朝早く起き洗濯物を干した。雨戸を開けると塀の上の猫がこちら見つめていた。
外は暑く、隣に座った男性から校庭を走って汗と砂に塗れたかのような臭いがした。
仕事の合間にパソコンでニュースを眺めていると大きな地震があり、また任天堂の岩田聡が亡くなった事を知った。
帰りにディスカウントショップで靴やらバッグやら買い揃えた。両手に荷物で汗塗れになる。
カレールーを同僚から貰った為、カレーを作った。台所で作業していると汗が止まらない。更にカレーを食べ汗をかき、何だが疲れてしまった。
外に出ると風が強かった。どこかで雨が降っている。そういう風だった。
生温い香水の匂いが鼻に届く。
どんなに喚こうがどうにもならない。そう思うと口数も減るものである。
連日の暑さに辟易している。
午前二時に目覚めると布団から畳の上に移動していた。ここまで寝相が悪いのを認識したのは久しぶりだ。
早朝に目覚め洗濯物を干す。今日も暑くなりそうだった。
冷房で冷えた室内の空気感と暑い陽射しのコントラストが昔の記憶を思い起こさせる。
「ドアが閉まります。閉まります。ドアが閉まりまーす。」と車内のアナウンスがイヤフォン越しに聞こえた。
ワンピースの裾から解れた糸がエアコンの風に揺られている。
窓ガラスに映った女性があくびをして何度も顔を崩した。
同僚が脱獄した麻薬王に賞金が掛けられていると言う。捕まえたところで金を使う間も無くカルテルに報復されるだろう。
晴れ間から台風の影響で不安定な天気になった。蒸し暑い。
雨戸越しに風の音を聴く。雑然とした部屋にサーキュレーターの音が鳴る。
帰りに床屋に寄る。近所のラーメン屋が店を閉める事が多くなった理由を尋ねる。「スープの味が再現出来なくなったらしいんだ。購入していた豚骨の種類が変わっちゃたとか。」「体調を崩したという訳では無いんですか?」「以前はそういう事もあったけど最近はそれは無いんじゃないかな。味が変わっちゃうとあっという間にネットで広まっちゃうから大変だよね。飲食店も。」
アラビア語を電車の中で学ぶ中年の女性を見掛ける。赤ペンが入った問題用紙を見入る姿は真剣そのものだった。
発車間近の電車に乗ろうと小さな子どもが大きな声を挙げながら走っている姿に思わず顔が綻ぶ。後から乗り込んだ母親と子どもが電車の中で笑い合っている。
車内で子ども連れの夫婦や着飾った若い女性たちを見掛ける。これから長く短い夏が始まるのだと実感する。しかし高揚感はどこにも無い。
小さな子どもとベビーカーに乗った子どもが水筒の取り合いをしている。二人共綺麗なおかっぱ頭である。ベビーカーに乗った子どもは、母親に絵本を与えられると泣き止み、スマートフォンを眺める母親に何かを伝えようとしている。目の前にはよく似た母と娘が何やらパンフレットを眺めている。娘は水筒を何度も口許に運ぶ。目が合うと母の肩の後ろに顔を隠した。各駅停車の疎らに空いた座席、所在無げに吹くエアコンの風が顔を掠める。腹が減ったなとぼんやり思う。
改札前で友人を待つ。若い男女や子ども連れの人々の中に一人居ると場違いだと思う。
友人と合流し食事を取ろうとするも、どの店も人が並んでいる。飲食店を探しながら歩いていると目的地の美術館にたどり着いてしまう。
友人は最近茶道の勉強を始め、茶器を所蔵している五島美術館に興味を持ったのだと言う。展示品は食品会社のイセグループが所蔵する中国陶器を中心としたものだった。インペリアルイエロー、茄皮紫等の鮮やかな色と陶器の曲線を延々と眺めた。
食事を取ろうとするも連休中の混雑に辟易してその場を後にする。職場近くまで移動して適当な店でアヒージョとチーズを肴にワインを飲む。アヒージョが塩辛い
簡単な食事の後、ジャズ喫茶でコーヒーを飲む。スピーカーの前に座った為、友人の声が聴こえない。何か座ったまま楽しめるものが無いかと友人が言い、考えあぐねていると、友人自ら落語が見たいと答えを出した。調べてみると深夜寄席というものがあるらしい。
店の前で並んでいると先の公演を観終えた見目麗しい女性が客引きに出ていた若い落語家の女性と楽しそうに話し始めた。この女性が落語に興味を持ったのはどんな理由なのだろう。
席に座り演目が始まるのを待っていると先程の若い女性が斜め前に座った。演目は一度に二時間位掛かるので、この女性は四時間も落語を楽しむ気らしい。
新作落語が一つ、古典落語は勘定板、熊の皮、たがやの三つだった。初めて落語を聴いたのだが大変面白かった。熊の皮は噺家の力なのか大変面白く、勘定板とたがやは江戸時代の庶民の生活が目に浮かぶようだった。
落語の聴いた興奮冷めやらぬなか、時そばについて友人から聴く事になる。友人は話し終えると「話し方って大事なんだな、ほんと」と独りごちた。
日中の空いた電車に乗ると浴衣姿の十代の女性たちがスマートフォン片手に楽しそうに話しているのが目に入る。
ジムのモニターでもやまやさまぁ~ずを眺める。大竹が格好良く見えた。
掃除の後、エアコンを点ける。快適この上無い。ぼんやりしていると友人から連絡が入る。今日は誕生日なのだと言う。海の日が誕生日とはおめでたい奴だなと改めて思う。車で事故を起こし、車両保険に入っていなかった為に車を買い換えようと考えているらしい。
一日中は本を読んで過ごした。
隣に座ったのは澁澤龍彦を読んでいた中年男性だった。相変わらず汗臭い。今日は本を取り出す事無くスマートフォンで長い長い文章を眺めている。
イヤフォンを忘れた事に気がつく。予備のイヤフォンはあるものの、そこまでして何かを聴こうという気にもなれない。
平野啓一郎のマチネの終わりにの連載を読んでいる。クラシックギタリストの男性とジャーナリストの女性は相通じ合うものの、男性はギタリストとしてスランプに、他方女性は婚約までした男性との関係の清算しながら不安に陥っている。
遠くを歩く男性の腕時計が陽を反射して瞬いた。
勘定板は糞の、たがやは生首が飛ぶ話であり、決して上品では無い。しかし皆笑うのである。