2023年3月の音楽

デスクワークの際にBandcampのレコメンド記事やAmbientやJAZZのタグの楽曲を聴いている。Kali Malone『Living Torch』や『INSHA』はこれらの成果になる。

Kali Malone『Living Torch』


ポートレイトのジャケットが印象を強く残す。使用されている楽器はトロンボーン、バスクラリネット、Pura Date、Boîte à Bourdons。Pure Dateはプログラミング環境の1つ、Boîte à Bourdonsは下記動画の楽器と思われる。持続する1つの音と複数の音の切り替え、一定のパターンの音の切り替えを繰り返しながら、音の質感の違いが明瞭になっていく。特に「Living Torch Ⅱ」は、リズムが複数の持続音にかき消され、リズムの印象(幻聴)が残るなか、現行の複数の持続音がリズムを模していることが明らかになる。実際のところ「Living Torch Ⅱ」で楽曲構造の面白さに気が付き「Living Torch Ⅰ」を何度も聴いた。


『INSHA』


ケニア ナイロビ出身でドイツ ベルリン在住のサウンドアーティストKMRUの共同キュレーションによるコンピレーションアルバム。本作はケニアの物語や神話、伝統を伝える音楽を探究を目的としており、発端となったプロジェクトはKMRUとMbogua Mbugua Mbuguaが運営するThe Nairobi Ableton User Groupになる。下記記事でも言及されているNabalayo「mtwapa siren」のコラージュされた楽曲は特に良く聴いた。なお、Esperanza Spalding『Songwrights Apothecary Lab』でもコラージュの一部のフレーズを聴いたような気がして原曲を探してみたものの、よく判らなかった。
daily.bandcamp.com

Ellen Arkbro & Johan Graden『I get along without you very well』


昨年のアンビエント系作品の傑作として挙げられている。日本盤のライナーノーツを担当している電子音楽家のよろすず氏の下記レビューが詳しい。例えばキース=ジャレットのピアノプレイから時折りマイクが拾う鼻歌のような、楽器の演奏から前景化しないヴォーカルの質感が繰り返し聴いてしまう理由だと思う。
note.com

Brendan Eder Ensemble『Therapy』





Brendan Ederはロサンゼルスの作曲家、ドラマー。下記記事によれば、過去には映画「ミッドサマー」で知られるアリ=アスター監督の短編の作曲を担当していたという。前作「Cape Cod Cottage」は架空の引退した歯科医師 Edward Blankmanが1970年代に制作したというコンセプトを持つ、悲しみを表現したアルバム。悲しみと向き合うためのフィクションとは切ないものの、アンサンブルの聴き心地は慰めになり、繰り返し聴いている。
Brendan EderはFugazi、Aphex Twin、フュージョン時代のMiles Davis、ストラヴィンスキー、Charles Ives(チャールズ=アイヴズ)を若い時分に好んで聴いており、本作は「Aphex Twinが室内楽のアンサンブルと教会のオルガンで何をするのか?」という問いから作られたという。なお、この問いはBrendan Eder Ensembleのファーストアルバム「To Mix With Time」においてAphex Twin「#20 (Lichen)」をカバーしたことから始まっているとのこと。本作にはAphex Twinのカバーが2曲収録されており、原曲と比較すると木管楽器の使用による残響が窮屈さの無い空間の広がりをもたらしている(これまでAphex Twinのアンビエント集は聴いておらず、原曲の完成度の高さに唸った。原曲は下記)。今後はファーストアルバム「To Mix With Time」やAphex Twinのアンビエント集を楽しみたいと思う。

www.oto-tsu.jp