ず頭痛等の症状に苦しんでいるのだという。国民の謎の躁状態もこれが原因だったのだ。ミサイル迎撃システムを破壊する事になったマクシムは塔の爆破に成功するが、ほとんど仲間が死んでしまう。
  • 捕まったマクシムは囚人として国境線近くで自動機械の破壊に従事していた。そんな最中、森で大型の頭を持った犬と遭遇する。物語でこれ以上触れられないものの、次巻「蟻塚の中のカブト虫」に登場するビッグ・ヘッド人である。尚、地球人で初めてビッグ・ヘッド人を発見したのはマクシムらしい。
  • 自動機械の戦車を手に入れたマクシムは南の国境線を越えようとする。そこで左遷されたガイと出会い連れて行く事にする。
  • 南で迫害されたミュータントたちの共同体を見つけたマクシム。飛行機を手に入れ海岸線に赴くものの、座礁した潜水艦から殺戮の歴史を知るだけだった。
  • 捕まったマクシムは隣国ホンチの国境線に連れて行かれる。戦争が始まるのだ。放射線移動車に追い立てられた戦車の群れが国境線を越える。マクシムはこれを逃れるものの、混乱の最中にガイは死んでしまう。
  • 〈遍歴者〉の計らいのもと研究員になったマクシムは地下組織を先導し、保身を図る国家検事の協力のもと放射線コントロール設備を爆破する事に成功する。遂に〈遍歴者〉を名乗る男と相対するものの、彼が発したのはドイツ語の罵倒だった。
  • 〈遍歴者〉の正体は銀河系保安局の職員であり、惑星を救済する為に国家中枢に入り込んでいた。マクシムはそれを知らずに行動し「あらゆる結果を考慮した準備」を破壊してしまったのだ。放射線設備もまた隣国からの侵攻を食い止める手段だったという。
  • 〈遍歴者〉を名乗る男はルドルフ=シコルスキーであり次巻ではマクシムの上司、通称閣下として登場する。本書では惑星サラクシの進歩官〈プログレッサー〉だったという事だろう。
  • 進歩官〈プログレッサー〉の役割は「神様はつらい」や「地獄から来た青年」の通り、発展途上の惑星で情報収集及び干渉するものである。更にここでシコルスキーが〈遍歴者〉を名乗っているが、高度な地球文明を凌駕する更に高度な文明の呼び名をあやかったものであり、続刊で言及される。
  • 物語の終わり、マクシムは〈遍歴者〉であるルドルフ=シコルスキーに今までの準備を破壊した事を非難されるなか辛うじて「ぼくが生きているあいだは、どんなことがあっても、けっして(放射線放出)センターを建てるようなことはさせない。たとえその意図が善意からでたものであっても……」と応えるのだった。

本表紙が古臭いものの強烈な印象を与える。結末は知らなかったのだが、よくよく考えてみると異文明接触委員会が登場する事が分かれば察しがついたかもしれない。ストルガツキー兄弟の作品で娯楽的な結末―但し苦渋に満ちている―が用意されているとは思ってもみなかった。

収容所惑星 (ハヤカワ文庫SF)

収容所惑星 (ハヤカワ文庫SF)

2016年3月7日~2016年3月11日

雑記(2014.3.11~)

上司が「もうすぐ三月十一日だ。」という。何年経ったのだろう。「もう五年だよ。」そんなに時間があったのに成長した気がしない。「日々変わっていると思う。」果たしてそうだろうか?

振袖姿の女性を見掛ける。

自らを引き受けるという人生の掛け替えの無さ。この言葉は気に入っている。

当初の目的も忘れ、同じ話題を繰り返してまた一年経った。二十代後半の生活の記録する事が目的だった事を鑑みるとこれは達したと言えるだろう。一つの区切りに辿り着けた事にほっとしている。肩の荷を降ろす事が出来た気分だ。そして語るべき事も無くなったという気がしている。

SAX RUINS の Blimmguass という曲を繰り返し聴いている。二つの曲調がフェードアウトを何度も繰り返している。

雪が降るという予報だったが結果として雨だった。

どうやら業務内容が変わる可能性があるらしい。全くアテにならない話だと思った。

友人からメールが届いていた。今度自家焙煎のコーヒーを振る舞ってくれるという。インスタントコーヒーしか飲まない馬鹿舌には贅沢な話だ。

2016年2月29日~2016年3月6日

雑記(2014.3.11~)

小埜涼子、吉田達也のSAX RUINSの作品を聴いている。シリアスな内容なのかと思ったがドリフの効果音みたいな音が鳴ったりする遊びが楽しい。

外周りの為に家を遅く出たところ、子どもを自転車に乗せた人々を多く見掛ける。出勤時間を少し変えただけで住む場所の印象は変わるものだなと感慨深い。

株式会社はてな、東京マザーズ上場という広告を見掛ける。

タオルケットやらバスタオルやらを新調したところ、大変快適になった。

商店街のポスターに髭面ストライプの小学生の絵が揺れている。当初は何を描きたいのか判らなかったが、ラグビー選手という事なのだろう。

マリーマリーマリーの新刊を読んだ。相変わらず緩い内容だった。

客先の人事異動に関する話題が聞こえて来た。もう春なのだと思う。

イヤフォンの電池が切れ、騒音にさらされる。

週末の陽気に眠気を誘われる。

少し外に出ただけで目と鼻がむずつく。

椅子と机を用意しようと家具専門店を訪ねた。購入書類に記入するなど店員の手作業が多い。理由を尋ねると「店内に入力するパソコンが少なくお客様を待たせないよう手書きで購入手続きを済ませています。」と言う。更に勤務状況を尋ねると営業時間外でも家具の組み立て、レイアウトの一新、店内の清掃と朝早く夜遅いという。「スーツですけど実際作業着でも着ていた方が便利ですよ。」思わずため息が出てしまう。

世界終末十億年前

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『世界終末十億年前 異常な状況で発見された手記』を読んだ。

二世紀振りの猛暑、「ありきたりの天体物理学に恒星力学。恒星と拡散物質の相互作用。」を研究する天文学者マリャーノフはある一つの発見をしようとしていた。しかしそれを遮るように、身に覚えのない高価な食料品が届いたり、生物学者の友人ワインンガルテンが突然電話掛けてよこし、今まで興味を持たなかったマリャーノフの研究について聴きたがった。電話の途中、妻の友人だという女性が家に上がり込み、隣人の物理学者スニョゴヴォーイを交えて酒と共に雑談に耽るなか、スニョゴヴォーイもまたマリャーノフの研究について知りたがった。翌日、スニョゴヴォーイが死んだと捜査官が訪れ、女性は姿を消していた。慌てたマリャーノフは上階に住む数学者ヴェチェローフスキイの元に駆け込む。
部屋に戻れば生物学者ワインガルテンとスニョゴヴォーイが口にしていた電子工学者ザハールとその子どもが居た。ワインガルテンはある発見をしたものの日常にごたごたが起き研究が進まずにいた。そして突然赤毛の男が部屋に訪れ、地球外文明の代表を名乗り、今までの騒ぎは意図したものであり研究を断念させる為だったと語った上、マリャーノフとザハールの研究も注視しているという。ザハールは昔関係を持った女性が次々と現れ、そして一人は子どもを連れてやって来た。古代から地球には九人同盟なる存在がおり科学的成果を蓄積し地球が自滅しないよう監視しているのだと彼女は言い、子どもを残して立ち去った。
更に東洋学者グルーホフも加わり、自分たちに起きている事態を荒唐無稽だと思いながら議論するなか、皆の話を聞いた数学者ヴェチェローフスキイはマリャーノフに〈均衡の取れた宇宙(ホメオスタチック ユニヴァース)〉なる考えを示す。「宇宙はその構造を維持しつづける」という公理の元、マリャーノフたちの研究がそれを脅かす可能性があり、十億年後に他の何千何万の研究と一体となって世界を終末に導かないようにしているのだという。
最初は荒唐無稽な話だと馬鹿にしていたマリャーノフだったが、家族や現在の生活を守る為に研究を諦める。しかし皆の研究資料を預かった数学者ヴェチェローフスキイは今の仕事を辞め、皆の研究の交わりとこれを断念させようとする法則を見つけるべく、パミール高原で仕事をするという。マリャーノフはヴェチェローフスキイが話を終えたのにも関わらずその続きを聞いていた。「十億年あれば、やれることは沢山ある、もし降伏しないで理解すれば、理解して降伏しなければ。」「蝋燭がパチパチ弾ける音を聞きながらだって原稿用紙は埋めることはできるんだ!ブラック・リバーのほとりにだって、命を捧げる価値のあるものはみつかるはずだ、と……」

「月曜日は土曜日に始まる」「トロイカ物語」が乗り気でなかっただけに夢中で読み進めた。ストルガツキー兄弟の作品の中でも特に好きな話だ。また本作はアレクサンドル=ソクーロフが邦題「日陽はしづかに発酵し…」として映画化しており、またストルガツキー兄弟も「蝕の日」と題して本作の映画シナリオを発表している。
尚、本書にはアルカジー=ストルガツキーによる自伝、深見弾による作品リストが掲載されている。

世界終末十億年前―異常な状況で発見された手記

世界終末十億年前―異常な状況で発見された手記

2016年2月22日~2016年2月28日

雑記(2014.3.11~)

客と同業他社と共に現場に赴く珍しい業務を与えられたのだが、何かと疲れたのは現場を取り仕切るリーダーの不在だろう。

路上に犬の糞が入れられた袋が踏みつけられていた。

電車の扉に「げじまーゆ」とかき傷があった。

fallout4ばかりプレイしている。何も無い日常生活を綴るより、よっぽどゲームのが内容を綴った方がよい気がして来た。

レキシントンを散策しているとスコープがグールを捉えた。屋根の上を確保し狙撃を始めるとグールが集まって来た。ライフルで数を減らした後、接近戦で片をつけた。ここのゾンビはよく走る。更に街に入るとスーパーウルトラマーケットという冗談みたいな場所を見つける。地下に入るとグールの巣窟になっていた。ゾンビと言えばスーパーマーケットとはお約束だ。接近戦の技術が乏しい為、その場を後にしスーパーマーケットの屋上を確保する。遠くの建物にレイダーが寛いているのが見えた。市街地を制圧したかったのでこれを狙撃して殺した。建物に接近するとタレットが確認出来た。これを破壊していると遠くから銃声が聞こえ始めた。別の場所で戦闘が行われているようだ。気にしてもしょうが無いとアイテムを回収した後、市街地に進むとグールがいる。これを片づけると付近にレイダーやグールの死骸が散らばっていた。あの銃声はここが出処だろう。アイテムを奪い持ち物が一杯になったところでサンクチュアリに帰還した。武器を改造したいところだが接着剤が足りないようだった。

電車で移動中、不器用な青年と猫の生活を描いた同居人はひざ、時々、頭の上という作品の広告を見掛け、ネット上で公開された作品を読んだ。青年視点と猫視点を分けて描いているのが新鮮だった。十万部売れているそうである。他にもライトな推理小説等の広告が目に入る。これもとても売れているらしい。

引き続きレキシントンを訪れた。トラップに掛かりで爆死したりするなかアパートに辿り着いた。最上階にレイダーが居た為、グレネードを放り投げたところ、リーダーは死んだものの雑魚が残ったので仕方無く接近戦に臨んだ。何処かの入植者と諍いを起こしているレイダーと思われたが詳しくは判らない。その後、グールを掃討しながら進むとスーパーマーケットの出入口を発見した。中には倒れたグールが無数居た。ヘッドショットで息の根を止めながら奥に進むとミニッツメンの死体があった。アイテムを回収した上で、端末をハッキングしロボットに残りのグールを排除させた。アイテムが一杯になったところでサンクチュアリに帰還した。

哲人と青年の対話形式の本を読む女性を見掛ける。どうやらアドラー流心理学を解説した本らしくとても売れているらしい。

スーパーマーケットの探索していたところ、複数のミニッツメンの死体を見つける。どうやらグールをしのぎきれなかったらしい。残されたデータにも悲鳴にも似た報告が残っていた。グールに照準を合わせると伝説級だと判った。ひたすら射撃したところあっさり倒れた。正面に捉えたままだったのが功を奏したらしい。運が良かったと思う。

タオルケットが破れた。よくよく考えてみると五年以上使っていたものだ。引越しした際に買ったものがそろそろガタが来始める頃かもしれない。新天地で家具を買い揃え新たな生活をしたいと思うものの先立つものが無い。

何年振りかに友人から連絡を貰った。話し終えて横になると取り留めの無い記憶が頭をよぎる。記憶は断片的で非連続的なものなのだと改めて実感した。

トロイカ物語

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『トロイカ物語』を読んだ。

「月曜日は土曜日に始まる」の続編にあたる作品。ただし訳者あとがきの通り、本作は二度発表されており、1968年シベリア地方文芸誌「アンガラ」に掲載された作品と1987年「スメナ―」に掲載された異なる内容のものがある。本書はこの二作の邦訳が収録され、細部の違いを楽しめるにようになっている。

異常現象の合理化と活用に関する三人委員会(トロイカ)が権力を握ったコロニー。プログラマーであるプリワーロフはブラックボックスを、エジクはお喋り南京虫を手に入れるべく、この委員会に出席する。この委員会ではあらゆる異常の存在する権利を審査していた。しかし実際にそこで行われていたのは凡庸な人々の官僚主義的で保守的なお役所仕事だった。プリワーロフはブラックボックスを手に入れるべく申請するも唯の黒い箱がブラックボックスだと決めつけられ、お喋り南京虫は自らを認めてもらうべく委員会で演説するも捻り潰されそうになる。その他、人間を尊敬する雪男、地球に不時着してしまい元居た場所に帰れなくなった詩の読者である宇宙人、翼竜、首長竜、過去の文献を読みたがる巨大なタコの妖怪等が登場する。

本書は官僚主義や保守主義を風刺した作品だったため体制批判とみなされアンガラは発禁処分となり編集部全員が首になってしまった。ストルガツキー兄弟はその後作品を発表する場が少なくなった。この時期アルカジーは翻訳で生活するしかなく、深見弾はアルカジーに義経紀等の資料を送って激励していたいう。

トロイカ物語

トロイカ物語