凶悪

早稲田松竹にて、白石和彌監督作品『凶悪』を観た。
劇場公開時、リリー・フランキーピエール瀧の怪演が話題になっていた。保険金殺人事件を題材にしていると聞き興味を抱いていたという事もある。
原作は「凶悪 -ある死刑囚の告発-」であり、その名の通り、死刑囚の告発により発覚した保険金殺人事件を扱っている。上申書殺人事件として知られており、読売新聞サイトにて本事件の警察側からの視点で描かれた取材記事を読める→(上申書殺人事件簿)

原作を未読の為、本件がどこまで事実を再現したものなのか判らない。事件の主犯格である男が舎弟と共に行う殺人で幕を開ける。身体を拘束され海に落ちる暴力団員。女を犯した上、覚せい剤を注射し、元仲間共々火を放つ。そして舎弟を射殺し捕まった男は雑誌に事件を告発、記者は東京拘置所で男と面会、事件の取材を行う。取材の中、記者は男が先生と読ぶ男を幻視し、幻視した先生と呼ぶ男は、飄々と男と共に殺人、保険金殺人を請け負っていく。死体の解体、アルコール攻めによる意識混濁。死体を、人間をいたぶる描写が続くが、同時に、記者が書き上げた記事を読んだ妻が語るように、そこに面白さを見出してしまう。事実、女が犯され殺されるシーンに身体を確実に反応していたし、車内で瞬いたフラッシュと車内に散った舎弟の血しぶきに興奮していたではないか。そして、取材を重ねた記者は事件に魅入られ、死刑囚の男、先生と呼ばれた男を断罪し、死を願っている。人はどこまで凶悪になりえるのか、本作はどんな人でも、悪では無く凶悪になり得る、と突きつける点が、陳腐な事だとしても新鮮であり、話題を読んだのだろうと思う。

閑話休題

保険金詐取目的の代行殺人。東南アジアでの邦人死亡事故に於いて、まず疑われているようである。日本円にして10万円程度のお金を用意すれば代行殺人を依頼する事が出来る、と以前新聞記事で見掛けた記憶がある。現地警察の捜査能力が未熟という点が大きいようなので、現在のところ、どうなのかは判らない。私は東南アジアで邦人が死亡したというニュースを聞く度、民間の保険調査がこれから始まるのだろうかとぼんやり思う。
保険金詐取は必ずしも殺人を実施しなくても得る事は出来る。例えば失踪宣告だ。7年経過した時点で地方裁判所のおざなりな調査を以て失踪宣告があれば保険金を得られる。近所の人々が失踪宣告されたその人が生きている事を知っているのは、珍しい事ではない。記録上からの存在抹消という殺人。

本作では雑誌記者の女性上司がいるのだが、東京MX「5時に夢中」で見掛けた事のある女性編集者中瀬ゆかりがモデル―実際原作発表時の編集長―と知った。

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凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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