『福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2』

福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2』を読んだ。
『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β vol.4-1』の続刊。本書は題名の通り、福島第一原発の観光地化計画案が掲載されている。
本書は4部から構成されている

  • 制度をつくる

福島第一原発周辺を既に被災者がメディア関係者を対象として案内している現状を紹介している。富岡町、浪江町の様子を報告をしており、何より被災者=ガイドの報告は、被災後の現状や考えを知る事が出来る。一方、井出明のガイドに関する論文では、ガイドには、インタプリター(解釈者)とネゴシエーター(交渉者)としての役割があるという。インタプリターとは悲しみの記憶を客観化する、例えば語り部と客の間に入りその意味を解釈させる役割である、ネゴシエーターとは、現地で客に助言を与え地域住民と客の間の負担を取り除く役割である。また福島第一原発観光地化に置いて、科学技術コミュニケーションの能力が必要になると述べる。
また助田徹臣は福島第一原発の取材に於いて、見学工程がツア―として見た時、完成度の高いものだったと述べているのは意外である。
観光に於ける食の安全性、デジタル・アーカイブの実践や試行、その他の観光地化への動きが掲載されている。

  • 導線をつくる

品川~田町駅間に新しい駅が設置され周囲がアジアヘッドウォーター特区として開発されるというニュースは記憶に新しいが、これに伴い東北本線常磐線が上野駅から東京まで乗り入れ可能な「東北縦貫線」の工事が2014年度に完成するという。また成田空港と羽田空港を結ぶ京成線、都営浅草線、京浜急行線をバイパスする新線、品川駅に設置予定のリニア新幹線により、アジアから品川、品川から東北への動線が出来ると藤村龍至は述べている。
これに伴い、各地自然災害や近代的危険を学ぶ事を出来るハザードセンターを設置する事を井出明が述べている。これに対して元都知事猪瀬直樹のインタビューが掲載されているが、あくまで福島県民が設置すべしという意見を述べている*1
その他、藤村龍至による東京五輪に合わせJヴィレッジでの復興博案、駒崎弘樹による平和教育をヒントにした災害教育案が記載されている。駒崎弘樹氏の提案は非常に効果が高いのではと、小学校での災害教育に関する社会化実習を思い出しながら思った次第。
また藤田浩志による災害復興農業館を提案は非常に読み応えがあるので一読をお勧めしたい。
その他、本誌の計画の拠点を福島に置くことを計画した東浩紀津田大介の対談が記載されている。

  • 欲望をつくる

東京電力福島第一原発事故跡地をサイトゼロとし、廃炉作業を見学出来る状況に、そしてJビレッジは福島第一原発のゲート―ふくしまゲートヴィレッジとし、車及び電車で乗入れ可能な施設とする…という提案が為されている。
原発事故を記録する災害瓦礫モニュメント「ツナミの塔」、福島第一原発事故博物館、地方自治課題解決センター、リカバリービーチドーム、ネオお祭り広場、東北復興大学院大学、ホテルとショッピングモール、日本科学未来館分館、常磐線新地下駅、農泊村、南相馬IT特区などのアイデアがふくしまゲートヴィレッジ及び周辺に構想されている。ツナミの塔、リカバリービーチドーム、ネオお祭り広場、ホテルとショッピングモールは、ダークツーリズムに於いて、他のレジャーと共にあるからこそ人々の招き悲しみを継承する事が出来ており、そして息抜きの場として、経済的な側面も期待できるという。
またこの施設を構想した藤村龍至、東浩紀・八束はじめの鼎談を非常に読み応えがある。
その他、堀江貴文八谷和彦による福島にスペースポートをつくる案が掲載されている。


  • 補遺

上田洋子と開沼博によるふくしま復興塾の塾生と再度チェルノブイリを訪れたレポート、井出明のダークツーリズムに関する論文、本書以外の福島復興計画の資料等が掲載されている。また東京電力福島復興本社石崎芳行と原発作業員でありTwitterで情報発信するハッピーとサニーへのインタビューが掲載されている。
井出明がダークツーリズムを学ぶためにゴルゴ13を挙げているのは、結構納得した。


以上が本書の概要であるが、図案や写真、細かい予算案等が記載されており、本書を手に取って判る事が多い。おそらく本書を読まなければ私のようなものは日常に福島の地震、津波災害、原発事故の状況に注意を向ける事が今以上に出来たか判らない。今後どのように各人が意識を向ける事が出来るのかが、復興、引いては観光地化出来るかの鍵になるのでは無いかと思う。風化はして欲しくは無い。


福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2

福島第一原発観光地化計画 思想地図β vol.4-2

*1: 但し、東京五輪が決まる事によって都民の意識が変われば可能性があるのでは無いかとも語っている。