本作の語り手は『こわれた腕輪 ゲド戦記 2 』に登場したテナーである。
テナーはその後、ゲドの才能を見出したオジオンの下で魔法や学問を修行したものの、自ら男の妻になり、母親になり、夫が亡くなった後は農園の女主人として生活を送っていた。
テナーはある時、虐待を受けて顔等に火傷と障害、心に傷を受けた少女を引き取り、テルーと名付けて共に生活を始める。
その後、死期を悟ったオジオンの呼び出しに応え、死を看取ると、ゲドが竜カレシンの背に乗って帰還を果たす。
アレンが長年空位だった王位についたものの、倫理が退廃して力が物言う世界がすぐに変わることは無い。
テナーは役目を終えて魔法の力を失ったゲドと少女テナーと共に生きようとするものの、数々の困難に見舞われる。
テナー自身は聡明で地に足を付けて生きてきているにも関わらず、まとめな魔法使いたちにさえ、中年の女性として軽んじられる。
この世界における魔法使いは女人禁制のロークの学院で魔法を学んだ男性のみになる。
一方、魔法が使える女性は女まじない師として市井を生きている。
なお、次巻『ドラゴンフライ アースシーの五つの物語 ゲド戦記 5 』収録「カワウソ」によれば当初は男女共に学院で魔法を学んでいたことが判る。
帰還したゲドは魔法の力を失い何をすれば良いのかわからない様子である。
その様は定年退職を迎えて途方に暮れる年老いた男性のように見える。
最高峰の魔法使いであったにも関わらず、途方に暮れたゲドはテナーがテルーを迎えて生活する先に何があるのかと問い掛ける始末である。
人は生活がまず初めにあり、未来に思いを至らすもので、ゲドの発言は観念的な愚問であろう。
なお、魔法使いは魔法に一意専心するため、自らの性欲を魔法で制御しており、ゲドは性行為の経験が無い。
俗に言えば、ゲドは童貞を守った魔法使いであると共に魔法が使えなくなった童貞である。
ただし、その後にゲドはテナーと結ばれる。
本作の序盤、テナーはテルーに対してオジオンが人の形をした竜に出会ったとされる逸話を語る。
そして終盤、テルーは竜カレシンを呼んでテナーとゲドを救う。
カレシンはテルーに対して「子どもよ、よくやった。」「さあ、もう、行こう。」「ほかの風に乗って、ほかの人たちがいるところへ。」と呼び掛ける。
しかし、テルーはテナーとゲドと共に残ることを選ぶ。
すると、カレシンはテルーにここでしなければならない仕事があること、いずれ迎えに来ることを伝えて、その場を去る。
本作の世界観において、ゲドは魔法が使える男性故に立ち回れた。
一方、魔法が使えない無力な女性のテナーやテルーは男性の庇護や所有物としてしか生きる術が無い。
このように、本作はこれまでのシリーズの魔法が規定する世界観の問題をフェミニズム的な観点から暴きつつ、竜と人の繋がりといった別の世界観を提示しようとしていると思われる。























