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モスクワ妄想倶楽部

読書

アルカジー&ボリス=ストルガツキー著、中沢敦夫訳『モスクワ妄想倶楽部』を読んだ。

モスクワ在住の作家は所属する作家倶楽部から原稿を幾つか持って研究センターに行くよう命じられていた。研究センターでは何やら作家の原稿に関する研究が行われているらしい。科学技術に貢献すべく重い腰を挙げて外出すると、同じマンションに暮らす友人が病院に連れ出されそうになっている。友人は特別な薬を取って来て欲しいと言い、仕方無くある施設を訊ねるものの薬を手に入れられない。仕方無く病院に赴くと友人は薬の事を忘れるようにと喚くばかりだった。それから作家は何者かに見張られている気配を察するのだが…。
他方、作家は問題の研究センターに赴くと男と機械に迎えられる。男によれば機械はそのテキストの読者の数を示すのだという。作家は自らが書き続けて来た原稿「青ファイル」の行く末について考え始めていた。そしてふと男の正体が「巨匠とマルガリータ」の作者であるブルガーコフである事に気がつく。倶楽部で男を見つけた作家は彼と青ファイルの行く末について語る。そして男は見せた事も無い青ファイルの一節を諳んじて見せる。作家は青ファイルのまだ完成していない何百頁を思い、倶楽部のレストランで訳も判らず幸福になりながら食事を注文をするのだった。

モスクワ在中の作家はアルカジー=ストルガツキーがモデルとなっているようだ。物語前半の薬の件は「スプーン五杯の霊薬」の筋書きをなぞったものである。度々言及される「青ファイル」は執筆されていたものの、当時発表されていなかったストルガツキー兄弟の「滅びの都」を指す。そして研究センターで出会う男は、演劇作品や小説を執筆するも大半を発表出来ず、または直ぐに打ち切られてしまい生涯を終えたブルガーコフである。ペレストロイカグラスノスチ以前に於いて、作品が発表出来るか否かは一つの問題であったろう事は想像に難くなく、実際ストルガツキー兄弟は作品が発表出来ない時期があったと言う。作家とブルガーコフの対決は本書でもっとも読み応えがある部分である。また訳者が指摘している通り、作家倶楽部に併設されたレストランの薀蓄等は「巨匠とマルガリータ」を意識したものとなっており、ブルガーコフ及び「巨匠とマルガリータ」へのオマージュとなっている。

本書の原題は「びっこな運命」であり、作家・作品の運命を表したものとなっている。また「みにくい白鳥」と組み合わせて長篇として作品は完成されており、その長編の章立ては訳者あとがきにて記載されている。

本書で作家に深見龍なる日本人から手紙が届いている。これはストルガツキー兄弟の作品を邦訳していた深見弾を指している事は明らかだ。更にストルガツキー兄弟の作品を読み進めたところ「波が風を消す」にてフカミゼーションなる言葉を見つけた。深見弾ストルガツキー兄弟に多大な影響を与えていたのだと感慨深い思いがした。

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