2017年11月20日/現代ギリシャのデフォルトと海上保険に関する考察

アリストテレス=ソクラテス=オナシス。ギリシャ人の実業家にしてミリオネア、二十世紀の海運王。何も金持ちを羨んだりしたいって訳じゃない、そうじゃない。彼が成功と金と名誉を手に入れただけでなく、古代ギリシャの哲学者の名を二つも有していることに注目したい。「君の名は?」「アリストテレス=ソクラテス=オナシス(もしかして、私たち、混ざり合ってるぅ〜‼︎)」「エウレイカ〜(最近だとクリストファー=ノーラン監督作品「インターステラー」における主人公の娘が想起されるのだろうか)」「タウマゼイン‼︎(哲学の始源は驚きにあると学んだものである)」となりやしないかい。しかし、そんなクリシェは一片たりとも聞いた事が無い。グリセリンの浣腸は官能小説の常套の手段。古代ギリシア哲学の講義で海運王の話題は冗談でも挙がらなかった。古代ギリシャ哲学の講義は海運王を学ぶ場では無かった。海運王よりラバーメンの海賊王の方が親しみやすかった。もしかしてオナシスっていうギリシャの哲学者がいてトリプルプレーなのか。哲学者達の3Pなのか、それともオナニーを連想すれば良いのか、疑いさえ抱き始めてしまう。アリストテレス=プラトン=ソクラテス=オナシスなのかもしれないとも疑い出してしまう。思わず検索して確かめてしまう。小池百合子のアウフヘーブンなんて目じゃない、メジャーじゃない。宇宙英雄ローダンシリーズを邦訳したことがあるドイツ語の先生が「アウフヘーブンって君らは哲学習っているから特別な用語だと思っているかもしれないけど、日常会話だと持ち上げるって意味だからね」と昔言っていた。アリストテレスもソクラテスも単にありふれた名前だったということかもしれない、「これだからヤポニカは…」とギリシャ人の溜息が聞こえてくるのかもしれない。そうこうしているうちにアドレナリンが切れ始めた。「そうか、今時はソクラテス=オナシスを知らない人もいるのか」(暗にアホと言っているように見えるが実はそんな気は無い)「アリストテレス=オナシスの名前に興奮している人がいますが、彼はJ=F=ケネディの妻と結婚しています」(豆知識を追加してマウントポジションを取ろうとしているように見えるが、そんな気は無い)「FF外から失礼…」(フォローフォロワーの意味だと最近知りました)等と再帰的になり、真顔に戻るかもしれない。

ノーマン=メイラーの「死者と裸者」を図書館で予約して借りた。図書館で司書は「保存状態が大変悪くなっています」と言い、本をパラパラと開いて見せる。おそらくこの厚さを読み終えるのは二週間では難しいだろう。なぜ、ノーマン=メイラーの「死者と裸者」に興味を持ったのかは思い出せない。ブラウザには「死者と裸者」のウィキペディアの履歴が残っているものの、検索の契機を確認するにはブラウザを三ヶ月以上遡る必要があった。

午前七時の新幹線に間に合うよう、早朝に最寄駅へ足早に向かう。後方から現れた女性が横並びになる。視線を前方へ戻すと、車道に赤黒い痕跡を発見して、何かを想起する前に、街路樹の下に硬直して伸び切った猫の死骸が横たわっていることに気が付く。顔をしかめた後、鮮明に連鎖的に記憶が蘇る。

片田舎で路上に死骸を見つける事は珍しい事では無い。内臓を撒き散らしたイタチ、狸、猫。後ろめたさを感じながら、私はそれに見入っていた事があったはずなのだ。

高校と最寄り駅の通学路に小さな池があった。蓮の葉と茎が水面と水中を巡り、池の中央には赤い鳥居と小さな社があった。その池には数羽の鴨がいた。「グワァグワァ」と時たま連呼する鴨を眺めながら、これから授業を受ける必要も無い鴨を恨めしく思ったものである。

ある朝、まだ肌寒い、マフラーが必要な時期だったと思う。早朝、部活の自主練習の為に池の前を通ると数羽の鴨が路上で血に塗れていた。一羽では無く数羽の死骸が横たわっていた事に故意性を感じさせた。しかし、故意だとして、それは何の為に行われたのだろう。

朝見た猫の死骸は帰宅した際には片付けられていたように、鴨の死骸も知らぬ間に片付けられていた。いや、正確に言えば、猫の死骸は帰宅する頃には忘れてしまっていて、この文章を書く際に事後的に把握したのだ。おそらく鴨の死体も。

最近、車の移動に体力を消耗するため、なるべく新幹線、在来線、バスを使用することにした。午前中に一仕事を終え、在来線の駅で時刻表を確認すると朝のように通勤快速の電車が無い。各駅停車に乗り込み、バッグを抱きしめて眠ろうと試みる。左前方に座る中年の女性はT字杖を傍に携え、ビニール袋からトリスハイボールのアルミ缶をあおり、巻き寿司を頬張る。その女性の前方に座る若い女性はコンビニで買ったであろうカップに入ったデザートをスプーンで掬っている。

警報と共に電車が止まる。イヤフォン越しの車内アナウンスによれば、ホームの安全確認を行うと言う。場面は既に東京の地下に移っている。

一日中、家で眠って過ごした後の早朝の休日出勤。やるべき事は全て後回しになって行く。キッチンの電灯が瞬く。この電灯を以前変えた日は思い出す事はできない。しっかりとはめ込まれた電灯を取り外そうと試みるものの、上手くいかない。

前髪を揃えた幼い女の子から前髪を揃えた2人の女子高生の化粧と細くメリハリの無い長い脚にマカロニを食べ過ぎて戻してしまった青年。

「ボージョレボージョレボージョレヌーヴォー」とスーパーで昼食の弁当を買おうと店内を巡っていると聞こえた意味の無い反復。

「バーニラバニラバーニラ」と路上で聞こえた女性を煽る職業案内。