映像が語る少女失踪事件―『ドラゴン・タトゥーの女』追記

『ドラゴン・タトゥーの女』について以下追記する。

本作に於ける少女失踪事件の重要なアイテムとして登場するのは、複数の写真である。
複数の写真は、ミカエルとリスベットを少女失踪事件の犯人へと導く。
しかし、静的な写真だけでは意味はなさず、ミカエルは連続写真をmacに取り込み再生させる事によってその意味を知る。
つまり静的な写真を、映像として再現する事によって重要性を知るのである。
犯人は隠し部屋でミカエルを拘束して語る。
「私は父と違い、痕跡を残さない」と。
そう語りながら捕らえたミカエルに向けて隠し部屋に常備されたビデオカメラを向け、自らの姿をレンズの前に晒しさえしている。
更に言えば、その後リスベットは隠し部屋にて少女をレイプした際に撮られたであろう写真を見つけ出している。
犯人は常に写真という形でその痕跡を残して続けていたのだ。

一方、リスベットは映像を用いる事によって身を守る。
被後見人にレイプされる際、バッグに仕掛けた広角レンズによるビデオ撮影で、被後見人に脅迫し逆襲する。
また、ミカエルが調査の為に使用していた一軒家にあらかじめ監視カメラを仕掛け、ミカエルの窮地を救う。

犯人はレイプと殺人による快楽の余韻に浸る為に、写真や画像を愛でる目的で残しているのであろう。
他方、何ら関係無い人間が向けたカメラに身を晒す事によって自身への痕跡を残し続けていた。
リスベットは自らの身体を犠牲してまで映像を残し、それを用いて自らの力として行く。

残された画像と映像。客観化された画像と映像を意味付ける事によって、少女失踪事件は解明される。
過去の一点として画像が物語る「点―場―空間」だけでなく、映像として復元する事によって明らかになる「線―時間―動き」。
そして、映像という客観化された証拠を用いて戦うミカエルとリスベット。
本作は「映像」の力の物語なのだろうと思うのである
上記の内容は『グラモフォン・フィルム・タイプライター』を読みながらの思いついた次第である。


グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)

グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)


グラモフォン・フィルム・タイプライター〈下〉 (ちくま学芸文庫)

グラモフォン・フィルム・タイプライター〈下〉 (ちくま学芸文庫)