アメリカン・スナイパー

クリント=イーストウッド監督作品『アメリカン・スナイパー』を観た。

本作はイラク戦争にて狙撃手として従軍し「伝説」と呼ばれたクリス=カイルを主人公としたものである。
女性子供をためらいながらも射殺する。軍人であり、伝説と呼ばれた狙撃手が主人公なのだ、当たり前の光景ではある。しかし、監督であるクリント=イーストウッド「グラン・トリノ」に於いて暴力を放棄してみせたはずだった。本作の違和感は、過去に示された作品との距離感にあり、またこの物語が淡々と肯定的にも否定的にも戦争を描写せず、メッセージ性を読み取り難いところにあった。
ライバルであるイラク人の狙撃手を射殺した後*1、彼はアメリカに戻り、戦争の後遺症に悩まされながら、医師の紹介によって傷痍軍人との交流を始める。この交流が射撃場で行われているのにはハッとさせられる。戦争の記憶を遠ざけるのでは無く、同様の経験を共有し向き合う場なのだろう。しかし、その射撃場で、主人公はやはり戦争の後遺症に苦しむ若者に射殺されてしまう。エンディングには彼が葬送される様が流される。正直に言えばどのような感慨を持てばいいのか判らなかった。ただ意外にも忘れていたのは、戦争に行きその場で死ななければ、日常に戻り生きて死を迎えなければならないという当たり前の事だった。

*1:この戦いのシーンが余りにもフィクションという感じがしたので少し興醒めした。