みにくい白鳥

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、中沢敦夫訳『みにくい白鳥』を読んだ。

雨が降り止む様子は無い。作家ヴィクトルは娘が大人のように話している事に気がつく。妻によれば娘は濡れ男のところに出入りするようになったという。濡れ男について余り街の人々は知らない。伝染病だという話もあったが憶測の域は出ず、街の外れの病院に収容されている。偶然、ヴィクトルは濡れ男が襲われているところに遭遇し興味を持つようになる。そんな折、作家に子どもたちから講演の依頼が届く。質疑応答で子どもたちは作家の考えや既存の価値観について疑問が示してみせる。そして子どもたちは濡れ男が住む収容所に身を寄せ戻らなくなる。親たちは子どもを取り返すべく収容所に集まり、また政府も濡れ男の弾圧を始めるのだが…。

本書では、未来を託されるべき存在である子どもたちが、過去の遺産や思想を受け継がないとはっきりと示す。この考えには衝撃を受けた。そして頭に過ぎったのは、過去の様々な文化を学び受け継ぎながら戒めているはずの過去の汚濁もまた継承してしまい、発露するきっかけを与えている、そんな事だった。

雨男は食料より本を読まなければ生きていけないらしい。情報生命体的な人の突然変異なのだろうか。

本書は単独で発表されたものだが、その後ストルガツキー兄弟は『そろそろ登れカタツムリ』と同様、『モスクワ妄想倶楽部(原題「びっこな運命」』と合わせて一つの長篇として発表している。本書はまだその長篇が未発表だった為、単独で刊行したと訳者あとがきにある。

みにくい白鳥

みにくい白鳥