クイズ

 

 電車は混んでいたが私は座ることが出来た。座席の空きは少しはあった。私の隣の座席も空いていた。私は窓に映る自分の顔をぼんやりと眺めていた。
 女性が隣の車両から入ってきた。席を探しているのだろうか。しかし私の隣の席を通り抜けて、他の空きの座席に向かっていった。女性は空いている座席の隣に座る男性に声をかけた。
「問題です。黒い服と青い服、どちらを着るべきでしょう?」
声をかけられた男性は驚いた様子だった。目を大きく見開いて、彼女を見上げていた。
 私は数名の友人にこの話を聞かせた。友人たちはその女性はとても奇妙だと口をそろえていった。私もそれには同感だった。そして女性の問いも奇妙ではあるが、とても興味深いからその答えを皆で考えようということになった。皆で議論した結果、黒い服を着るべきだろう、ということになった。一月から三月は喪に服するべきだから、黒い服が適当だという理由だった。ただ私は喪に服するのは十月から十二月という考えもあるのではないのか、と思ったが黙っていることにした。
 私はあの出来事がどのような結末を迎えたのか詳しく憶えていない。女性があの問いを発した後の記憶は曖昧模糊としている。
 
 そしてもうひとつ曖昧なことがある。それはなぜ友人たちが一月から三月は喪に服するべきと考えたのか。そして私は十月から十二月こそ喪に服するべきと考えたのかということだ。それはわからない。話の流れの中でそう決まったことなのだ。しかし喪に服する一定の時期などあるのだろうか。私は知らない。しかし友人たちはそれを当たり前のように話していた。そして私も当然のように十月から十二月こそ喪に服する時期だと考えたのだ。黒い服が彼らに、そして私にインスピレーションを与えたのだろうか。しかしそれでは青い服をどのように説明するのだろうか。
 あの問いに関わる出来事は矛盾し、また条理に反することばかりなのだ。