カモンベイベ、ベイベ〜『モテキ』

『モテキ』を観てきた。

大根仁監督作品。
観に行こうと思いつつ、重い腰を上げる事が出来なかったのだが、友人の勧めをきっかけに観に行く事にした。
『モテキ』については原作もTV版も観た事は無い。どうやら映画はTV放映の続編という形になっているようだった。ただしTV版を観ていなくても楽しめる作りで、冒頭にどうやら色々あったらしいと触れられる程度である。
大根仁監督というと、GRAPEVINEアダバナ』がタイアップしたテレビドラマの監督で、同PVの関係者であるという印象。このPVの監督かどうかは知らないが、GRAPEVINEの「名前は知っているけど聴いた事ないし、どういう人たちがやっているか知らなーい」認知度を逆手に取ったPVである。


GRAPEVINEは、お笑い芸人と俳優が結成したバンドです】

「モテキ」というと、人生に二、三度程訪れるという異性にモテてモテてしょうがないという奴で、土方歳三新選組を結成後、京都の女にモテてモテてしょうがないと身内に手紙を送ったという話がある位である…(これは「モテキ」というより土方歳三が男前であったという話である。)。

さて物語は、TV版で「モテキ」を体験した森山未來演じる主人公が、Twitterでfollowerが3人しかいないのにツイート数3万以上という状態であるにも関わらず、DMを受信、オフ会を開くと訪れたのはオッサンのTwitterアイコンとは全く別人の長澤まさみ演じる女性であり、その気になるのだが、彼氏がいたり、長澤まさみ演じる女性が連れてきた麻生久美子演じる女性に好意を寄せられ一晩を共にしたり、主人公が務めるナタリーリリー・フランキー演じる上司に連れられたガールズバーで仲里依紗演じる女性に出会ったり、やはりナタリーの上司である真木よう子演じる女性に飛び蹴りやら叱咤を受けたりするというものである。
劇中にはアイドルソングや、歌謡曲が多用されており、Perfumeと一緒に森山未來がキレの良い踊りを見せたりします。やはり森山未來の身体のキレはとても良くて観ていて気持ちが良い。以前観た『フィッシュストーリー』で素晴らしいアクションを魅せておりお勧めです。

私は麻生久美子がかなり好きで映画『CASSHERN』でその美しさを知り、更に『SALA』のCMでその完璧さに打ちのめされ、挙句同郷だった事を知って勝手に親近感を抱いている存在です。
しかし今回の役はなんというか綺麗だけど、儚くも重い想いを抱いた30代女性として登場、思わず「うっ…」と唸ってしまう存在です。この映画のティザーで主人公が麻生久美子演じる女性に罵声を浴びせているように見えるシーンがありますが、実際そうなるのかもなと思わせる感じだったのです。
しかし最後には朝陽を浴びながら牛丼を平らげ清々しい明日を生きていく事を示唆され、観ている人は思わずほっとするのです。

一方、仲里依紗演じる女性は子持ちのガールズバーのお姉ちゃんとして登場、主人公に「難しい事は判りませんけど…男性と女性の違いが何であるかわかります?女性は子供を産める期間が決まっているんです」と話します。これは麻生久美子演じる女性の重い想いの伏線になっており、「モテキよ〜」と馬鹿騒ぎしている男性に対して、女性が恋愛の先の妊娠出産まで考慮に入れざるを得ない存在である事を涼しげに一石時速150キロメートルで投じてきます。
しかし仲里依紗は綺麗で可愛いのに、極端に見える役が最近多そうに見え、日清紡の広告に出ていた頃を懐かしく思います。

さて長澤まさみ演じる女性は、主人公の本命女性なのですが、同居している彼氏がいるという設定です(しかも不倫だ)*1
物語中盤から不倫相手の存在を交えて主人公と会話するシーンがある。そこで主人公は「好きだ」と伝えるのだが彼女は「それで?」と言う。主人公も食い下がって「いちゃいちゃしたい」「セックスしたい」「ゆくゆくは結婚も」と答え収集がつかなくなり、麻生久美子演じる女性と一夜を共にした主人公を責めれば主人公も「平気な顔して不倫して〜」と責める。
対して「友人とセックスした事を聴いて私が傷つくと思わなかった?」「(平気な顔して不倫なんて)していない。正しいと思った事だなんて思ってないよ」と涙ながらに告げ*2、主人公と一緒にいても「成長出来ない…」と拒否する。
「正しいと思っていないがこうするしかなかった/正しくないのも織り込み済みである」…この台詞を言われたら何も反論しようがない。一般的にこれは開き直りだと思うのだけど、開き直りというのはもっと飄々してもらわないと困るわけだ。正しくないがこうするしかなかったのだ、というのはその後に傷つく自分を引き受けるという表明にもなる。しかしそれでも傷つき泣くものだ…。しかしよく考えてみると、その関係は「いつか精算しなければならない」「終わりある関係」もしくは「関係を更新しなければならない」という事だ。「成長出来ない」という言葉も「先が見えない」という事であれば同様のニュアンスも含む訳だ*3
そう考えると物語の終局で、その関係の更新にたまたま居合わせた主人公が取った行動というのは、偶然とはいえ見事ととしか言い用がない訳だ。

さて、真木よう子演じる女性は主人公の直属の上司として主人公にどつき回し、「パッチギ! (特別価格版) [DVD]の時やってた飛び蹴り」みたいな事をしているだが、こちらのやり取りも面白い。長澤まさみ演じる女性の不倫相手に仕事でインタビューをして意気消沈する、仕事を辞めたいと話す主人公に対し「仕事を辞める、なんてものが言える立場でもないんだよ」と一喝する。この「とりあえず働け」という視点、他の有名ブロガーさんも指摘しており、これには「ああっ」と己を省みる次第であります。

最後に主人公なのだが、この自意識過剰ぶりやスキあらば女性とセックスしようとしているのはどうなのだろうとも思うのだが、己を省みても脚色されているとはいえ「こんなものだろうな」とグウの音も出ないのが正直な感想です。
後、この映画で一番エロいシーンは主演陣が軽やかに踊る神輿のシーンです。


【フジファブリック『夜明けのBEAT』映画冒頭、志村正彦の声が映画に響く。森山未來の身体のキレっぷりもご鑑賞あれ】

モテキDVD-BOX (5枚組)

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モテキ (1) (イブニングKC)

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*1:世界の中心で愛は叫ばねぇな、これは。

*2:麻生久美子演じる女性が主人公に気がある事を瞬時に見抜く、カンの良い女性として描かれています。

*3:ただし違う意味ならば、余り想像出来る余地がない、というのが正直なところである。付き合う上で成長出来ないってどういう意味なんでしょう、本当に。