少し遅くなったが加藤典洋の文芸時評が最後だったのでここで取り上げてみる。
加藤は最後に、出た時点で取り上げるべきだった作品に梅田望夫著『ウェブ進化論』を挙げている。『ウェブ進化論』で指摘されるインターネットの本質が不特定多数者と表現の結合であると述べている点をボルヘスの「自分は「誰かの文体」ではなく「誰でもの文体」の文体で書くだろう」という発言にもとめている。そして公的空間からつくられる価値の基軸を不特定多数者に基づくウェブ空間に生み出すことで、更新しようとしているのだそうだ。
そしてウェブ空間では価値の転倒が起きる。既成の権威の価値がなくなっていくのだ。加藤は文學界に掲載された十一人座談会「ニッポンの小説はどこへ行くのか」や自身が書くこの「文芸時評」を「重くてダサイ」という言葉で表している。そこから出てくる新たな価値を加藤は、舞城王太郎、古川日出男、中原昌也、東浩紀、ケータイ小説、本屋大賞、小部数同人誌などのうちに現れつつあると述べている。
文學界に掲載された十一人座談会「ニッポンの小説はどこへ行くのか」に一応目を通した。面白いのは若い書き手が「芸術を書いていきたい」といったりして鼻息が荒いように感じるのだけど、ある程度年をいった人たちは「もうこれから書くこと決まってます」と余裕があることだ。そういう意味では、加藤の上記の論からすると若い人たちの方が権威的なものを主張しているようにみえなくもない。とはいえ加藤のいう価値の転倒がどこまで続くのかとも思うし、結局新たな価値といものも権威化していくような気がするのだが。そのときその新参者と自分が違うということを主張するには「芸術をやっている」という気概なのかもしれない。
ちなみに私は権威にめっぽう弱い。じゃなきゃ「文芸時評」など取り上げない。
今度からの「文芸時評」は斉藤美奈子さんだそうです。
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