文部省編『民主主義』を読んだ。
一年程前、社会学者である西田亮介の「社会に政治を理解し、判断するための総合的な「道具立て」を提供せよ―文部省『民主主義』を読んで」という記事にて本書を知った。上記の記事や下記にリンクした記事から18歳以上に選挙権年齢を引き下げる公職選挙法改正や憲法改正を視野に入れた用意として本書を紹介している事が判る。
GHQ(連合国軍総司令部)とこれを補佐する部局CIE(民間情報教育局)が作成を指示、法哲学者尾高朝雄が編纂・執筆、経済学者大河内一男など一流の執筆者が揃えられたという。
教科書という形態に対して読むか迷った末、電子書籍を購入しスマートフォンで通勤等の空き時間を使って半年程で読み終えた。おそらく書籍として購入していれば本書を読み終える事は出来なかっただろう。電子書籍というフォーマットの有り難さを感じた。
他方、スマートフォン片手に休日の行楽に向かう人々を視界の端に本書を読み進めていると、何か自分が滑稽に思えて来る。眼前に紡がれるのは民主主義を実現する為の不断の努力を求める情熱的な筆致だ。本書が求める有権者の在り方は、敗戦70年を経て民主主義を当然の事として享受している私にさえ普遍性を持って迫ってくる。そして本書が求める多くが欠けている事に気が付かされる。
本書を読んでいた頃、集団的自衛権の容認を含めた安保法案を巡り民主主義の危機だという言説を多く見掛けた。民主主義の危機を回避する為に歴史を学んでいたのでは無かったか、そもそも集団的自衛権を解釈の領域に於いて甘んじていたのが誤りだったのでは無いだろうか、そんな事を考え複雑な気分になった。
西田亮介は批評誌『ゲンロン』にて「日常の政治と非日常の政治」と題してコラムを連載している。おそらくこれも本書同様道具立ての一つなのだろう。「ゲンロン2」では2016年7月10日に控えた参議院選挙と憲法改正に関する「事実」を確認しており、改選121議席のうち改憲派が77議席当選した場合、非改選議席の改憲派と併せて参議院の三分の二を達成するという。参議院の議席三分の二の達成は、憲法改正の発議を可能にする。
今回の記事を作成するにあたって、西田亮介が本書に解説を加えて編集した抄録版が刊行されている事を知った。本書のエッセンスを知りたければ新書を手に取るのも良いかもしれない。また新書発売にあたりネット上にて本書の一部が読めるようになっていた為、西田亮介の本書復刊の意図を説明した記事と併せて以下にリンクを貼る。
新書版の出版社幻冬舎ウェブサイトにて読める本書の一部
- 民主主義は、みんなの心の中にある<終戦直後の社会科教科書『民主主義』が熱い!>西田亮介 - 幻冬舎plus
- なぜ政治を「最も賢いひとり」に任せてはダメなのか<終戦直後の社会科教科書『民主主義』が熱い!>西田亮介 - 幻冬舎plus
- 「言論の自由」は、民主主義を守る「たて」<終戦直後の社会科教科書『民主主義』が熱い!>西田亮介 - 幻冬舎plus
- 英雄でも超人でもなく、「普通の人」を信頼する制度<終戦直後の社会科教科書『民主主義』が熱い!>西田亮介 - 幻冬舎plus
新書版を編集した西田亮介による解説
- 「民主主義の共通感覚」と『民主主義』--かつての中学、高校教科書『民主主義』復刊に寄せて(西田亮介) - 個人 - Yahoo!ニュース
- 『民主主義 〈一九四八‐五三〉中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版』の現代における批評性(西田亮介) - 個人 - Yahoo!ニュース
- 現代の「18歳選挙権」用選挙教育教材と『民主主義』(西田亮介) - 個人 - Yahoo!ニュース
- 『民主主義 〈一九四八‐五三〉中学・高校社会科教科書エッセンス復刻版』における幻の「はじめに」(西田亮介) - 個人 - Yahoo!ニュース
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