2014年4月2日

アイマスクと耳栓を利用して睡眠を取って二日目、やはり寝起きが良いようだ。それでも二度寝をする。一度目の眠りの夢なのか、二度目の眠りの夢なのかは判らないが、夢は見続けている。家を出ると陽を反射した桜の花びらがひらひらと舞う。木々の周りが陽を集め眩しい。

どこかの公園にいる。よく整備された公園で溜池があり、そこに花で出来た橋が架けられている。橋の真ん中には子猫のような生き物が二三匹いる。坂本美雨だろうか、俺に猫を助けるようにナビゲートする。俺はよく判らないが溜池に入り、濡れながら溜池から手を伸ばし子猫を助け出す。溜池からあがると、それを見ていた女性が何も池に入らなくても反対側の岸は橋に手が届くのだと笑っている。俺は仕方の無い事だったのだと思う。

爪の彩りが目に入る。真紅、ピンク。背中に残った一筋の爪痕、透きとおった肌に浮かぶ青い血管、肉の影の湿りに手を伸ばして撫で、吐息と匂いの内に溶け入って行く。

最近、昼食をしっかり取りたいという欲求を控えつつ喫茶店でサンドイッチをかじっている。例えば大盛りカレーライスを食べたいと切に思うのだが、昼食後の馬鹿みたいな眠気を思うと躊躇する。炭水化物の日頃の摂取を控えたい事もある。ジムに通い始めたものの体重の変化は無い。運動の成果ともいえるし、節制なければ体重に変化が無いという教訓でもある。昼食を気にしても帰りの夕食にも気をつけなければならない。ついつい駄菓子を食材と共に買ってしまう。最近の駄菓子のオススメは明治のリッチビスケットである。あとは帰り道にあるラーメン屋の誘惑であろうか。こちらは月に一度であれば許している、というより一度行くとウンザリして半月は食べたいとは思わない。

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール「戦前と戦後」からシンリシュープリーム「4 Bombs」。ノイズ音がつくりだす旋律に目を覚まし、言葉の美しさに気がつく。いつからだろう?音楽がなければやるせなくなったのは?窓の外に旧日本軍のような衣装を着た六十代以上の男性を見つける。耳許ではテンポの早まったノイズ音が炸裂する。男性はぼんやり向こうの歩道を眺めている。陽はぬるく、そよ風に頬を緩めてしまうような天気。重低音が鼓膜を打ちつける。夜戦、市街戦。アスファルトモルタルの森を駆け抜ける様は野戦。ビルの隙間に潜り込み姿を隠す。「光ヨ、アレ」、隊列を組んだ兵士の銃口が火を吹き、ロケットの尻に火が放たれる。ビルとアスファルトを砕く火と爆発だけが夜と世界を照らす。人類創成の光であり、混沌を招く破壊の光。火柱は誘蛾灯、放射状に散った死体、肉片、響く呻き、二時間と少しの苦痛の映画館、渇きの演奏。安息日が来ない。

ビルの裏手で手を組み煙草を吸う制服姿の中年女性、ピザの半分を片手に持ったブルーワーカー、スマートフォン片手のホワイトワーカー、まだ会社にいるワーカホリック。ネットを巡回するボット、ボットを追うニート、火を放つニトロ、乗り込むメトロ。エレベーターの操作パネルから高い位置についた指紋は清掃員に拭き取られる事なく昨日も今日も明日も残った。指紋を仰ぎみながら清掃員はその他の部分を全て綺麗に拭き取る。指紋はいつしか操作パネルの模様になる。清掃員はそう信じ、その為に仕事を放棄しない。時に拭き取りたいと、時に指紋に指を重ねたいと、訳の判らぬ衝動、破壊の衝動に駆られながら、耐えて、そして絶えていた悦びのぬかるみに身を浸しながら、恍惚の表情を浮かべている。弛緩した唇の端から涎が伝う。窓ガラスに浮かぶ顔、窓の外の暗闇、窓に記憶された恍惚、誰かの指紋、埃。