2013年4月10日

目を覚まし天井をぼんやり眺めていると低音のビートが聴こえる。二階の住人は朝から大音量で音楽を聴いているのだろう。耳栓も役に立たない…。耳を澄ます。いや、違うこのビートは心臓が脈打つ音だ。耳栓をしているから聴こえるのだ。俺はどうやら生きているらしい。

久しぶりにネクタイを着けて自宅を出る。少しして冠婚葬祭用のネクタイである事に気がつく。いつもと違う事はするものでは無い。歩きながらネクタイを外し鞄に押し込む。事務所にある置きネクタイをつければいい。リクルートスーツを着た女性たちを見掛ける。同僚の話によれば俺が住んでいる界隈は会社の寮が多くあるらしい。この時期、早めに帰宅しスーパーに寄ると夕飯を買うリクルートスーツを着た若い集団をよく見掛ける。研修で地方都市に同期たちと滞在した事を思い出す。先日電話した友人によれば、俺以外は一人しか辞めていないらしい。辞めた理由を聞けば両親の体調不良だという。一年程前までは仕事先で名前を聞いていただけに驚きだった。

昼の休憩。女性社員が外で何を食べようかと思案している。以前、カレー屋で食事を取っていたところ、隣に二人組の女性が座った。スーツを着ていたので営業職なのだろう。上司と思われる女性が年下の女性に注文を促す。女性はメニューを開きながら「ポークカレーで、ご飯すくなめで、あとサラダを」注文した。ランチの予算が俺より高い…というのはどうでも良いがサラダを頼んだら食べる量はそれなりだ。それともこれが育ちが出るという奴で、カレーにサラダがセットな生活環境なのか、サラダを取りたいタイミングだったのか、上司の前で上品ぶって見せたのか、妄想が止まらない。

帰り道を歩く。探すべき物も人もいない。駅のホームで待ち合わせた男女を遠くから見届ける。電車は容赦無く発車していく。久しぶりに締めたネクタイ、KANA-BOON「東京」ではネクタイが首を締めるという。俺はネクタイを苦痛だとは思わない。自発的隷従、というのは冗談で、出会いを宝くじに喩えたこの歌が好きである。