地獄から来た青年

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『地獄から来た青年』を読んだ。

惑星ギガンダではアライ公国と帝国が血みどろの戦争を繰り広げていた。アライ公爵に忠誠を誓う公国特殊部隊ファイティング・キャットのガークは突破された前線にて守備につくものの、戦車に焼き出され炎に包まれる。
ガークが目覚めた先は地球だった。優れた文明を持つ地球人は、惑星ギガンダの隅々に地球人を送り込み、優れた人物を助け、また政治に介入しているのだという。ガークは彼らにたまたま助けられた一人だったのだ。
惑星ギガンダの干渉に携わるコルネイと共に地球で暮らすガーク。そこには全てあったが、ガークには何も無いに等しい場所だった。コルネイが公国と帝国の戦争を終結させるべく計画を進めるなか、ガークは地球文明に対して自らが全くの無力である事を悟り、また忠誠心をもて余し、兵士としてのやり場を失ってしまう。
コルネイに帰還を許されない為、ロボットを兵士として従え軍事教練して日々を過ごすなか、コルネイから公国と帝国の戦争が終結し、公爵が逃走した事を教えられる。またコルネイを尋ねたアライ人と偶然出会うも「人殺し。」と罵られる。コルネイとの口論のなか渡された書類には、公爵たちの生活振りや、罵られた青年が数学に才があり、地球人に助けらた事が報告書としてまとめられていた。
コルネイに引き合わされた軍人が地球人である事を喝破するガーク。それはギガンダの大科学者を救う偽装の準備だった。ガークは、地球文明の利器で作り上げた拳銃で自らを惑星ギガンダに連れて帰るようコルネイを脅すのだった。
戦争は終結したものの政治的混乱・経済の混乱・伝染病に苦しむ惑星ギガンダ。ガークはぬかるみの中で立ち往生している軍用救急ワゴン車を見つける。血清を運ぼうと必死になる軍医に地球人とその超文明の幻影が過るガーク。しかし彼は幻影を振り払いワゴンを力一杯に押しながら故郷に帰ってきたのだと思うのだった。

「神様はつらい」と同様、超文明を持つ地球人が発展途上の惑星に干渉を図る一連のシリーズものだった。神様はつらいが、中世の反動期の最中を思わせる惑星で知識人を救い出そうとする地球人を描いたものに対し、本書は第二次世界大戦を彷彿とさせる争乱の最中の惑星の叩き上げの特殊部隊員が、地球人が惑星に干渉し戦争を終結に導くのを茫漠と見守る姿が描かれている。また惑星の干渉に携わるコルネイの生活や家族との確執等が他の惑星の兵士の視線から描かれている点も面白い。

本書の訳者はクレジット上、深見弾となっているが邦訳途中に死去した為、弟子の大野典宏・大山博が作業を引き継ぎ、また訳文のチェックを矢野徹が行ったと追悼文及び訳者あとがきにかえてに記載されている。深見弾はストルガツキー兄弟の邦訳をほとんど担っているが、アルカジー=ストルガツキーは日本語を理解していたためか交流もあったらしい。「モスクワ妄想倶楽部」という作品では、深見弾がモデルとされる日本人が登場しており、ストルガツキー兄弟の作品を語る上で深見弾は唯の翻訳家という枠を越えている。現在、深見弾の邦訳作品の再販等では大野典宏が改訳及びチェックをしているようだ。

地獄から来た青年

地獄から来た青年