バートルビー

ハーマン=メルヴィル著『バートルビー』を読んだ。この作品は、ジョルジョ=アガンベン著『バートルビー 偶然性について』に所収されているもので読んだ。ちなみにメルヴィルの作品は初めて読んだ。ではなぜ『バートルビー』を私は読んだのか。理由は二つある。まず最近エンリーケ・ビラ=マクス著『バートルビーと仲間たち』が話題であること、が挙げられる。まだ読んでいないが、それで「バートルビー」という言葉にアンテナが張られた。二つ目の理由ははてなブックマークにジョルジョ=アガンベン著『中身のない人間』がブックマークされていた。なんでこの本をブックマークしたのか、理由は忘れた。恥ずかしながらジョルジョ=アガンベンという哲学者も詳しく知らなかったのだが。とりあえずブックマークされている本を買ってみようかなとジョルジョ=アガンベンの著作を調べていたら、「バートルビー」という言葉が目に入った。そして『バートルビーと仲間たち』の「バートルビー」がメルヴィルの『バートルビー』という作品に由来するものだということを知った。そして今の状況にいたる。ジョルジョ=アガンベンの論文にはまだ目を通していない。あと他につながりを見つけるとしたら、ジョルジョ=アガンベンはベンヤミンの影響を受けているようだ。最近ベンヤミンを読んでいただけに、このつながりには少し驚いた。

さて『バートルビー』について話を戻すと、これはかなりすごい話だった。ベケットの『ゴドーを待ちながら』『エレウテリア』を読んで以来の、同じタイプの不条理、頑固さがこの『バートルビー』に見られる。

物語は法律事務所の写筆生バートルビーについて語られる。彼は仕事を真面目にこなすのだが、写筆しかしようとしない。他の仕事をさせようとすると彼は「しないほうがいいのですが」と断りを入れてくる。そして最終的には写筆さえ「しないほうがいいのですが」と言い出す。それならばと雇用主は解雇を言い渡すが「しないほうがいいのですが」という。雇用主は法律事務所を寝床にしているバートルビーにせめて事務所から出ていってほしい、十分なお金を渡すから、というのだがバートルビーは「しないほうがいいのすが」と答える。彼は何もしない、何も答えない。しかしその存在の大きさを雇用主と共に私たちは味わうことになる。この「しないほうがいい」という奇妙さ、珍奇さを見つけ出したメルヴィルは恐ろしい才能を持った作家なのだろう。他の作品も読みたくなった。この本の帯によればジョルジョ=アガンベンはこれを潜勢力という概念で読み解くらしい。

バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』

バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』