完全な真空

スタニスワフ=レム著、沼野充義・工藤幸雄・長谷見一雄訳『完全な真空』を読んだ。

スタニスワフ=レムによる架空の書物の書評集であり、メタフィクションの傑作として知られている。「短篇ベスト10」で紹介した通り、読者投票では本書から五作品が選ばれている人気振りである。
私自身はと言うと、この手のメタフィクションには苦手意識があって、昔ボルヘスを途中で投げ出した記憶があり、果たして今回はどうかなと読み進めたのだが、どうにかこうにか最後の頁までたどり着く事が出来たと言ったところだ。
架空の書物の批評である訳だから、ある書物、その作者、それを書評する評論家がおり、更にそれを書くスタニスワフ=レム自身、次いで読者=私がいるという、入れ子構造が展開されている。評論的・同人誌的パロディもあり、特に同人誌的パロディに関する書評では、登場人物たちを読者が勝手に性愛で結び付ける事の是非について書評されており、少し隔世の感がある*1
結局、スタニスワフ=レムならばSF作品を読んだ方が楽しめるというのが正直な思いであるが、私自身がここで文章を書く事もメタフィクションでは無いのかと考えると、全く他人事では無いのだと今更ながらに気がついた。

*1:著作権を考えれば当たり前の事が薄氷の上で成り立っている事を認識する昨今ではある。