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『フルスタリョフ、車を!』『わが友イワン・ラプシン』

映像

アレクセイ=ゲルマン監督作品『フルスタリョフ、車を!』『わが友イワン・ラプシン』を観た。
「神々のたそがれ」の公開を契機にアレクセイ=ゲルマンの作品が各所で上映された。アレクセイ=ゲルマンが監督したのは事実上「神々のたそがれ」を含め五作品となり、全てを観賞する事は可能なのだが、結局二作品を観るだけに留まった。

誰もいない雪が積もった路上。男は車が一台停まっているのを不審に思い見定めている。すると車から現れた秘密警察が男を納屋に閉じ込める。
禿頭の中年の男性は大家族に囲まれて暮らしている。食事を取りながら吊輪に捕まり、仕事場の病院では我が物顔で闊歩している。どうやらこの男はかなり高い地位にある医者らしい。しかし突然裏口から塀を飛び越えて出奔してしまう。どうやら身に危険を感じ取ったようなのだ。片田舎の駅を訪れるも電車は既に無い。不良達に囲まれ格闘するも秘密警察に見つかってしまう。身柄を拘束された医者は商業トラックを装った護送車に乗せられ、複数の男たちに尻を掘られ吐瀉する。護送車が停められ解放されると死を前に病床に臥したスターリンの元へ送られる。治せと言われるも最早為す術も無く、腸内から異臭を放ったスターリンはそのまま死ぬ。これを知った秘密警察長官ベリヤは「フルスタリョフ、車を!」と運転手の名を呼ぶのだった。
納屋に閉じ込められた男が収容所から出て来る。どうやら何年も閉じ込められていたらしい。男が何とか乗り込んだ電車には医者の姿があった。医者は頭にコップを乗せ、電車がカーブを曲がっても水を零さないでいられるか賭けに興じ始める。

ユダヤ人医師がソ連高官の暗殺を謀ったとする流言「医師団陰謀事件」とスターリンの死を基にした作品。題名はスターリンの死を知った側近ベリヤが勝利感を隠そうともせず放った言葉だという。最後に登場する医者はマフィアのボスになっており、これら一連の出来事が今日のロシアが抱える諸問題の根源である事を示唆しているという。こういった説明は映画には無く、せいぜい上記のような出来事を知るのが精一杯だった。

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  • 『わが友イワン・ラプシン』

1980年代、孫がいる年老いた語り手により、1930年代のある男の数年間が語られる。
無骨な刑事ラプシンは共同生活を送っており、舞台女優ナターシャに出会う。娼婦を演じるので役作りの為に話を聴きたいとナターシャが警察署を訪れればその場を設け優遇する。その後友人である記者ハーニンがやってくる。ラプシンはナターシャに愛を告白するも、ハーニンが好きなのだという。一方、ハーニンは妻を失い精神的に不安定なのか自殺を試みようとしたところをラプシンが喝破して止める。ラプシンは脱獄囚による殺人事件を追う中、とうとう犯人を追い詰める。しかし取材の為に同伴していたハーニンが刺されてしまう。友人の負傷に激情を露わにしたラプシンは犯人を容赦無く射殺してしまう。
記者ハーニンがモスクワに向かう為、ラプシンとナターシャが見送りにやってくる。ハーニンはラプシンにナターシャへの好意をなぜ伝えてくれなかったのかと言い、その場を去る。ハーニンが居なくなるとナターシャはハーニンに振られたと語る。ラプシンは憮然とそれを聞き何も言わない。ナターシャは「上手くいかないものね」と言いその場で別れてしまう。ラプシンは共同生活を送る仲間に「今度昇進試験を受けるのだ」と語る。

1930年代はスターリンによる恐怖政治が敷かれた時代だという。スターリンの側近No.2であるセルゲイ=キーロフの肖像が作品に何度か登場するらしいのだが、彼の暗殺を契機に粛清が本格化しており、登場人物たちが今後粛清に遭う事を示唆しているというのだから驚いてしまう。またノーベル文学賞を辞退したボリス=パステルナークの精神を体現した作品だと監督は語っている。個人的には夜半ナターシャに会いに窓から部屋に入る中年ラプシンの姿がどうにも滑稽で印象深かった。

わが友イワン・ラプシン アレクセイ・ゲルマン監督 [DVD]

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