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波が風を消す

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、深見弾訳『波が風を消す』を読んだ。

マクシム=カンメラーが活躍する三部作の第三作目であり、異文明接触委員会が登場するNoon Universe〈未来年代記〉シリーズの一つでもある。『世界終末十億年前』に訳者による長中編の作品リストによれば、Noon Universe〈未来年代記〉シリーズは本書が最終巻となる。しかしストルガツキー兄弟は発表した作品を再構成する作家であり、短編が含まれていない事や、執筆順であるかどうかは判らない事から、はっきりとした事は言えない。
さて本書は三部作の主人公であるマクシムの回想録という体裁を取っており、その為だったのだろうか、一読した際に作品全体を把握出来ず、逐次再読を要しまとめるのに手間が掛かってしまった。

  • 八十九歳になったマクシム=カンメラーはマイヤ=グルーモワから「世紀の人物伝、五人の生涯」の執筆者が誰なのか突き止めて欲しいと依頼を受ける。この本にはマイヤ=グルーモワの息子であり、マクシムが監視委員会異常事件部部長だった時代の部下であるトイヴォ=グルーモフに関して書かれているのだ。マクシムは執筆者が宙史研こと宇宙史研究所の〈類人類〉班に所属する職員である事を突き止めたものの、執筆者まで名前が判らなかったという。そしてこの本を読んだマクシムはトイヴォに関する誤解を解くべく回想録を発表するに至る。
  • マイヤ=グルーモワは前作「蟻塚の中のかぶと虫」で失踪した進歩官〈プログレッサー〉レフ=アバルキンの元恋人である。トイヴォとレフ=アバルキンには血縁関係は無いようで、本作でトイヴォは「父とはほとんど会っていません。」「たぶんいまは異種交配の仕事をしていると思います。ヤイールで」と答えている。更に前作の結末でルドルフ=シコルスキーがレフ=アバルキンを殺害した悲劇は「非難がましいニュアンスのこもった」〈シコルスキー・シンドローム〉なる専門用語を生んだ。これは〈遍歴者〉が地球に干渉している可能性を気にする〈遍歴者〉コンプレックスとは真逆に、〈遍歴者〉の介入を無視する態度を指すらしい。
  • 本書によれば人類が〈遍歴者〉を認識したのは、二世紀前に火星で見捨てられた地底の琥珀都市を発見してからだという。また前作との繋がりで言えば、ビッグ・ヘッド人は地球での駐留を止めて出て行ってしまった。そして石棺で見つかった十三個の受精卵の最後の一人は自己破壊に等しい自殺に至った。
  • 自由調査団が発見したEH63061系にある惑星チッサ。この惑星を訪れた学術調査隊員三名は原因不明の精神錯乱に陥ってしまう。三人は、中央基地との連絡が途絶え、軌道を飛ぶ母船としか交信出来なくなったと感じてしまう。更に母船にいるロボットは、宇宙規模の破局が起こって地球が滅亡し、地球周辺星域の全住民も原因不明の伝染病に罹り死に絶えたと繰り返し伝えたのだった。隊員のうちの二人は自殺を試みる為に荒野に向かった。しかし隊長はただ生き抜こうとした。そして精神錯乱状態に陥って十四日目、隊長の前に白い衣装をまとった男が現れ、実験の第一段階をパスし〈遍歴者〉の仲間入りができる候補者になったと告げる。十五日目に母船の救命ボートに救出された三人は正常な精神状態に戻り、後遺症は残らなかった。彼らの証言は細部に至るまで完全に一致していたが、深層心理分析の結果、それは彼らの主観的な感覚である事が突き止められ、潜在意識の最深部では全てが単なる演技に過ぎないと思っていたのだった。
  • 同僚たちがこの事件を平凡な異常として扱うなか、マクシムは調査に乗り出した。まず地球人類の中で進歩官〈プログレッサー〉として活動している〈遍歴者〉のモデルを作ろうとした。専門家たちの大半は〈シコルスキー・シンドローム〉の為に断ったが、前作でシコルスキーと舌戦ないし唯の口喧嘩をしていた自由主義者最左翼アイザック=ブロンベルグは後に「ブロンベルグのメモランダム」と呼ばれる回答をマクシムに送ってよこした。
  • ブロンベルグは〈遍歴者〉の性質と地球文明との必然的な遭遇に関する研究を続けており「モノコスモス」なる概念を提示する。どんな知性も個体を維持するのに可能な限界ぎりぎりまで、友誼・相互関係を保つ高度な文化・利他思想・到達しうるものに対する軽視、という連合状態に至る。これは生物学的・社会的な法則の為である。その後の知性の可能性は二つに分けられる。一つは停滞・自己満足・自閉・外界に対する興味の喪失。もう一つは進歩の第二段階として計画してコントロールされた「モノコスモス」への進化である。「モノコスモス」は無数の新たな知覚を手に入れ宇宙を認識し自らが〈遍歴者〉と同じように創造者となる道である。人類が〈遍歴者〉の干渉を受けるのは、他の文明と違い行動し発展の方向を選択し誤る可能性を持っているからであり、新たな社会構造を準備させる事によってグローバルな知性体への発達を促し、最終的に充分に成熟した個体をモノコスモスに統合させるべく選別を行うのだという。つまり「モノコスモス」になる事は人類が〈遍歴者〉になる事だが、全ての人類がその変化に適しているとは限らず、人類は人類が知らないパラメータに従い超文明によって二つに分離し、一方の少数部分が多数を凌駕する人類とは別のもの―〈遍歴者〉=「モノコスモス」になるのだという。
  • ブロンベルグはこの回答をマクシムに送った後、急死してしまう。「モノコスモス」の研究資料はもちろんのこと〈遍歴者〉に関する資料も残されていなかった。
  • ブロンベルグの回答と急死を知ったトイヴォ=グルーモフはその死に疑念を持ちながらも彼のアイディアを検討する気が無いのかマクシムに問いただす。マクシムはトイヴォに調査を命じる。
  • トイヴォ=グルーモフは進歩官〈プログレッサー〉として三年程働いた後、その職を投げ出してコムコン-2へやってきた。トイヴォはプログレッサーの使命という考えに敵意を感じており、彼を不安にしているのは、「どんな神であろうと、われわれの仕事に干渉することは許されないし、神が地球でできることはなにもない、なぜなら“神の恩恵とは、つまり風のようなものだ。風を帆をはらませもするが、嵐も起こせるからだ”という事だった。」尚、トイヴォが進歩官〈プログレッサー〉として働いた場所は惑星ギガンダ、また「ぼくが剣を振りまわして、アルカナール広場の舗石の上で足踏みしているあいだに~」という発言から「神さまはつらい」の舞台であるアルカナール王国だったようだ。
  • トイヴォはブロンベルグのアイディアを元に集団恐怖症に関する調査を始める。
  • 〈ペンギン・シンドローム〉は宇宙恐怖症の一つであり危険な精神病では無い。患者はまどろみ始めると、たった一人無力な状態で全ての事を忘れ冷酷な克復し難い力に支配され空気の無い空間に浮かんでいる自分を発見し、呼吸困難、破壊光線に体を貫かれる、骨が溶ける、脳が沸騰して蒸発する等の前代未聞の強烈な絶望感に襲われ、目を覚ます。これは外来の治療で治す事が出来るため危険は無かったが、性別・年齢・職業・遺伝子に関係無く発症する新しい現象だった。メビウス博士は〈ファントム-17-ペンギン〉タイプの宇宙船で遠距離宇宙旅行した者が発症している事を突き止める。しかし宇宙船に設計上のミスは無く、次善の策として危険を避けるべくオートパイロット用の宇宙船に改造されてしまった。トイヴォは調査の結果、宇宙船には問題無く、侵入座標41/02の亜空間を路線としており、パイロットたちの記録から、ペンギン・シンドロームに対して三分の二の者は免疫力を持ち、免疫力の無い者が同航路で発症していた事を突き止める。また〈ペンギン・シンドローム〉の倒錯現象-肯定的な夢を見る者もいるという。
  • マクシムがトイヴォの〈ペンギン・シンドローム〉に関する報告書を読み終えた頃、惑星サラクシのミュータントであるシャーマンが地球の超能力研究所を訪れる。シャーマンは他人の精神を支配出来る能力を持つサイコクラートだった。しかし滞在期間四日の予定していたにも関わらず一時間で地球から引き上げてしまう。
  • サイコクラートについて補足しておくと本シリーズで登場したビッグ・ヘッド人もミュータントであり他人の精神を支配出来る能力を持っている。
  • バイオブロックは東京方式の処置方法であり地球及び周辺星域で組織的に採用されている。バイオブロックはジャーナリズムで用いられる用語であり、医者たちはこの処置法に最初に理論的根拠を与え、実地に応用した深見ナターリヤと深見星子姉妹にちなんでフカミゼーション(深見式処置法)と読んでいる。フカミゼーションの目的は、人体が外界の諸条件に適応する自然の水準を高める事にある。古典的な処置方式では、母親の胎内で成長する最終段階で胎児にフカミゼーションが施される。血清をいくつかの手順をへて投与すると伝染病や毒物に対する抵抗力を増やし、マイクロウエーブを照射して視床下部の抑制を解除してやり、放射能・有害ガス・高温といった外部環境の物理的要因に順応する能力が高め、損傷した内部臓器を再生させ、知覚出来る網膜のスペクトル幅を広げ、精神療法の能力を高める事が出来た。フカミゼーションは強制バイオブロック法に従い強制的に行われていた。しかしある時期を境にフカミゼーションの拒否が流行し、強制的バイオブロックの修正案が可決される。しかしフカミゼーションで被害を受けた事例はほとんど無く、また母親が拒否する事もきわめてまれなケースだった。フカミフォビア(フカミ恐怖症)の原因は未だ解明しておらず、拒否が流行し修正案が可決された後、フカミゼーション拒否の流行は終結し拒否する者はほとんどいなくなった。
  • フカミゼーションは明らかに訳者である深見弾を意識した命名だろう。日本人の読者だけが楽しめる小細工である。
  • マーラヤ・ペシャの別荘地で謎の怪物が現れ住人がパニックに陥るという事件が起きる。マクシムは調査にトイヴォを派遣する。本書はマクシムの回想記であり、報告書等を元に編成されているが、この調査とトイヴォとその妻のやり取りはマクシムが再構成し描いているという設定になっている。
  • マーラヤ・ペシャで複数の擬似生物が現れ住人をパニックに陥れた。擬似生物の痕跡は至るところに見つかったものの、これを発生させる人工胎生装置は見つからなかった。トイヴォは調査のなか、この擬似生物に対する住人の反応に着目する。住人の反応は三つに分けられた。一つめのグループは自制心を失い逃げ出した者たち、二つめのグループは後から戻ってくる勇気のある者たち、三つめのグループは擬似生物に恐怖を感じず、むしろ興味や同情する者たちだ。更に住人たちの証言と現場の痕跡から、擬似生物の再現可能性を専門機関に照会すると、そのような人工生物を再現する場合、莫大なエネルギーと解放を要し、現状の科学技術では空想の領域を出ないという結果が報告される。
  • トイヴォはマーラヤ・ペシャの調査の内容と、これまでの集団恐怖症の内容と併せて〈遍歴者〉の関与をマクシムに示唆する。宇宙恐怖症〈ペンギン・シンドローム〉とマーラヤ・ペシャの事件は人類を選別する実験であり、フカミフォビア(フカミ恐怖症)はフカミゼーションが何らかの形で人類の進化を妨げる為に人工的に発生したものである。しかしこの内容を報告されたマクシムはトイヴォに惑星サラクシのシャーマンが地球の滞在を一時間で切り上げた事件を調査すべく超能力研究所へ向かうように命じる。マクシムは他の職員にも超能力研究所への調査を命じており、超能力研究所について何かを掴んでいるらしかった。
  • トイヴォは超能力研究所へ赴く。誰もが義務付けられているという別称〈スーパーマン狩り〉と呼ばれるスキャンで検査された後、古くからマクシムの友人だというロゴヴェンコをはじめ、シャーマンと接触した複数の人々と面談するも何も手掛かりが得られない。シャーマンに付き添った職員によれば別れを告げる際、「山や森、雲は空は見えるというのに、目と鼻の先にあるものがなにも目にはいっていない」という童歌を口にし、絶対にありえない事を意味するサラクシの慣用句「盲に目明きが見られるようになるまで待とう」という言葉を残したと言う。
  • 引き続き調査を進めるなか、超能力研究所のディスプレイに、マーラヤ・ペシャで起きた事件で擬似生物に興味や同情を感じた人々の名前を発見する。これに驚いたトイヴォは超能力研究所に三つめのグループを報告した者を調査をしたところ、後から戻ってくる勇気の持った二つめのグループが超能力研究所の常任活動家を務めていた事を知る。
  • 超能力研究所は〈遍歴者〉が関与していると確信するトイヴォに対し、マクシムは〈ペンギン・シンドローム〉倒錯者とフカミゼーション拒否者のリスト、更に同僚サンドロ=ムトベヴァリが調査している失踪後に天才となって人々が現れる〈リップ・ヴァン・ウィンクル*1〉リストの重複者リストを作成するよう命じる。
  • 同僚サンドロ=ムトベヴァリはトイヴォに調査中に起きた不可思議な出来事を話す。調査対象者と面談を試みようとすると「まったくまずいときに来たもんだ」と言われた後、めまいに襲われもと来た道で目を覚まし、それを何度も繰り返したのだという。更に彼の報告書には、面談中に姿を消した者さえ居た。
  • トイヴォが作成したリストは驚くべき重複率を見せる。マクシムとトイヴォは世界評議会議員であり局長代理のコモフと同じく世界評議会議員でコムコン創設者であるゴルボフスキーと会談する。〈ペンギン・シンドローム〉により宇宙適応者が抽出され、マーラヤ・ペシャでは地球外のバイオテクノロジーを使って異生物に好感を持つ者を抽出する実験を行い、フカミフォビア(フカミ恐怖症)は何らかの理由で〈遍歴者〉の性質を人類の次の世代から奪う恐れがあった為に行われたキャンペーンである。そしてこれらを行った被選別者は数を増やしそれを隠す必要も無くなった。平凡な人間が失踪後に天才となる〈リップ・ヴァン・ウィンクル〉はその現れであり、超能力研究所は候補者の中から被選別者を突き止める〈遍歴者〉の活動の場である。トイヴォは以上の調査結果を報告する。しかし死を前にしたゴルボフスキーは、人類による他の惑星での進歩官〈プログレッサー〉としての活動は、過去を変えられない人類が過去のツケを払うべく他の人々を助けるしか無い為であり、この〈進化のバックアップ〉とも言える行為は〈遍歴者〉には必要無く、また超文明が人類に手掛かりを残すはずが無いと反論する。
  • ここで登場するコモフはトイヴォの母であるマイヤ=グルーモワと旧知の仲らしい。調べてみると邦訳されていないNoon Universe〈未来年代記〉の連作集で語られているという。尚、ここでは触れていないが、被選別者が関与した事件には鯨の集団自殺というものがあるらしく、トイヴォはこれも調査していたが、本書では時折語られる程度のため割愛した。
  • トイヴォは報告を終えるとマクシムと共に別室で待たされる。報告は失敗に終わったと思われたが、そこにゴルボフスキーが表れトイヴォを認める態度を示す。マクシムとトイヴォがゴルボフスキーの家を後にする途中、超能力研究所のロゴヴェンコとすれ違う。
  • 続けて行われた超能力研究所のロゴヴェンコとコモフとゴルボフスキーの会談は一部データが消失したテープから再現される。ロゴヴェンコは自身が既に人類では無く、〈類人類〉もしくは〈超人類〉であると語る。宇宙恐怖症や異生物恐怖症は人体に第三パルス系を発揮させる為の手段であり、フカミフォビア(フカミ恐怖症)は視床下部の抑制を解除すると第三パルス系を崩壊させてしまう為に行われたキャンペーンだったという。この進化は、ソーシャルテクノロジカル・オーガナイゼーション(社会工学的な組織)が一定の段階に到達した為に発生したものであり、十万人に一人の確率で第三パルス系が見つかり、第三パルス系のイニシアチブを取り〈類人類〉を育成する事は最近になって出来るようになったという。更に人類には第四低周波系、第五…と新たなシステムが発見されているとも語り、ロゴヴェンコはその証拠として何らかの変化をコモフとゴルボフスキーの前で見せる。人類との共生が出来ないのかという問いに〈類人類〉は人類や地球に興味は無く、地球に留まっているのは、家族や愛する者から離れられない不幸な連中と人類との関係を危惧する一部の者だけだという。
  • トイヴォはロゴヴェンコと世界評議会議員の会談の記録を読み〈遍歴者〉が関わっていない事に衝撃を受ける。そして人類は〈類人類〉の孵化器になるべきでは無く、強硬手段に出るべきだと語る。これに対してマクシムは〈類人類〉と共生するか共生しないかを選ぶしか無く、状況をコントロールしているのは〈類人類〉だと語る。更にマクシムは、超能力研究所が選別を行っていると気づいた時点で、部下全員を超能力研究所に派遣し人間である事を確かめさせたという。その結果、トイヴォには第三パルス系が見つかったという。あなたは騙されていると吠えるトイヴォ。マクシムは超能力研究所内部に調査員を送り込む事は出来ずその周辺にしか配置出来なかったと語る。トイヴォはその発言に自らが〈類人類〉となって内部を調査をする事は出来ないと語り、職を辞する。
  • マクシムがトイヴォの顔を見たのは上記が最後となる。ロゴヴェンコに説得されるもトイヴォはこれを断り、妻がいる惑星パンドラに向かう。その後も何度かトイヴォから連絡があったがマクシムは会う事は出来なかった。どうやらトイヴォは〈類人類〉となり、時折妻に会いにやってくるものの、徐々に不在の期間を長くしているという。
  • コモフのレポートによれば、その後〈類人類〉は地球から全て去ってしまったという。ゴルボフスキーは「波が風を消す」と狡猾に笑ったが誰もその意味を判っていなかった。
  • 前述した「世紀の人物伝、五人の生涯」ではトイヴォは進歩官〈プログレッサー〉として惑星ギガンダで働く時分に〈類人類〉と接触しており、その後全ての汚名を〈遍歴者〉に着せるべく暗躍していると語られているらしい。マクシムは「世紀の人物伝、五人の生涯」は思慮の浅いたわごとでしか無く、なぜ事実を語らず沈黙を通すのかというマイヤ=グルーモワの手紙に「わたしは語った、できうるかぎりすべてを。話せることはすっかり語りつくした。」と回想録を終える。

『波が風を消す』、この題名は一体何を意味するのだろうか。風が〈遍歴者〉であるならば波は人類であるから、人類から〈遍歴者〉の影響が消えるという事だろうか。それとも人類から進化した〈類人類〉が〈遍歴者〉を消すという事だろうか。それとも人類が〈遍歴者〉も〈類人類〉も消すという事だろうか。正直はっきりとしない。更に言えば、本書は本シリーズの〈遍歴者〉の究明を意図していたのにも関わらず、結果として〈遍歴者〉の存在が明かされない。おそらく〈類人類〉は〈遍歴者〉と同類もしくは〈遍歴者〉までの進化の過程と言えるのだろうが、『ストーカー』のゾーンと同じように物語の核でありながら正体を明かされない仕掛けという位置付けなのだろう。
本書を読み、その内容から連想したのはアーサー=C=クラークの『幼年期の終わり』だが、新たな進化を前にして様々な態度を取る人々を、より生々しく弱々しく滑稽に描写して見せるのはストルガツキーならではと思う。

波が風を消す (ハヤカワ文庫SF)

波が風を消す (ハヤカワ文庫SF)

*1:アメリカの小説家ワシントン=アーヴィングの短編名。アメリカ版浦島太郎として知られており、森鴎外が邦訳している。恥ずかしながら全く知らなかった作品である。