魂はどこに消えた?『イノセンス』

イノセンス』を観た。押井守監督作品。
キネカ大森にて<「ももへの手紙」公開記念 沖浦啓之の仕事>という特集が組まれており、同時上映の『人狼』も鑑賞。
押井守監督の作品を観たのは『スカイ・クロラ』以来になる*1。特に予備知識も無く、劇場公開時はスロー映像の広告を観た記憶がある。一作品として独立していると思っていたが『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の続編だったらしい*2

GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はテレビ放映されたものを観ていたので簡単な予備知識があったので特に問題は無かった。
「眠くなる映画だ」という感想もあるようだが、そんな事は無い。映像・演出・登場人物たちが電脳化によってネットワークから引用し紡ぎ出す台詞は休む暇を与えてくれない。非常に充実した時間を過ごせたという満足感、そしてあのシーンの意味は何だったのかという疑問が残る。

コンピューターと脳の接続―電脳化、肉体に替わる義体が発達した未来。愛玩用アンドロイドが所有者を殺害する事件が発生、被害者に政府要人等が含まれていた事から公安9課が捜査を担当する事になる、というあらすじ。
しかし物語は電脳化及び義体化について、登場人物たちが独自の哲学を、無数の古典による引用と映像による膨大な情報が加味した上で、語る。
技術と人間との関係は、武器、兵器、紙、筆、鉛筆、タイプライター、映像、ロボット、コンピューター、ネットワーク…と語られて続けている。それに対する考えは私には無い。
大学時代、ドイツ語の講義に於いて教師が「哲学や思想で世の中は変わらない。変えるのは技術だ。」と語った。インターネット、ソーシャルメディア、原発事故は日常・世界を変えた。技術は日常や世界と協調する必要が無い。本作の主人公が、飼い犬の餌を買いによく通うコンビニで電脳にクラッキングを受け暴走するが「生活をパターン化するからクラッキングに遭うのだ」と上司が諌めるのは技術が日常を考慮しないという点で妥当な指摘だ。しかしその哲学にも「そろそろ実際的な話をしませんか」と登場人物が音を挙げる始末である*3

主人公たちが捜査の為に尋ねるヤクザ一家のアジトに突入するシーンが最高であり「なんだおめぇらぁー」と凄んだヤクザの怒声と共に始まる戦闘シーンは非常に面白かった。アニメでヤクザがヤクザっぽく見えたのは本作が初めてだ、ヤクザがヤクザらしく登場するアニメは今まで真面目に観た事あるかはおいといて。
そして「電脳化した人間が常に抱える」という、電脳に対するクラッキングの細部にこだわった演出には、「上映しているDVDの調子が悪くて同じ映像を再生しているのではないか?」と疑ってしまったのだが、<3度目>辺りから「このまま結末まで微妙に細部異なった映像を観るのも乙だな、とりあえず8回やれ、8回!」「これを毎週8回観せられるという事態が発覚したら怒りたくなるかもしれない」「そういえば昔母親が「クラインの壺」というドラマにハマって原作まで読んでたなぁ、あの作品もゲームに入り込んでゲームと現実が云々」「タイム・リープ 明日は昨日」「「クリス・クロス」だっけ」等と脳内でひとりごちてうっとりしていた。このシーンを観れたのは非常に満足感が高く、上記2シーンの演出を観れたのは本当に良かった。


イノセンス スタンダード版 [DVD]

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*1:当時の鑑賞の感想をを観るとカフェインカフェインうるさくて読むのが辛い…

*2:Wikipediaを見ると意図的に続編である事を強調しない広告戦略をしていたと記載されている。

*3:電脳化・義体、そして本作中で登場人物たちが語るゴーストについて昨今読んだ評論で述べられているのは村上裕一著『ゴーストの条件』だろう。