欲望という名の電車

エリア=カザン監督作品『欲望という名の電車』を観た。脚本はテネシー=ウィリアムズ。

学生の時、病跡学の論文を読み進める講義があった。論文はたいてい著名な芸術家等が対象になっていたのだが、フィクションである本作のヴィヴィアン=リー演じるブランチが対象となっているものがあった。ここでこの講義を受け持つ教授はヴィヴィアン=リーの美しさについて饒舌に語った。おかげでブランチがどのような症例だったかはすっかり忘れてしまっている。

上記の論文を読むまでも無く、画面に現れたヴィヴィアン=リー演じるブランチは何やら不穏な空気を纏っている。言動のおかしさ、名家気取り、若い男性に対する好奇心、どれもがブランチの実情からずれている。特に若い男性に対する興味を抑えられない様は心苦しい事この上ない。実情に即した着地点であろうミッチとの結婚も、妹ステラの夫スタンリーによる過去の暴露によって破談となり、加えてスタンリーの暴力によって、ブランチは遂に精神の均衡を崩してしまう。

自らの実情に即するとはどういう事なのか、自分に対する脇の甘さが垣間見える時、ブランチが他人事では無いと思えてくる。