2014年6月19日

改札内で老人が荷台を引いている。荷台にはアンパンマンのお面と風車が付けられ、祭のステッカーが貼られたダンボールが積まれている。出店の店主だろうか?電車の空いている座席に座ると子どもを抱えた背広の男性。二人は特に会話も無く電車が出発するのを待っている。隣に座った女性から漂う香水の匂いが鼻を衝く。

尿意を覚え起床。昨日食べたシンガポール風チキンライスに使ったニンニクの残り香が室内に漂う。上階から住人の声が聞こえる。シャワーを浴び着替える。天気は良い。公園で喫煙、とんぼが飛んでいる。この時期に飛んでいるのかと新鮮な気持ちになる。モンシロチョウが垣根に舞い、雀が地面を跳ねている。

客先へ午後の初めに向かう。リクルートスーツを着た若い男女、男が女の胸に触り、お互いに笑っている。客先に書類を提出し、更に書類を受領する。執務室を出る。誰も居ない廊下、沈黙、監視カメラの回転。夏休みに入って静まりかえった校舎を思い出す。音は遠くに、人の気配は無い、そんな空間。そしてそれは何故か死のイメージを想起させる。それは世界と自分が分け隔てられる事を暗に知った場所だからなのだろう。静謐な死という都合の良いものがあるだろうか。死そのものは静謐だ、しかし死に至るまでは狂騒と激痛を伴うかもしれない。事務所への帰り道、人混みに紛れながら暇を持て余す。

会社にて回覧を渡される。組合の活動報告だった。「製造業を中心としたアベノミクスの影響は無く、厳しい経営状況が続いており」云々。十部以上ある報告書は回覧で目を通す事が不可能なのは明らかだ。にも関わらず事務所の社員は全員目を通したとして印鑑が押している。回覧の目的は夏のボーナス額の交渉経緯なのだろう。しかしその経過さえ具体的な数値は示されていない。続いて頁をめくれば何処で誰が行っているかも判らない上半期の活動が羅列されている。平和活動、スト、他人事としか言いようが無い。これまで勤めた会社は零細企業、数年経たベンチャー企業等で組合が無かった。しかし会社の態を成していた職場では給料に不満は覚えなかった。文句の一つも言いたいところだが、現在の賃金もまた妥当としか言いようが無い。皮肉にも正に仕事の対価とも言うべき額だ。今までが恵まれていたというべきだろう。これが不満ならまた転職するしかないという結論に至り、書類に印鑑を押す。

スーパーで鳥の挽肉を買い、いつもとは違う道を歩き自宅を目指す。空にはまだらな雲、その向こうには黒い雲が広がっている。自宅に戻り、服を脱ぎ横になる。電気を点けない部屋で徐々に明るさが行き場を失っていく。雨戸を閉め、電気を点ける。小さな虫が軌跡を残しながら蛍光灯の周りを飛ぶ。台所に向かい、ご飯を炊く。挽肉と野菜を共に蒸し炒め卵でとじる。サラダ油とケチャップを買い忘れていた事に気がつく。