惑星トンガリ/第3回

そんななか、凸恒星系を目指す知的生命体が現れた。この知的生命体は実は惑星トンガリを起源としている。惑星トンガリに角が生えると同時に成層圏を離れた大地の破片の数々は秩序ある宇宙に数々の災厄をもたらす一方、新たな生命と文明の福音にもなった。

破片の数々が暗闇を突き破り、大地を照らすと、暗闇から有象無象の生命体が這い出した。光に皮膚を焼かれ死んでいく個体の屍が積み重なると、厚い皮膚を持つ個体たちが光の中を自由に行き来するようになった。個体達は生殖を繰り返しては、突然変異を起こし、生き残っては滅び、高次の知的生命体へと進化を遂げて文明を築いた。

知的生命体は合理化の果て、限られた資源を確保するために個体化することを選んだ。彼らは自らをサイボーグ化した上で連結し、個体化を実現した。しかしながら、個体化の果てに彼が手に入れたの孤絶と孤独だった。彼は支配する星域の資源の枯渇の前に宇宙船を作り上げた。

彼はメンテナンスを継続する限り、生き永らえることができた。個体化の果て、彼の生の意味は自らの種の保存以外に無かった。しかし、ただ種を保存することに何の意味があるのだろう。彼はそう考え、支配する星域を物資化すると宇宙船を発進させた。

生体端末の意志は彼の生きる標となった。しかし、その意志は空虚だった。彼は自らの種が到達した合理性の極北に敬意を払う一方、残された者に対する感情の無理解を呪った。気の遠くなるような時間の中、何度かの精神的脱皮の経ると生体端末がメンテナンスに必要な資源の確保を指示した。しかし、彼は自らの存在に倦んでいた。とは言え、種の滅びを選択するほど、自らと種を嫌い切れていなかった。逡巡の果て、人工生体をメンテナンス無しで長期間活用すべく、長い眠りに着くことにした。生体端末が宇宙船の目的地として指示した場所は何の因縁か運命の悪戯か、凸恒星系の角の惑星トンガリだった。