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『丸山眞男セレクション』『丸山眞男―リベラリストの肖像』

読書

丸山眞男杉田敦編『丸山眞男セレクション』、苅部直著『丸山眞男リベラリストの肖像』を読んだ。
丸山眞男の著作を手に取ったのは『丸山眞男セレクション』に収められた「「現実」主義の陥穽」を読む為だった。しかし、その他に収められた論考「国民主義の「前期的」形成」「福沢諭吉の哲学―とくにその時事批判との関連」「超国家主義の論理と心理」「軍国支配者の精神形態」を興味深く読んだ。特に「超国家主義の論理と心理」「軍国支配者の精神形態」は夏頃に読んでいたため緊張感がある読書体験となった。

丸山眞男リベラリストの肖像』は丸山眞男について良く知らないという事もあり、参考書として手に取った。丸山眞男の人となりが良く判るものだった。尚、本書はサントリー学芸賞を受賞している。

ここでは「「現実」主義の陥穽」の要旨を追う。

  • 「現実」主義の陥穽

本論はサンフランシスコ講和条約締結前後に書かれたものであり、日本の再軍備化や憲法改正が叫ばれているなかでの論考のようである。
著者は日本人の現実の構造について三つの特徴を指摘する。

  • 現実の所与性

本来、現実は一面において与えられるものであると同時に、他面に日々造られて行くものである。しかし一般的な「現実」は、前者の与えられるものであるという面を指し、後者の日々造られるという面が無視されている。つまり、この国における現実は既成事実と等置される。既成事実=現実は所与性と過去性において捉えれ、「現実だから仕方がない」という諦観に転化する。戦前、様々な「現実」を前にファシズムに抗する力が削がれ、後の民主化は「敗戦の現実」の上にのみ止むなく肯定された。

社会的現実は錯雑し矛盾した様々な動向によって立体的に構成されている。この現実の多元的構造は「現実を直視する」立場から無視され、現実の一つの側面だけが強調する。戦前、自由主義・民主主義を唱え、英米との協調を説き、労働組合の産報化に反対し*1反戦運動を起こす、等の動向は非現実的であり、反国家的とされ、ファシズム化する方向性のみ現実的とされた。しかし日本が第二次世界大戦の敗戦によって「枢軸」的現実から「民主主義」的現実を受け入れたように、矛盾した動向によって現実は支えられている。またマス・メディアが多面的な現実の一面しか報道しない場合、局面の露わな転換が「突然変異」として受け止められる。しかし転換=現実は徐々に形成されたものであり、マス・メディアが故意・怠慢で十分に報道しなかった事が原因となる。「現実的を直視する」と言った場合、人は既に現実の内のある面を望ましいと考え、他の面を望ましくないと考える価値判断に立って「現実」の一面を選択している。

  • その時々の支配権力が選択する現実

その時々の支配権力が選択する方向性が、すぐれて「現実的」と考えられ、これに対する反対派の選択する方向性は「観念的」「非現実的」というレッテルが貼られがちである。これは日本人の間に根強く巣食った事大主義・権威主義が原因となっている。民衆が権力をコントロールする程度が弱い場合、権力者が望む方向性を他の動向を圧倒して唯一の「現実」までに高める可能性が高い。これは民主政治が世界的に政治権力に対する民衆の統制を弱体化させる傾向性から普遍的な事象である。日本の場合、昔から長いものには巻かれてきた経緯から、支配層的現実即ち現実一般とみなされる素地が多い。西欧の再軍備問題では政府の動向と民衆が異なった方向性を示しているが、対ソ連におけるアメリカ的政府を背後に政府が遂行しようとする政策が有力に見えるようになっている。しかし民衆の動向は組織化されておらず、その動きがマス・メディアの主流とはなりにくい。とはいえ現実を動かすのが民衆である事は歴史の常識である。これら「太く短い」現実=支配権力が選択する現実及び「細く長い」現実=民衆が選択する現実、どちらかを相対的に重視するかという選択が最後に現れる。

著者は無批判の「現実」観は上記で指摘した特殊なものであるとし、既成事実を拒絶する事によって私達が選択する現実をより推進し有力にさせると語る。一方、事態の急激な進展により昨日まで選択の問題だったものが既成事実となる場合、過去の選択の問題に拘泥し、将来の可能性ある問題への発言力を低下させる事に警戒する必要があるという。また、新しい問題に気を取られ基本的な立場を移動させる事は、問題提出の主導権を支配権力側に握られる事になるともいう。そこで著者は既成事実となる前の選択の問題は明白な解答をつけられるものでは元来無く、問題自体が表面化していくなかで以前の争点を新しい局面のなかで具体化する必要を説く。また著者は、知識人が自分の意に沿わない現実に進展した場合、既成事実と自分の立場の緊張感に堪えられず、既成事実を合理化する理屈で自分の立場が発展したと考え、自己欺瞞で以て現実に屈服する事を危惧する。
本書はこれらを述べた後、再軍備化、文民統制、冷戦等の具体的な問題について論じて行く。

丸山眞男セレクション (平凡社ライブラリー ま 18-1)

丸山眞男セレクション (平凡社ライブラリー ま 18-1)

丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)

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