日本の殺人

 河合幹雄著『日本の殺人』を読んだ。
 日本の殺人事件をデータから解説しており感情論ではない丁寧な説明がなされている。そこから浮かび上がる日本の殺人事件の実態や捜査、刑務所での生活、そして出所後の生活についてまで細かく書かれている。特に法律によってどのような刑罰が与えれられているか書かれている点が興味深い。こういった事実を知っているか知っていないかでは殺人事件に対する考え方が変わるのはないかと思う。
 刑務所を出所した後の生活については非常に興味を持って読んだ。出所後は保護司が面倒を見るとの事である。この保護司は地場産業のオーナーが多く仕事の提供をしたりするのだという。しかしそういった人も昨今減っており、大きな問題の一つになっているとの事だ。
また前科者が次に犯罪をしない為に有効な方法が、仕事をして結婚をするという普通の生活を手に入れさせる事だと書かれている。この普通の生活というものの重みに正直ハッとさせられる。裁判員制度が施行されている現在、こういった出所後の生活等も考えずに、刑罰だけ決める事になるのだとしたら非常に厄介である。はたしてどこまで裁判員は考えて行動するのだろうか。
 「ニッポンの思想」「日本の難点」、「日本の殺人」と「にほん、にっぽん」という題名を三冊連続で結果的に読んだのだが、そこから見えてくるものというのは、今は転換期だということ。特に後者二冊は、問題を共通にしている一方で論者としての意見は裁判員制度において異なる。宮台は反対、河合は賛成という立場である。しかしこの論者の意見の異なりは、注目している点が違うから、賛成と反対で分けるのは正確ではない。宮台は裁判員制度によって情報が意図的に整理されること、国民の意見に司法が左右されることを問題にしている。一方で河合は、社会の住み分けが無くなろうとしている現在、裁判員制度に参加することで他人事から問題意識を持つことに意義を見出している。
(追記)河合幹雄河合隼雄の息子だとさっき知った。この本を買う時、本屋の店員に間違えて河合隼雄の『日本の殺人』をくださいと間違えていったのだけど・・・。名前が似ているのは偶然ではなかったのか。


日本の殺人 (ちくま新書)

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