コロロギ岳から木星トロヤへ

小川一水著『コロロギ岳から木星トロヤへ』を読んだ。
時間SF作品でありライトな味わい、楽しく読んだ。第45回星雲賞受賞作品。

時間の泉―原初の一点から全方位に広がった無限の空白には原初の一点に向けて大小様々な楔が浮かんでいた。カイアクたちは自由に泳ぎ周り時間の泉で楽しく暮らしていた。しかしカイアクは流れが弱い楔の後ろで休んでいたところ、誤って楔に顔と尻尾を挟みこんでしまう。

太陽活動の異常により太陽系の日照量が激変した。太陽発電に頼っていた小惑星ヴェスタは深刻なエネルギー不足に陥り百二十万人が死に瀕した。ヴェスタ人は木星前方トロヤ群の小惑星アキレスに目をつける。アキレスは当初からエネルギー問題が認識されていた為、宇宙移民に先立ち間歇型核融合炉「小陽〈トップ〉」を建造、その周囲にワイヤーで括りつけた居住区が公転していた。ヴェスタ人はトロヤ人に移民の受け入れを迫り、交渉は途中で破綻。宇宙航空技術に優れ常備軍を備えたヴェスタ人に対してトロヤ人は戦闘艦アキレス号を建造、一矢報いようとするも敗北、トロヤ人はヴェスタ人の軍門に下った。
西暦2231年、アキレス号艦長の孫リュセージとその親友ワランキはヴェスタ軍人と諍いになった後、モニュメントとなった戦艦アキレス号内の立入禁止区域に侵入し閉じ込められてしまう。そこで見つけたのは宇宙風化した蠕動する巨大な物体だった。

西暦2014年、北アルプス嘶咽木〈コロロギ〉岳山頂観測所ドームに大穴が開く。観測所の越冬要員岳樺百葉〈たけかんば ももは〉と観測所長水沢潔は、穴の空いたドームで紫蘇漬けにした大根のような生物に遭遇する。生物は自らをカイアクと名乗り「尾の先は217年先の木星前方トロヤ軍にあって、おそらくそのそばに人間がいる。彼らに、私の尾を解放しろと伝えてくれ」とお願いする。

こうして岳樺百葉は、カイアク、そして217年先の戦艦の残留放射線に晒されたリュセージとワランキを救出させるべく行動を開始する。カイアクから少年二人が閉じ込められている事を知り腐女子的妄想を繰り広げたり、何より前途ある因果連鎖が繋がる過程は小気味良い。

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)

コロロギ岳から木星トロヤへ (ハヤカワ文庫JA)