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『33年後のなんとなく、クリスタル』

田中康夫著『33年後のなんとなく、クリスタル』を読んだ。
その題名の通り、「なんとなく、クリスタル」の33年後が描かれている。物語は田中康夫その人が「なんとなく、クリスタル」の登場人物のモデルとなった人々と再会するという内容。注も「なんとなく、クリスタル」と同様に用意され、特に政治的な話題に多く割かれている印象。また登場人物たちのやり取りはFacebookとLINEが当然の事となっている。
五十代を迎えた「なんとなく、クリスタル」の主人公のモデルである由利は彼氏との関係を解消、大学を卒業し外資系化粧品会社に就職する。その後、広報として働きイギリスへ留学、経済活動と社会貢献を融合させたヒューマン・イノベーション・マネージメントを学び帰国。独立した後、様々な広報や社会貢献を兼ねたビジネスを仕事にしている。そんな彼らと日本の現状が、フランス料理とワインを飲みながら、高級マンションの一室で食事をしながら語られる。
「なんとなく、クリスタル」についてその後の登場人物たちの将来に悲観的な感想を持った。しかし33年という時間を経て登場人物たちは、何かしらを得て、また失いながら大人になっていた。本書の終わりにも現状算出された少子高齢化に関する統計と日本政府の今後の指針が掲載されている。著者である田中康夫がこれらの問題に政治家として取り組み、今も問題意識を持っている事は物語と注に於いて判る*1。日本の将来を幾らでも悲観する事は可能だ。しかしそうであっても、人はそれなりにたくましく、これらの数値が指し示す将来を気にしながらも、生きていく。由利は「傍からみれば同じ場所に立ち止まっているように見えるかもしれないが、自分らしく身の丈にあった生き方」をするのだと語る。現在は過去を繰り返したものでは無い。また生き方を評価するのは自分なのだ。そして他者に出来る事は、選択肢をより多く用意して肯定する事であり、それは多分に政治の役目なのだ。

*1:著者の政治家としての評価は判らない。しかし凝り固まった考えを世間の常識として恥ずかしげもなく語る保守系政治家、旧態依然とした革新系政治家よりよっぽどマシであろう事は本書を読めば良く判る。