勝田文著『ちくたくぼんぼん』第2巻を読みました。
今回は断然1巻より面白く読めました。
特に今回は主人公イワ嬢が表情豊かに描かれており、著者が今まで用いなかった描写が見られます。もちろん笑いどころも多く、昭和初期の設定を活かして、サーカスやらラジオ等を題材に物語が進んでいきます。
又、脇役たちの心模様も描かれており、かゆい所に手が届く感じです。
本書で終わりかなと思っていたのですが、3巻に続くようなので続刊が楽しみです。
今回は、主人公イワ嬢の奉公先であるおばのたわ子の息子で英国留学の後、帝国大学に通っていると思われる都一君が読んでいる本が気になりました。
どうやら都一君は原典でジーヴスを読んでいるようで、イワ嬢目線からは意地の悪い人間と思われているようですがコメディも読むような人物なのかもしれません。作者の遊び心だというのが正解でしょうけど。
また翻訳されたのものではなく原典のジーヴスを読んでいるのはさすが英国留学をして帝国大学に通う学生といったところでしょうか。
さて今回都一君がイワ嬢にカントの「実践理性批判」のお使いを頼んでいます。
カントの実践理性批判は、カントの三批判書として有名なものですね、ジーヴスだけでなくカントも読む、さすがです。
イワ嬢にお使いを頼む訳ですからドイツ語原典ではないもの、つまり翻訳されたものだと考えるのが妥当です。そこで私は思いました、あれ、この時代カントは翻訳されていたのかなと。
カントの翻訳で有名なのは、三批判書の一つ、「純粋理性批判」を天野貞祐が訳したもので、翻訳された時代が時代なだけに現代人には読みにくいらしいのですが、その翻訳には定評があり、学生時代にはドイツ語教師が推薦していました*1。
インターネットで調べてみるとその天野貞祐初訳の「純粋理性批判」は上巻が1921年(大正10年)、下巻が1931年(昭和6年)が岩波書店から翻訳されており、上巻より遅れる形で岩波文庫で出版されています。
面白いのは、カントが「純粋理性批判」の解説をしたといわれている「プロレゴメナ」が先に翻訳されている事ですね。
さて、これを見る限り『ちくたくぼんぼん』が昭和初期という設定である事から別段「実践理性批判」が翻訳されていてもおかしくはなさそうです。
ちょっとインターネットで調べるのが下手なのか「実践理性批判」が初訳出版年がわかりませんでした。なのでとりあえず昭和初期に出版されているのが確認出来ればいいかと思い、手持ちの岩波文庫版「実践理性批判」を調べてみました。
この本の訳者は波多野精一・宮本和吉・篠田英雄となっており、冒頭、「カント「実践理性批判」改訳版について」と題されたものの説明によれば、「本書の原訳は波多野精一、宮本和吉両先生の共訳によって一九一七年(大正六年)に成就せられ、翌一九一八年六月に岩波書店から刊行された」とあります。
つまり「ちくたくぼんぼん」の時代に「実践理性批判」の翻訳されたものはあったんですね。
この説明によれば、1927年(昭和2年)に岩波文庫が創刊され「実践理性批判」も文庫化されているようなので都一君も手軽に買う事が出来たのかもしれません。
しかし著者はこういうのを確認しながら漫画を書いていると思うと頭が下がる思いですね。実際漫画では上述した通り、ラジオやサーカス等、時代考証を考えないといけないものが多かったから大変だったかもしれません*2。
ちなみに私は一応今回自分に関心がある事だったので簡単に調べたりしましたが、漫画を読んでいる時、時代考証を気にしたりしませんし、楽しめればいいと思っています。
参考サイト 「獨協大学 創設者・天野貞祐」 http://www.dokkyo.ac.jp/daigaku/a01_01_j.html
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