劔岳 点の記

 『劔岳 点の記』を観た。
 浅野忠信が主演だということで観に行く。かなりハードな撮影だったと聞いていてどんなものかと観に行った。原作は新田次郎、監督は木村大作。私は名前こそ聞け新田次郎の本を手に取ったことはない。また木村大作という人がどのような経歴なのかも知らなかった。有名な撮影者だそうだ。
 物語は明治時代、陸軍測量部は国防の為に日本地図完成を目指している。そこでまだ測量が出来ていない劔岳の測量と初登頂を浅野忠信演じる柴崎芳太郎に命じる。また設立間もない日本山岳会も劔岳初登頂を目指しているため陸軍の威信にかけ彼らに先を越されるなととも柴崎に忠告する。
 この映画において映される山々の風景はとても美しい。そして音楽による演出が良い。確かに良い音楽なのだけど、最初私は煩わしく感じた。しかし、音が徐々に小さくなり沈黙した時、その山の、自然の静謐さに、気がつくことが出来るのだ。この静けさ、非常に心地良いし、映像が目に焼きついてくる。
 柴崎の妻を宮崎あおいが演じている。非常に可愛らしく撮られている。元々可愛いのだが、ふところに入り込んでくるような可愛いさだったか?、と思った。また浅野忠信はぼそぼそと声を出しながら山形出身の柴崎を演じているのだが、違和感を覚えないわけではない。前から思っていたのだが、浅野忠信がキャラの濃い役でない、普通の人を演じている時の話し方は、余りにも自然過ぎて他の出演者の会話とかみ合っていないように感じる。それが浅野忠信演じるキャラクターの持ち味となっているのなら構わないけれども。
 この物語の面白さはただの山登りではなく、あくまで測量の為の山登りということにあると思う。未踏の劔岳を登りたいという柴崎の部下たちのはやる気持ちを抑え劔岳付近の山々に測量器具を運び出す。そして計測する。測量器具を運び出すのは、金で雇った山に生きる人々である。測量士は山に生きる人々を賃金によって「使う」わけだが、それゆえに信頼関係は希薄である。しかし、共に行動し助け合うなかで、信頼関係が出来上がっていく。現代の登山においては登山家が、雇った人とどういう関係を築いているか具体的に知らないが、結構厄介なものなのだろう。
 また柴崎たちのライバルとして日本山岳会が登場するが、山登りを通じて互いの目的の違いと、情熱を知り尊敬し合うようになっていく。これらは非常にベタなことだけども、人間における関係性の深まり方を描いている点で面白い。例えば東京で鼻息を荒くしていた陸軍測量部の偉い方々は、その関係性の外にいるゆえに彼らのことを何とも「考えられない」のだから。

 単純に面白かったの雪面の傾斜を棒か何かで滑る猟師の技。あれは格好良い。