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2015年11月16日~2015年11月22日

雑記(2014.3.11~)

中年の男性がスマートフォンでアプリを起動させて「うんち」と入力して送信するのを垣間見てしまった。ちょっとした事でも簡単にやり取り出来る訳だから勿論内容もどうにでもなり得てしまう。

Sugadairo piano solo at velvetsun を聴いている。ピアノの旋律は自由で晴れやかにも関わらず憂鬱な気分を喚起させる。

「グレイトォー」トラのトニー=タイガーが叫ぶ。シリアルを食べただけなのに大袈裟な印象は否めない。しかし常にスポンサーを配慮するというプロ意識が彼にはあった。例えば彼にスポンサーがついてから、犬歯を削いでシリアルをよく噛める様にしたというエピソードは有名な話ではある。そんなトニーは棚に並んだシリアルで一日の運勢を占うのだという。「まあ、占いなんてものはオマケさ。身体が資本だよ。俺の鍛え上げられた胸筋を感じてくれ。」そう言うとトニーは毛に覆われた胸筋をビクンと動かした。しかし何故アメリカに移住したのだろう?「俺は菜食主義者なのさ、君はジャングル大帝を知っているだろう?理性ある動物は仲間をかみ殺すなんて出来ないのさ。あとは、自然に打ち勝つ為に、種を残そうとする性欲にも打ち勝つ必要があった。動物が何十年も月の光だけを浴びて人に化ける努力は未だにアジアで見られるけども、その実は本能をコントロールし理性を手に入れる事なのさ。それにはシリアルだよ、砂糖が性欲を掻き立てるという話もあるけども、これは一つの贅沢だし、逆に言えば欲求の喚起に対する内なる闘いに勝利する事が義務付けられるって寸法さ。」何に信仰を持っているのですか、そう尋ねようとした時、トニーが全身の毛を逆立てたのが判った。どうやら目の前に飛ぶ小蝿を追いかけようという本能を抑えているようだ。トニーさん、別段僕の前ではそう頑張らなくても良いんですよ、自然に行きましょう。「いやいや、私は人類に初めて接触図った理性あるトラだ。人間は私を見てトラの価値を図ろうとするだろう。私はトラを、それだけじゃない、動物の代表として、常に自然に打ち勝った理性あるトラじゃなければならないんだ。」それはご苦労様です。その為に人助けをしているんですね。「そうさ、命を奪うのでは無く助ける。こんな人道的なトラがいただろうか。早く私のように進化した同胞が更に生まれる事を祈っているよ。」トニーはそういうと削ぎ落とした剣歯を光らせ「グレイトォー」と咆哮するかのように叫んだ。

雨上がりの蒸し暑さと靄が掛かったコンクリートの街並みに額に汗を浮かべるしか為す術が無い。

「無駄な優しさなんて無いですよ。そんな事ばかり言ってると誰にも優しくされなくなりますよ。」果たしてそうだろうか。しかし素朴でありながら代えがたい説得力があると思った。

「グレイトォー‼︎」大きな声が聞こえた。朝から何事かとリビングに赴くとそこにはトラの着ぐるみを着た人物がテーブルでシリアルを食べていた。唐突な出来事に言葉も出ない。トラは俺に気がつくと当たり前のようにこう言った。「朝から大きな声を出してすまない。しかしシリアルを食べると力がみなぎってついつい声が出るんだよ。それにスポンサーもいるしな。俺はトニー=タイガー、君は大谷義博で間違いないな。」俺はやっと声を出して言った。「どうやって部屋に入った。人様の家で何をやっている?」怒声に顔を歪ませ、そして微笑を浮かべるとトラは言った。「繰り返しになるが俺はトニー=タイガー、部屋には玄関から上がらせて貰ったよ。鍵は掛かっていたが、シリアルのあるところ、俺に入れない場所は無い。コーンフロストが無くとも君の家にはグラノーラがあった訳さ。勿論君に用があって訪ねた。泥棒でもヤクザでも無い。何かといえば人語を解するトラ、観念が実体化したものらしいのだが、その辺りは詳しく知らない。シリアルを勝手に頂いているが、まあ、これはお通しくらいだと思って許して欲しい…。たぶん今の説明で君は納得していないと思う。しかし説明しなくても良い事敢えて説明しているって事に誠実さを見出して欲しい。さあ、そこに立っていないで座ったらどうだろう?」

アルカジー&ボリス=ストルガツキー「蟻塚の中のかぶと虫」「波が風を消す」を読み終える。「神々はつらい」「地獄から来た青年」で登場した惑星アルカナル、惑星ギガンダ及びコルネイが言及され思わずニヤリとする。発展途上の惑星に干渉する者は異文明接触委員会に所属する「進歩官(プログレッサー)」と言われ、最終的には超文明を持つに至った地球でさえ遍歴者と呼ばれる超超文明の進歩官たちの干渉を受けている可能性が追求され、物語は思わぬ方向を指し示して終わる。

ジムのモニターにて世界野球日本対メキシコを眺める。やたら日本にホームランが出ており、あまり緊迫感は無い。サウナに移動して音声付きで眺めたところによれば、メキシコのエラーが無ければ、ホームランも無かったらしい。

巨匠とマルガリータでも読もうかと本棚から取り出して訳者解説や著者略歴を眺めていたところで友人から連絡が入り対応している内に寝てしまった。

「さあ、大谷君、俺がここに居るのは君を助ける為さ。残念ながら君の周りには誰一人として助けてくれる者はいない。そしてなぜ君が傷ついているのかと思えば、奥さんとの離婚のせいだ。まずこの現状の認識に間違い無いだろうか?」確かに間違いは無かった。しかし一体どこからそんな事を知ったのだろう。「ここからが本題だ。君は奥さんとの離婚で参っている。わざわざ高い金を払って探偵まで使って浮気の証拠まで持っていると言うのに慰謝料の請求もする事なく持て余している。端的に言って君に突きつけられた現実は君を深く損ねた。そしてなし崩し的に君は今まで危なげなく生きて来た人生を踏み外しつつある。どうだろう?」何も言う事は無かった。しかし何故そんな事まで知っているのだろう。これはどうにもおかしい事態だ。「その沈黙は現状に間違い無いと言う事だろうか。まあ実際君の考えている事は全てお見通しなのさ。たかだか三十分そこらだが、君を上手く人生の正道に軌道修正して見せるさ。」余計な御世話というものだ。しかし何も言葉が出ない。「君が離婚で傷ついたのよく判る。何より君自身後悔している事も知っている。ちょっとした気持ちの行き違いだ、それが積み重なってしまった。君は途中それに気がついていたのに何もしなかった。そして彼女を寄る辺無いところまで追い詰めてしまった。君の後悔の出発点はここからだろうと思う。しかし、それは仕方無い事だったとも言える。何だろう、大切な人だからこそ、踏み込むべきか見守るべきか、判断は難しいものだ。君はそれを感じ取って気遣っただけだ。そしてそれに奥さんだって気がついていたさ。しかしどちらも態度を硬化させてしまった。そういった気遣いもまた、何か煩わしさとか押しつけがましさという雰囲気になって二人の間を遠ざけてしまった。簡単に言えば、どちらかが歩み寄るべきだった。二人はそれぞれその時々に演じる役割を間違えてしまっただけさ、だからチグハグになってしまった。でも役割にはある意味徹していたんだ、それがどうにも固定的だった事が問題だ。それが結論なんだと思う。申し訳ない、後付けな上に男女の問題だ、酷く具体的に欠けて抽象的な説明になっているかもしれない。しかし君なら理解していると思う。まあ、君が漠然と感じている事を言葉にしているだけなんだ。これは一種のカウンセリングみたいなものさ。次は処方箋だ。ここからは私の意見さ。余りにも簡単な事なんだ。それは失敗した自分、この五年間の結婚生活を送った、妻と共に居た自分を否定するなという事だ。君はこの五年間を無視して新たな生活も出来るかもしれない。しかしその五年間を生きた自分の影に折々苦しむ事になる。君はこの五年間を生きた自分に腹を立てつつも救ってやる必要がある。過去の自分に囚われるのでも無く、無視するのでも無く付き合ってやる、誰か友人を励ますように、これからの人生を楽しむ為に。」トニーはそう話すと一息ついて付け足した。「私がここに現れてしまったのは君だけの用じゃない。離婚した君の奥さんもまた傷ついている。そしてどこか気持ちの片隅で君を案じていたという事さ。まあ、君と違って立ち直りは早かったようだけどね。」シリアルの最後の一口をスプーンで啜るとトニーは身震いしながら「グレイトォー‼︎」と大きな声を挙げた。「それでは失礼するよ。時間を取らせて悪かった。健闘を祈る。」トニーは玄関の方へ向かった。そして扉が閉まる音が聞こえた。