ワーカホリック『ゼロ・ダーク・サーティ』

ゼロ・ダーク・サーティ』を観た。キャスリン=ビグロー監督作品。
同監督作品の『ハート・ロッカー』鑑賞後劇場にて。
冒頭、9・11にニューヨーク世界貿易センタービルに居た人々から家族や救助隊に掛かってきたであろう電話のやりとりが流れる。忘れていた9・11の状況を思い出す事になる。
アフガニスタンに冷徹であると評価される女性捜査官がやってくる。彼女は捕虜に対する拷問に対して、目を背けながらも「今やるべきだ」とその場を共にする。
彼女が追うのはウサマ=ビンラディン、その手掛かりを知る者をひたすら追う。
年月の経過と共に捕虜に対する拷問も彼女は目を背ける事なく積極的に行使する。
彼女を仕事に駆り立てるものは何なのか。国の為なのか、それとも冒頭で流れたテロの被害者の為なのか、与えられた仕事に従順なのか、それとも作戦中に死んだ捜査官の仇を取るためなのか。どうやら彼女にはそんな考えの余地さえ無いように思える。仕事も名誉も仇も関係ない、生きる意味そのものになっているようか、だ。
ビンラディンの居場所を見つけ。身柄捕獲作戦実行の是非を巡り、彼女の上司が食堂で語り掛ける。
「これまでに仕事の実績はあるのか」と。彼女は「高卒でCIAにスカウトされて以来、ビンラディンを追っているので実績は無い」と応える。そして上司はいう、「天職だったんだな」と。
史実通り作戦は実行され、ビンラディンの身柄は、死体となって確保される。
帰投するヘリを砂嵐の舞うなか待つ彼女、作戦を終え安堵する軍人たちの横で死体を確認する。
彼女は本国へ帰る為に飛行機に一人搭乗する。すると操縦士は「あなた一人用だ、好きなところに座ってくれ」という。彼女は近場の椅子に座りながらシートベルトを身体に巻きつける。すると操縦士は何となしに「これからどこへ行く?」と尋ねる。彼女の頬に涙がつたう。
おそらく彼女には行きたい場所など有りはしないだろう。これまでなら「ビンラディンのいる場所」と答えればよかったのかもしれない。
彼女にはビンラディンの身柄捕獲作戦の為に死んだ女や残された子どもが見えていない。おそらく彼女はビンラディンを追うその途中で様々なものを見過ごしている。観客は彼女の見過ごしていくものをスクリーンに見出しながら、彼女に対して、彼女を駆り立て見過ごして生きる事になったこの事態に対して、違和感を覚える事になる*1
彼女の流す涙を見ながら、空しさを憶えながら、こんな事を思った。


ゼロ・ダーク・サーティ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

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*1:仕事が専門化していく現在に於いて、これはどうしようも無いのだと思うのだが、そういった点から仕事の話と捉える事が出来る。そういった意味で私たちは見過ごして、傍からはとても歪んだ事をしているように見える可能性がある。