過去を改変する倫理とか『時をかける少女』

細田守監督作品『時をかける少女』を観た。
細田守監督が『おおかみこどもの雨と雪』が日本アカデミー賞最優秀アニメ作品賞を受賞したという事で、という訳でもないのだが、というか『ゼロ・ダーク・サーティ』の予習の為に『ハート・ロッカー』を観ようと思ったがレンタルショップに無かったので代わりに借りて観たのが本当のところ*1
時をかける少女」といえば筒井康隆原作であり、筒井康隆といえば東浩紀ゼロアカ道場で名を挙げた藤田直哉筒井康隆論である初の単著『虚構内存在』を発表しており読みたいと思いつつも筒井康隆作品は『家族八景』『農協、月へ行く』『文学部唯野教授』しか読んだ事なく*2、ちょっと敷居が高いなぁと思っている。あと、お金が無い。
そんな事はどうでも良いのだが上記の通り『時をかける少女』を読んだ事は無く、とりあえず「ラベンダーの香り…」「原田知世」程度の知識である*3

本作はタイムリープによって過去を改変するという物語である。しかし過去を変える事によって変わった未来*4を回避する必要性が生じてしまう。
過去や未来を変える困難を描いた作品といえば「クロノ・トリガー*5及びクロノ・クロス*6」「バタフライ・エフェクト*7」「タイム・リープ あしたはきのう」等が思いつくのだが、本作が面白いのは「過去を変えるという行為によって人の誠意を無視した」主人公が自らの行いに後悔するというタイムトラベルの倫理とでもいうべき点が強調される事だ。
実際、本作では主人公が自らの不幸な事態を退けた結果、その不幸が他人に振りかかり、更に不幸な事態に発展する。
過去を変える事は倫理的に咎められるべきなのか。おそらくそんな問題を扱った作品や書籍は無数にあると思うのだが、少し考えてみる。
本作の主人公は過去を変えた事によって人の誠意を無視した事を後悔する。同時に過去を変えた事によって生じた不幸を回避をする為、タイムリープを使用する事に躊躇は無い。因果律に従えば主人公に責任がある事も否定出来ないが、この場合無限連鎖とか無限後退という用語が登場し、責任の所在がよく判らなくなりそうだ。
そもそも過去を変える能力というものは起きた過去がそもそも無かった事になる訳だから倫理上問題無いという立場もありそうだ。などと考えていると平行世界だのなんだのという話になりそうでとても手に負えない。
本作の世界では平行世界は存在しないと思うのだが、主人公が実は未来からきたタイムリープ能力を持つ友人に未来を変えるであろう提案をしている。よく考えるとこの時点でタイムパラドクスが発生してしまい、この友人が過去に求めてきた事を「無かった」事にしてしまう可能性だってあるのだが…だんだんよくわからなくなってきた。
日渡早紀が描いた「未来のうてな」では、未来の一部を知り得ても「あらゆる未来の可能性が一つの織り込まれる事によって知り得た未来の一部とは違う未来が実現する」という未来論が説明される。またゼロ年代ではヴィジュアルノベルに於ける「有り得たかもしれない未来と過去について」批評が為された。
本作もまたその系譜に位置付くのだろう、たぶん。
結局、本作に於いて主人公は上述した通り、過去を変える事によって人の誠意を無視した事を自ら咎め、現在に於いて自らの立場を表明していく*8
そもそもタイムトラベル能力を持たない人間にとってタイムトラベルの倫理は発生しない。肯定・否定・無視なりに過去と未来を引き受けている。

こう長々と文章を紡いでしまう事態、そして後述の関連エントリーを見ると「振り返るには早すぎる」と考えるものの、有り得たかもしれない未来なり過去にこだわっている証明かもしれないのがなんとも恨めしい。
本作の前向きな表明やら倫理はともかく、高校生の夏が気持よく爽やかに描かれており、斜に構えて観るという事もなく、とても楽しめました。あと主人公が過去変えられるのに大した事しない事態を「バカで良かったよ」の一言で片付けられているのには笑いました。俺ならサマージャンボ宝くじかな~、タイムトラベルもの面白い。

関連エントリー
『ヒミズ』と佐々木敦著『未知との遭遇』について。
『惑星ソラリス』について。


時をかける少女 通常版 [DVD]

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クロノ・トリガー 特典 サウンドトラックCD付き

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虚構内存在――筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉

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*1:結局『ハート・ロッカー』はiTunes Storeでレンタルして本作の後、観賞する事が出来た。

*2:文学部唯野教授』で扱われる文学の批評史はさっぱり判らなかった。

*3:実写版『時をかける少女』は観た事が無い。

*4:とはいえそれもまた知り得た時点で過去なのだが。

*5:iPhoneにて発売されたものを改めてプレイ。隠れボスキャラ撃破までしたが、やはりクロノ・クロスと接続する事によって救われないと思うのだが…

*6:クロがノ・クロスは未プレイ。改めていうストーリーを聴く限りクロノ・トリガーとは何だったのかと頭をひねるのだが…

*7:未見

*8:宇野常寛決断主義