走れメロス

太宰治著「走れメロス」を読んだ。

ふと「走れメロス」とはどんな物語だったのかと思い手に取った。「走れメロス」を初めて読んだのは中学生頃だったと思われるがはっきりとしない。改めて読んだ結果、おそらく既に指摘されていることだと思うのだが、色々思うところがあったため、それをここに記しておきたいと思う。

走れメロスとは言えば「メロスは激怒した。」の冒頭が有名である。メロスは政治が判らない村の牧人であるが邪悪に敏感らしい。16歳になる婚姻を控えた妹の結婚式の準備のため、村からシラクスの市へ2年振りにやって来た。結婚式の品々を買い終えた後、市内に住む友人のセリヌンティウスの下を久しぶりに訪ねようとすると、市内の異変に気が付く。メロスは通りすがりの老爺から国王ディオニスが人を信じることができないために世継を含む近親者や賢臣、派手な暮らしをしている市民を次々と殺していることを知る。そして「呆れた王だ。生かしておけぬ。」と冒頭の通り、激怒するのである。激怒したメロスの行動は早い。買い物を背負ったまま王城に入りたちまち捕縛され懐から短剣が出てきて大騒ぎになる。その後、メロスを国王の下に引き出され、問答が始まる。メロスは短剣で国王を殺害するつもりだったことを認め、国王が人の心を疑うことは悪徳だと語る。一方、国王は人は私欲の塊で信じるには足らないのだと語る。そしてメロスを磔に処せれば泣いて詫びる口だけの男だと断じる。メロスは国王に対して、ここで死ぬ覚悟があり、命乞いはしないと言いつつも、丁寧語で妹の結婚式を挙げるための三日間を要求する。国王は一度逃せば戻ってくることは無いとメロスの言葉を信じない。そのためにメロスは自らの身代わりとして友人のセリヌンティウスを差し出すのである。

メロスは政治が判らないものの、司法取引は行うのである。また、老爺に対して国王の行動が乱心に基づくかの確認もしている。加えて、最終的に友人を身代わりとして差し出すという行動も取っている。これらは、どうにも老爺の言葉を一切に確かめることもせずに信じたり、国王の殺害を決定したりする行動とは相容れないようにも思われる。メロスが単純素朴であるならば、その場で磔にされて死を受け入れれば良いし、友人を差し出す提案をするのではあれば、村に戻って妹の結婚式を挙げた後、国王を殺害するためにシラクスの市へ戻れば良いし、市へ戻る刻限を三日間と言わず五日間にすれば良いのである。しかしメロスは自らが走るためかのように物語の舞台を整えるのである。

走れメロス

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